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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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密談棟


 聞きたいことは抽出し終えた。火鼠は殺す。小鬼は尋問途中で死んでしまった。死体は燃やす。化け狸のみ生かしておく。あとで「祓い場」に連行し、VOTE担当班に役立ててもらう。資料提供だ。

 殺害後、小鬼と火鼠の霊青線はすでに無くなっていた。マクラのスマホで得票数を確認する。十票増え、二十五票。化け狸も、頸動脈あたりを抉り、霊青線を切っておく。直ちに三十票に増えた。どういう集計メカニズムなのか。票が変化する様子を、婀歴は興味深そうに眺める。

 妖怪三匹の体から、微弱な陽の気を発する肉の塊を取り出す。こんなものが「人間」で、しかもまだ「生きて」いる。感傷を覚えずにはいられない。正直、すぐにでも魂を解放してやるのが一番だと思う。


「ごめんなさい、まだ生きててください」


 しかしそう言って、婀歴に引き渡す。どういう術を使ったのか調べる必要があるからだ。一切の情を排した上での技術的な話だが、僕に同じ処置が出来るかと言われると、出来ない。不可能。生首に三十分ほど魂を保たせるのがせいぜいだ。

 写魏が戻ってくる。口の化け物による陰惨な食事現場へと、彼女は人払いの結界を施していた。「被害者には悪いけど」と前置きしながら話し出す。


「自宅内『失踪』事件の真相には大きく近づいたね」

「ああ。すぐ『祓い場』に行こう。史引先生を通じて、VOTE対策班及び自宅内『失踪』事件班と合同ミーティングのアポも取っておいた。約四時間後」

「橋絵、『祓い場』への門は?」「あ、あと十分で開くと思います」


 祓い屋の異界へと繋がる道は、特殊な術式を描いた札によって開く。起動するまで一時間。拷問前から準備していた。余談だが、特別捜査士になった直後、僕にも支給されている。

 ようやく開いた。再び気絶させた化け狸を背負って潜る。エセ六角堂、長い階段、二重門を通過して、すぐ近くにある妖怪収容施設に化け狸を引き渡した。

 時計を見る。正午前だった。婀歴に尋ねる。


「飯を食べながら秘密の会話が出来る部屋ってありますか? ミーティングで報告する内容をまとめておきたくてですね。向こうが議事録を書きやすいように」

「は、はい。あります。一部屋一部屋が異界になっていて、中での会話が外に漏れない建物が」「通称『密談棟』」

「わ、私たちなら、申請すればすぐ使えます」「常連なので」

「なるほど。やばい研究を進めるのに好んで使ってそうだ。写魏たちは」

「失敬な。ルールを破ったりこそしないけど、橋絵の研究テーマも大概やばいから。VOTEを効率化して、祓い屋社会の政治選挙でも採用しようとか言い出した女だから。ちな私も共著」「……へ、へへへ」


 婀歴は赤面し、舌をちょろっと出している。誇らしげに照れていた。

 持ち帰りサービスもやってる海鮮丼屋でランチを購入し、「密談棟」とやらへ赴く。正式名称ではないらしいが、祓い屋の学生は皆覚えていないと言う。

 受付で、特別捜査士の手帳を見せたら無料で入れた。カラオケボックスみたく部屋を指定される。「祓い場」における手帳の効力は凄まじい。資格の便利さを実感する。大学に入ったら、行政書士や統計検定くらいは取っておいてもいいかもしれない。

 見た目はやっぱり寺だが、中身は明るい内装のホテルだった。ふかふかの絨毯を踏むと、靴越しに弾力が返ってくる。本来想定されている用途は「密談」ではなく、ただの宿泊だったのではなかろうか。が、利用説明には二十二時までには出ていくように、二十三時には強制追放されると書かれている。

 突発的な発作など緊急時の対応が遅れるなどで高い機密性が後から問題となり、宿泊利用が禁じられたのだろうと推測する。


「あ、あ、あ、あの」「どうしました? やけに上擦っておられますが」

「ちょ、ちょっとした『休憩』に、利用していかれる方もいるらしいですよ……そ、その、ラ、ラ」

「ら?」「ラブホ! 的な感じでっ」


 婀歴はそう叫んだ。

 頬は赤く、挙動不審に瞳を動かし、両手の人差し指を突き合わせている。昨日とは打って変わって、今の彼女は綺麗な格好をした美女である。絶句せざるを得なかった。写魏も固まる。先ほど見かけた知らない猫又の情事が、脳裏に濃くフラッシュバックした。体温が上昇する。

 どうしてそんなこと言うんですか? 欲求不満な男子高校生をからかって何か楽しいですか? 口はパクパクと動くだけだ。声が出ない。写魏と二人並んで競歩を始める。「廊下は走っちゃいけません」という規則がなければ走っていたところだ。

 指定された部屋に辿り着く。服の下は汗ばんでいる。


「ごめんなさいっごめんなさいっ」


 慌てて婀歴が追いかけてきた。泣いていた。謝罪が廊下を反響する。「気にしないでいいですよ」とは言えない。僕自身が全力で気にしているからだ。

 扉の鍵は、手帳をかざせば開く仕様となっている。急いで手帳を取り出そうとした。落とす。動揺し過ぎだ。深呼吸して心の荒波を抑えた。よし。

 掌をかざす。手帳を拾っていなかった。


「生体認証式じゃないよ日文さま」「忘れてた」


 写魏が拾ってくれた。受け取る。


「落ち着こう日文さま。橋絵。ここは『密談棟』。ここは『密談棟』だから」

「そうだった。忘れかけていた」「あ、あはは」


 ようやく部屋に入れた。にっこり笑う。フローラルだが、どことなく掻き立てられる香り。ご丁寧にも、シャワールームとシングルベッドが設置されていた。

 虚空に向かって叱責する。


「泊める気ねえのにシャワールームとシングルベッド設置するなっ!」


おかしいですね。こんな浮かれたシーンを書くつもりはなかったんです。

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