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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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76/120

寄奇怪界


「やあヒブくん」「根守詛璃」


 写魏たちとは別に、探していた女と邂逅した。黒い化け物に襲われず、むしろ従えているようですらある彼女が、藤色の混じった茶髪をくるくるといじりながら、挑発的に僕を見つめてくる。


「ヒブくん。君は強いねえ。あの底泥亭を、五分もかけずに倒してしまうなんて」

「お前がやったのか」「陽の気を過半使ってしまった様だけどね」

「お前が全部仕組んだのかと聞いている」


 語気を強めて問い正す。ポケットに手を入れたまま、根守は肩を竦めた。


「違うと言ったら信じてくれる?」「無論信じない」

「だよねえ。こうやって、クッチーズと仲良くしてるシーンを見られたんだもん。もう言い逃れは出来ないね」「クッチーズ? ふざけた名だな」


 あと、元々言い逃れするつもりもないだろう。自分から姿を見せたのだ。


「仕方ない。とりあえず、犯人を追い詰めた探偵の様式美に則って、君の推理を聞かせてもらおうかな。答え合わせしよう。採点してあげる」

「じゃあ、分かっている範囲で語ろうか。お前がVOTE参加者を使ってこの牢獄を敷くのに、乗り越えるべきだった障壁はセキュリティ」「うんうん」

「セキュリティを司っているメインコンピュータルームに、なんとしても侵入する必要があった」「そうだねそうだね」

「幸いお前には優秀な仲間がいた。いや、優秀な仲間がいたからこそ思い付いた計画だったのか。とにかく、彼女たちを焚き付けて、強力な解錠術のプログラミングコード化に成功。マスターキーをゲット出来た」

「でも、マトやハユならいいとして、私如きがコードを回したら、確実にログが残る。計画前に暴かれちゃうんじゃない?」

「お前にはお前の得意分野があるんだろ? なあ禁術者」


 根守詛璃の後ろに控える、口の化け物どもを睨みつける。


「そのままじゃくっつかないはずの、良くないモノの集合体。改造なしでは不可能だ。その改造が、お前には出来る。どうやってかは知らないが、お前は良くないモノ、あるいは概念も、ある程度作り替えられる。牢獄の禍いか?」

「ふふふ。続けて」

「もう簡単だ。プログラミングコードを人為的に(・・・・)付喪神化させた。付喪神は形ある物が妖怪化した奴ら。情報は本来無形だが、概念的な性質を物に近づけられるなら、難しい話じゃない。付喪神によって、毎夜の決まった時間に、メインコンピュータルームの鍵が開くようになった。そして、愉快な仲間たちとの不法侵入とは別の夜、忍び込んで『祓い場』のセキュリティに細工したんだ」

「素晴らしい! 120点を上げるよ。ふふ。前にウカから証拠隠蔽について相談した時。ヒブくんは『執念の一人歩き』とか言ってたね。つまり付喪神化は事故だと。私、笑いを堪えるので必死だったよ」

「性格が悪いな。本当に悪人だ。花瀬卯架もお前が殺した」

「あらら。やっぱりバレてる」「バレたのを口封じしたんだろ」

「私が【畳】を使えるってパッシーから聞いた?」「もちろん」


 聞かなくとも推測は出来たと思う。確証は持てなかっただろうが。

 根守は変わらず飄々としていた。自分の手で友人を殺したというに、応えた様子はまったくない。ただのゴミを捨てたのと同じ。彼女は最初から、写魏たちに対して友情など抱いていなかったのかもしれない。苛立ちを抑える。


「火鼠たちのヘマによって自宅内『失踪』事件の手段が明らかになった。メインコンピュータルームの抜き打ちチェックで異状が察知される。花瀬にもバレた。これ以上は延ばせないと判断。『覇人』が寝ている隙に計画を実行した」

「あー、その辺の事情も分かっちゃうんだ」「杜撰だな」

「妖怪たちにはその方がウケが良くて。現場のノリが重視される企業風土なのかな」


 根守は笑う。呼応して、黒い化け物たちがゆらゆら揺れた。


「こうして私の計画も、ちゃんと実行されているわけだし」

「……分からないのは、計画の目的だ」


 推理は打ち止めだ。両手を上げてパーに開いた。


「一介の祓い屋研究職が、なぜVOTE参加者と繋がっているのか。どうして連続的に自宅内『失踪』事件を起こし、彼らを強化したのか。何を思って『祓い場』に連結牢獄を発動させたのか。動機が全然見えない」

「別にそんなのはどうでもいいよね」「僕にとってはどうでも良くない」

「ふーん? 経済やってる奴みたいなこと言うねえ。じゃあ教えてしんぜようか。うん」


 根守は指をパチンと鳴らした。上手い。爽快な音が響き渡る。

 化け物たちの注意が、僕に向いた。皆、唇なき口でニンマリと笑う。僕もスマイルを返した。一斉にアプローチしてくる。ラブコールは程々に。

 両手に【刀】を握った。低姿勢で素早く駆けて、近づく奴を切り回る。


「ヒブくんの戦いを肴にね」「コミュニケーションの基本くらい守れ」


 敵の数が多過ぎる。埒が明かない。ここは石畳が凸凹していて、少々足場が悪い。フィールドを変えたい。化け物のいない方角へと走る。

 ピューイ! 根守が指笛を吹いた。これも上手かった。地面が震動する。彼女の足元から巨体が現れた。瓦礫が飛び散る。

 頭は牛だが体は蜘蛛。牛鬼とかいう妖怪だったはず。悍ましく、おどろおどろしい姿だ。根守は牛鬼の背に騎乗した。僕を追いかけてくる。

 危険を感じて飛び退いた。地面に大きな亀裂が走る。牛鬼の切断能力。マクラに深傷を負わせた冴義理のものと似ている。規模は段違いだけれど。

 また使われた。【刀】で相殺する。牛鬼に背中を向けるのは冒険が過ぎる。移動速度を犠牲にするが、なるべくバックステップで進む。

 根守が口を開いた。


「どう?」「なんだ」

「美しいと思う? この『寄奇怪界』」「は?」

「奇怪な存在が人に寄生する会。寄奇怪会。VOTEをそう呼ぶ粋な文化があるよね? あやかってみたのよ。綺麗な名前。私の、牢獄を超えた牢獄にぴったり」


 愉悦をたっぷり含んだ艶やかな声音。恍惚と赤らむ表情。夢と希望に溢れていて、十九歳にしては幼過ぎる。話を聞いてあげなければ暴れ出しかねない危うさを孕んでいた。化け物を斬り飛ばしつつ、耳を傾けてやる。


「私の牢獄は、禍いとして昇華をもたらす。概念の次元を高める。ある日、牢獄そのものにもこの禍いをもたらせると気づいた。自らを昇華させた私の牢獄は、昇華の力がさらに高まっている。もっと昇華出来るようになる。昇華は繰り返される。他者の牢獄を束ねても崩壊しないほどに。基礎となる場の物理法則を書き換えられるほどに。延々と。永遠に」

「永遠なんて不可能だ。個人のアウトプットじゃ四、五回が限度――っ!?」

「ふふ」


 豊かな胸を突き出して、両手をいっぱいに広げた。


「どこまで行けるか試してみたい。『祓い場』。次に日本。やがて、世界全部に私の『寄奇怪界』を張る。世界を、私だけの世界に変えたいな! そう思って!」

「お前」

「だから、膨大なエネルギーが必要なんだよね。たくさんの人間の魂が要る。でもね。集めるのに一人じゃ足りない。だから妖怪に声をかけてみたんだ。色々あって、紆余曲折あって、祓い屋憎し、祓い屋が邪魔、妖怪優生のVOTE参加者と組むことになった。人の肉は要らなかったから、彼らにあげた。タッグ相手が邪魔そうだったから、肉片にしてやって、昇華の応用で魂を縛り付けた」


 あまりにも幼稚な動機だった。彼女自らどうでもいいと評したのに、思わず納得してしまう。そして、予想よりもずっと行き当たりばったりだった。計画が実現したのは、(ひとえ)に根守が超有能だったからだ。

 ナンセンスと悪態を吐きたかったが、呆気に取られて言葉に出来ない。怒りなど疾うに通り越している。


「うん。それだけなんだ」


火鼠は妖術の進歩で人の干し肉化が可能になったと思っていたようですが、それは勘違いです。彼は妖気の感知が下手だったため、頭のおかしな根守を妖魔の類と思ったのでしょう。

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