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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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処理


 先ほど錠破りしたガラス製の扉を通り、外へ出る。

 静かな所だ。道路交通やテレビのノイズも、子供の声すらも聞こえない。庭の木がそよ風に揺れる音と、鳥の囀りがぼんやり響いているだけだ。

 閑静な雰囲気にはまったくそぐわない、邪悪な気配が三つある。侮蔑の情と観察の念が僕たちに向けられているのを感じる。陽の気、妖気に対する表現をすれば「人気(じんき)」を一応発しているものの、ぐちゃぐちゃで弱々しい。半死半生どころか、九死一生水準だ。気配の主は人ではなく、感知出来ない者……つまり妖怪である。

 人と妖怪が共にいる。VOTE参加者なのだろうか。タッグを組んだ人間について、半殺しにでもして体にくくりつけているのか。随分と乱暴である。契約段階では人間側の合意が必要なはず。福利厚生面の待遇で大きな嘘を吐いているのだろう。立派な詐欺罪だ。


「いるんだろ。姿を見せろ。三、二、一。【矢】【矢】【矢】」


 隠れている三体に【矢】を打った。一体に命中。残り二体は辛うじて回避している。「次は一人五本のサービスだ」と脅すと、民家の塀から三匹の妖怪が現れる。奇妙にも、彼らのどこにも人の体は引っ付いていない。

 矢の刺さった小鬼、化け狸、あと火鼠。多分。


「肩に当たったのか。落武者スタイルだ」「うるさいな、痛えんだよ!」

「火鼠。また会えたな。随分禍々しくなっちまってるが、どうした?」

「ふふ。パワーアップというヤツじゃ。もう前のワシではないぞ」

「処分した元祓い屋代わりの、新しいパートナーは見つかったのか?」

「まあな」「ペアの姿がどこにも見えないが」

「カカカッ!」


 火鼠は高笑いした。左手の親指で、自らの頸動脈辺りを指す。


「ここじゃ」「は? 人間側が妖怪の中に入り込んでいるのか?」


 眉を顰める。霊青線は、人の右手と妖怪の首元を繋ぐ。マクラが右手に収納出来るのだから、逆に僕の身柄もマクラに収納させられるのでは、と一度試してみたことがある。恐らくVOTEの参加者なら誰もが考える可能性だ。しかし無理だった。

 マクラの匂いを嗅いだだけに終わった。想像より甘い香りだった。


「ちと違うぜ。埋め込んでるんじゃ。ギリギリ魂を保ってられる限界まで小さな肉片にしてなぁ」「……なんだと?」

「妖術の発展は日進月歩じゃ。あんな小さな干し肉になっても『生きて』られるとは」「足手まといがいなくなってせいせいしたぜ」

「良きものですねぇこれは。霊青線を晒さずに済みますし」


 嗤う三匹。目を見開く。絶句する。VOTEのルール上、参加権利をそのまま保持するためには相方を生かしておかねばならない。だから、生半可な人間とタッグを組めば足枷になる。それは分かる。でもあんまりだ。この抜け穴は酷過ぎるだろ。

 命をなんだと思ってるんだ。胸糞悪い。吐きそうになる。生き地獄だ。たとえ悪人であったとしても、決して受けていい所業ではない。

 歯を噛み締めた。拳を握り込む。


「戻せないのか?」

「カカカ。お湯をかけたら戻せるんじゃないかのう?」

「ギャハハッ! やってみよーぜ! あっついのでなぁ!」

「マジレス致しますと、限界まで削ぎ落とされてるんですから、もう無理じゃないですかねぇ。安心してください。感覚も意思も全部失ってますからねぇ。痛くも苦しくもありませんよ。恐らく」

「害悪認定されるぞ。祓い屋の駆除対象だ、お前らは」


 三匹は顔を見合わせる。ハッ、と鼻で笑った。僕を舐めているのはもちろん、恐れていない。余裕がある。祓い屋に追いかけられて、生き残れるほどの実力があるようには見えないが。

 逃げ切る秘策がある。少なくとも奴らの主観で逃げられると考えている。聞いたら教えてくれるだろうか。黙秘されるか、嘘を吐かれるかもしれない。

 沈黙する僕を見て、小鬼が再度鼻を鳴らす。


「ギャハハ、怒ってるのかお前!」「ひゅう、熱いですねぇ」

「若いのう」「背中が痒くなりますねぇ。正義ぶってるというか」

「人間なんてくだらねえ連中なんざ、どうなってもいいんだよ! 俺が棟梁になったら、奴隷化計画立てて人間狩りやってやるぜ!」

「棟梁になるのは俺じゃ」「いや、僕なんですねぇ」「あんだ!?」


 恥ずかしくなるくらい、幼稚で愚かな会話だった。三十秒でも聞いていれば腸捻転を起こしかねないストレス。もういいお年齢(とし)だろうに。


「よく喋る奴らだな」


 自分でも驚くほどに、冷え切った声が出た。


「VOTEはタッグ形式のバトルロワイヤル。自分の力に自信があるなら、まず隣の二人に勝負を挑んだらどうだ」

「んだとっ!」「それじゃあチームとして成立しないじゃろ」

「先に君みたいなボケカス野郎を排除するんですねぇ」

「化け狸、なぜ僕が参加者だと……ああ。妖怪ならVOTEのプレイヤーかどうかお互い分かるんだっけか。そうだ。はは。はははは。徒党を組まなければやっていけない雑魚が。人間を自らの踏み台としか思えない馬鹿どもが。お前らにリーダーの資格はない」


 挑発した。妖怪どもの表情が憤怒に彩られる。煽り耐性のない奴らだ。マクラの方がよほど棟梁に向いている。

 ここで僕らを始末すると決めたのだろう。三匹とも構え始めた。

 背後の写魏たちに尋ねる。


「無力化くらいしてもいいよな?」

「構わない。日文さまが言った通り、明らかに駆除対象。殺してもいい」

「あ、当瀬さん」


 婀歴も口を開く。かなり険しい声音だった。


「あの三匹、人を喰らった妖怪特有の変化を起こしいます」

「なるほど。パワーアップ、か」


 火鼠がジグザグに突進してきた。名前の通りに炎を纏う。激しく火花が舞っている。見た目だけは派手だ。

 さらに、前に遭遇した時よりも速くなっている。


「焼け死にさらせェっ!」「許せる余地はまったくないな」


 頭に拳を叩き落とした。固いコンクリートにめり込む火鼠。放射状に亀裂が走った。呆気なく気絶する。

 直後、緑に燃える弾が四方より来る。化け狸の技だ。紫に波打つ【刀】を左右の手に作り出し、すべて真っ二つに切る。左の刃を狸に投げた。でっぷりとした腹に突き刺さり、勢いのまま地面に縫い止める。

 はたと気づいた。小鬼がいない。逃げたのか。威勢だけは良かったくせに、なんとしょうもないゴミなのだろう。

 奴には僕の【矢】が刺さっていた。逃げてからまだ数秒ほどだ。運よくゲートでも見つけられていなければ、まだ操作可能範囲の中にいるはず。


「愚図が」


 吐き捨てる。奴に突き立てた【矢】の禊力と僕の意識とを結んだ。分解し、体内へと注入し、喉から下を攪拌する。手足胴体を散り散りにしてやった手応えがあった。首だけとなり、軽量化に成功。

 禊力とともに引き寄せる。

 萎みかけている命、抜けかけている魂を、残った肉体に無理矢理留めた。三十分は保つ。唇が弱々しく動いた。耳を傾ける。「コロシテ」と言っていた。無視でいい。

 写魏と婀歴が、人払いの結界を張っている。気が利く。化け狸の腹から【刀】を引き抜いた。逃げられぬよう足を引きちぎる。火鼠も同様。二匹とも、泣き叫びながら目を覚ます。

 電柱の根元に戦利品を並べた。敵の脳は情報の塊だ。


「じゃあ尋問を始めようか。聞きたいのは主に二点。口だけ唇なしの黒い化け物に心当たりは? あと、他に仲間はいるか?」


 質問事項はゆっくり丁寧に伝える。


「キリキリ答えろ。直接脳に尋ねるのは面倒だ。嘘吐いたらキンタマぶっ潰す」


 頭だけの小鬼を見た。自分の失敗を悟る。


「あっ。残しとくべきだった」


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