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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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コンファレンス

今回の話は雰囲気で読んでください。


 町代祝、父母殺害のち逃亡。行方は掴めず。

 信じられない。信じたくない。すぐに探しに行きたかったが、忙し過ぎて無理だった。眉間を解きほぐす。冷たいお茶を飲んだ。

 パイプ椅子に沈み込む。ここは「隠れ家」--日本の「祓い場」に相当するブリティッシュシャーマンの異界--にある議場の裏だ。コンファレンス冒頭の挨拶があと一分ほどで終わる。次は早速僕たちのスピーチだ。一番手。婀歴は少々緊張しているようだったが、写魏はいつも通りだし、上止に至っては面白系動画を見てヘラヘラと笑っている。


「では、此度のイギリス(・・・・)主要都市政府壊滅(・・・・・・・・)をもたらした……現在進行形でもたらしているシャーマン連合指定抹殺対象についての情報共有を、日本の若者たちに行っていただきます」


 英語で紹介された。四人で登壇する。女性陣に対して会場中から溜息が漏れた。「バッドヒロインだ」「歩く地雷よ」「モンスターヤクザ」「ヴォル◯モードの後継者たち」「ご覧。280万文字喋るツ◯ッタラーだ」などとどよめく。三人は有名人らしい。僕が恥ずかしくなってきた。

 特に気にする様子もなく、パソコンをコントローラーに繋ぐ上止。スライドが前に映し出される。あっという間に静まり返った。皆真剣な面持ちだ。激しい憎悪を露わにする者もいる。何せテーマは、彼らにとっての不倶戴天の敵についてだ。ブーイングが飛んでくることも覚悟する。

 マイクを持つ。女子たちは椅子に座った。今日喋るのは基本的に僕だ。他の三人はサポートの役回りを担っている。スピーチは英語で行ったが、英語が出来ないマクラのために日本語に直してお送りする。


「五日前、三月二十六日の午後十七時ちょうど。英国議会の議事堂として使われる、ウエストミンスター宮殿がビッグベンの天辺(てっぺん)に、彼女は突如として現れました。十秒後、彼女によって、同宮殿を中心とする半径五百メートルが文字通り消滅。ウエストミンスタースクール、ヴィクトリアタワーガーデン、ロンドン警視庁、イギリス最高裁判所含めて。テムズ川を隔てた病院も半壊。消滅後の窪みには川の水が流れ込み、湖となりました。その後、ソーホー、メアリルボーンを突っ切り、シャーロック・ホームズ博物館の付近まで移動して、彼女の消息は途絶えました。ルート上にいたほぼすべての人間が魂を取られ、死亡しています」


 淡々と、事件の概要を振り返る。トップバッターとしての義務だ。ロンドンの被害状況をスライドで映した。「被害の詳細についてはPDF資料の補足をご覧ください」と言ってから、さらに続ける。


「四日前はオクスフォード、レスター、シェフィールド。三日前はマンチェスター、リバプール。二日前にカーディフ、スウォンジー、ブリストル。昨日にはグラスゴーとエディンバラが、ロンドンと同様の被害に遭っています。つまり議会の行われる建物及びその周辺が跡形もなく消され、大勢の人々が殺されている。今日はまだ、彼女は現れていないようですが」


 襲撃を受けた都市について羅列していく。会場の所々から咽び泣く声が聞こえた。二万を超える死者の中に、家族や友人がいたのだろうか。あるいは故郷が滅ぼされたか。

 イギリス南部における主要都市の壊滅的被害により、FTSE100などの株価指数は大暴落、さらに記録的なポンド安が起きた。金持ちの資産急落から始まる消費や投資の著しい冷え込みに加え、パニックと暴動の発生、犯罪の増加など、人的被害以外の経済への影響も、実体以上に深刻だ。それについても少し触れておくが、主として話したい内容とは違う。

 スライドを次のページへ。少女の似顔絵が映った。


「彼女、シャーマン連合指定抹殺対象の温矢くれむと僕は、十四歳の頃まで同じ養護施設で育った、いわゆる幼馴染です。彼女は誰よりも優秀でした」


 会場がザワつき、俄かに殺気立つ。手で制した。「もう三年半は会ってませんでしたから」と宥める。


「一週間前に『祓い場』で会うまでは」


 被害都市に残っていた禊力紋及び妖力紋と、「祓い場」のそれらを並べる。一致率99.9%。イギリスを襲っているのは温矢くれむで間違いない。逆にブリティッシュシャーマンたちからすれば、極東の術者異界で根守詛璃からエネルギーを奪って殺した不届き者が、彼らの仇と同一であることが示された形となる。

 最前列に座る、眼光鋭い老婆が挙手した。


「計測したのは?」「わ、私たちです。婀歴、写魏、上止のチームです」


 婀歴が答える。


「君らの腕は信頼に足るが。普段の研究はもうちょい人道に寄せなされ」

「心配どうも。ミセスロッテンバーグ」

「ミス写魏。根守はまあ天罰だが、花瀬のことは残念だった」

「気にしてませんよぉ。むしろせいせいしちゃったわ」


 上止がおっとり言う。


「競争相手が減って。ミセスロッテンバーグも早く昇天しあそばしませ」

「司会者。ガムテープを」


 上止の口を塞いだ。「日本の恥部が申し訳ない」と聴衆に謝る。皆に驚いた様子はない。むしろ和んでいる。「その三人は引き連れてる時点で公然猥褻罪っ」と軽いヤジが飛んできた。

 我が陣営の三人が怒り出す。静かな口調で反撃した。


「ローラ。私は恥部じゃない。橋絵と葉友梨はともかく。この前、有機物を文字として保存するコードを作ったんだけど。ねえ。人にかけたらどうなると思う?」

「ローラさん。恥部呼ばわりはやめてください。吸血鬼の暗示を再現してみたんですけど。どうです? 催眠されれば人は生きたゴキブリでも美味しくいただけるかもしれない。実証してみたくありませんか? 体を張って」

「もがもが」


 早口ののち、婀歴と上止が写魏を睨みつける。「橋絵と葉友梨はともかく」が気に入らなかったらしい。一触即発の空気だ。

 禊力で大きな黒のスカートを作った。三人にファサリと被せる。魔女の格好をした、ブラウン混じりの金髪女性ローラに礼を言う。


「ご指摘ありがとう。服を着ました」「まだノーパンだわ」

「おむつでいいですか?」「どうぞ。子守ご苦労様」

「夜泣きがもう大変で。スピーチに戻ります」


 推測も交えて、「祓い場」でのくれむの行動を説明する。灰學との戦闘後に開いた穴からくれむが侵入。三日間の潜伏。どうやって誤魔化したかは不明だが、あの「密談棟」で宿泊していた形跡があった。しかも、彼女は「寄奇怪界」で同棟に閉じ込められていたにもかかわらず、鼻歌混じりで外に出て行ったところを受付の女性が目撃していた。灰學にも無理だった芸当。

 シンと静まり返る。温矢くれむは、「覇人」に出来なかったことを安々とやってのけた。この事実が相当効いたらしい。話はまだ終わっていない。


「連結牢獄『寄奇怪界』のメインホスト、根守詛璃の捕縛後に彼女は現れました。それもいきなり。強力なデバフ効果の下で、まったく別次元の気配操作を行っていたのです」「ミスター当瀬。君が気づかなかっただけでは?」

「ミセスロッテンバーグ、彼は優秀な特別捜査士。『覇人』と互角に戦えるほどに凄腕。並大抵の隠密なら必ず見破る」


 スカートから写魏が出てきた。強い口調で反論する。「ミス写魏が嘘を吐くとは思えないが」とロッテンバーグは肩を竦めた。残念。こいつは嘘を吐く。「メインコンピュータルームの鍵に悪戯したか?」と尋ねれば、「花瀬と根守の仕業です。私は止めました」と濁った瞳で返してくるはずだ。

 死人に口なし。生者に嘘あり。


「『覇人』と実力が拮抗しとる。なら討伐作戦で役に立つはずだ」

「期待には応えましょう」「ところで」


 ロッテンバーグが、映写されたスライドを指差す。


「とても信じられんことが書かれているが」「はい」


 頷きを返す。彼女の気持ちはとてもよく分かる。この目で見た僕ですら、未だ半信半疑なのだから。が、プレゼンターとして落ち着いて返す。


「禊力と妖力を同時に展開し、とてつもない破壊力を持った事象を起こしました。彼女はそれを『白震』と呼称しました」

「有り得ない」


 ロッテンバーグは首を振る。


「冗談か、さもなくばヘルマン・ミンコフスキーの影響を受けた学生の夢物語だ」「はい。シャーマニズムの既存理論では支持されない事象です。が」


 画面を切り替える。非常に複雑な文様が描かれていた。再び会場がざわつく。

 婀歴が説明を引き継いだ。


「『祓い場』で計測された紋です。解析に今朝ギリギリまでかかりました。色分けしてるので見やすいと思いますが、妖力紋の特徴と禊力紋の特徴が重なっています。ただ、その二つでは説明の付かない部分がまだ多く残っています」

「なるほど。こりゃ複雑に絡み合ってる。それこそ、妖力と禊力を同時に使った者がいると仮定しなけりゃならんくらいに」

「素晴らしい仮定です。聞いたことがない」

「あんたが持ち込んだんだろ。まあ信じられんが信じよう。さてさて。温矢くれむの危険度はどのくらい上がる?」

「もうレベル:◯ジラじゃない? おばあちゃん」


 ローラが戯けて言った。二人は祖母と孫の関係なのか。場は朗らかな笑いで包まれる。

 バン! と大きな音がした。警戒する。


「コンファレンス中失礼します」


 議場扉が開かれただけだった。入ってきた男は敬礼し、ズカズカと正面まで歩いてくる。淡々と言った。


「ニューヨークのタイムズスクエアに温矢くれむ出現」


ギャグ解説:「ご覧。280万文字喋るツ◯ッタラーだ」は意味が分かりにくかったかもしれません。ツ◯ッターは日本語だと上限140字ですが、半角英数字換算では280字です。写魏たちは、その一万倍の量くらいツ◯ッターでしか言えないようなヤバいことを抜かすヤバい連中って意味です。


本来、研究者という人種にとって倫理関係の規則は絶対守らなければいけないものですが、倫理を守る研究者はキャラクターとして面白くないので、写魏たちはマッドサイエンティストとして扱っています。この世界では、シャーマニズムは実際に命のやり取りを伴う、軍事的な側面もある学問なので、人権侵害に関わる部分がかなり緩くなってしまっていると解釈してください。

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