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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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「祓い場」の少年少女


「ここが祓い屋さんの異界? 風情はなんとなくあるね」

「寺の中身はまるで別物だ」


 エセ六角堂から街に続く階段を降りる。町代を伴って。彼女は昨日、用事があって来れなかった。午前七時に起きて、灰學からもらったゲートのお札を使って連れてきたのだ。禊力の使い手として登録しておくのと、あとVOTEの参加者として一緒に証言してもらう。謝礼が出ると話したら喜んでいた。

 現在は午前九時。朝食はまだ取っていない。かなり腹が減っている。マクラが起きて、右手から出てきた。


「おはよう」「おはようだぞ」

「町代はもう食べたか?」「まだだよ。お腹ペコペコ」

「じゃあ何か食べに行くか。朝のオススメはどこだったかな」


 昨夜の歓迎会、学生の一人から教えてもらった店の場所を思い出す。無事に見つけた。入ってテーブル席に座る。

 VOTEについての聞き取り調査は、午後二時から行われる。昼飯の後だ。その際、ついでに特別捜査士のタブレットが支給されるらしい。ようやく事件の資料をじっくり眺められる。

 朝ごはんの後はしばらく時間がある。「祓い場」はアミューズメントパークではないが、スポーツセンターやゲームセンターはそれなりに充実しているようだった。が、遊びは聞き取り調査の後にする。午前は町代の禊力操作訓練と、マクラの勉強に当てる予定だ。遊びにばかりかまけてはいけない。昨日灰學と模擬戦した第二グラウンドでなく、設備が充実しているという第一グラウンドで行う。


「ブレイクファストバーガーセット三つください。この狛犬には残飯で」

「おい」「ん。カスを食べるんじゃなかったか?」「カスじゃない霞だ」


 待ってる間、VOTEの名簿を見る。聞き取り調査の予習だ。現在の一位は「轍破(わだちやぶれ)」の五十票。二位は蟲蜥蜴底泥亭の四十票。三位は一つ目ナイセキの三十五票。

 驚く。天狗の葉烏、百足鬼の鋼丸が脱落している。トンだ番狂わせだ。残念ながら名簿には、誰が誰を倒したのかは記載されていない。が、一位から三位の誰かにやられたのだと推測は出来る。

 目を細めた。「轍破」。前から気にかかっていた。本当に誰なのだろう。祓い屋のデータベースで検索したら引っかかるだろうか。白々燐は変わらずタッグなし。参戦する意思はもうなさそうだ。

 名簿をスワイプする。新しく参加した妖怪の名前を探し、記憶した。

 一つに興味を引かれる。ゼロ票だが。「真似九頭子」。おかしな名前だな。どんな奴なのだろう。


「お待たせしました。ブレイクファストバーガーセットでございます。あとすみませんお犬のお客様。残飯は切らしておりまして」

「うん。切らしてなかったら持ってきたという反実仮想の方を謝ってね」

「当店は食材をなるべく余さず使い切ろうという方針でございますので」


 エコだ。丁寧にお辞儀をしてから店員は去っていく。後ろ姿が凛としている。


「なんか面白い店だね」「オススメされるわけだ」

「このバーガーおいしいぞ。特にアボガドロが」「アボカドな」

「え? 私、アボ()ドだと思ってたよ」「ややこしいのは分かる」


 和気藹々と会話する。その途中、鈴の音が鳴った。扉が開く。少年一人少女二人の集団が来店してきたようだ。恐らく中学生くらい。子供だけで喫茶店に来れる。着ている服も高価なものだ。民の血税のおかげからか、「祓い場」の懐事情は寒くない。

 少年の一人と目が合う。男にしては可愛らしい顔立ちだ。彼は「あ」と口を押さえた。フラフラと近づいてくる。嬉しそうに叫んだ。


「当瀬日文さんですよね!」「そうだが。指名手配でもされてたか?」


 戯けて返す。少年はノってこなかった。代わりに、追ってきた仲間たちに対応する。三人全員、顔立ちがよく似ていた。


「むん?」「誰なの?」

「アミもリサもちょうど補習受けてたから知らないと思うけど。昨日あの『覇人』と戦って、それで互角だった人!」「ああ、例の」

「ふん! 石済灰學なんて! わたしにかかればイチコロよ!」


 気の強そうな方の少女が、居丈高に言い切った。

 訝しむ。あまり大きな実力は感じない。爪を隠す能ある鷹なのか。違う。成長途上にある町代の方が、ひょっとすると強いかもしれないレベルだ。

 慣れているのか、他の二人も相手にしていない。不遜なセリフを吐いた少女に一瞥だけくれるが、視線はすぐ僕に戻ってきた。名乗ってくる。


「ぼくは姫毎(きいつも)奈図十(なずと)です。ほか二人は従妹です」

「わたしは姫毎亜美々(あみみ)です。残念な方は梨沙々(りささ)

「誰が残念な方よっ!」

「双子の姉妹です。十六歳の誕生日。無能と判断された片割れは始末されます」

「そうなのっ!? いやあっ!?」「嘘」


 いきなり双子コントをかましてきた。祓い屋という異質な存在の世界ならもしかしてあり得るのか。そう思わせてくるのがポイント。つい最近、猫又の里で類似した事例にあったばかりだ。

 僕らも面白いやりとりを披露すべきなのか。マクラに目配せした。バーガーに夢中だった。口まわりにソースがこびりついている。ティッシュで拭いてやった。


「昨日特別捜査士になったばかりの当瀬日文だ。大人しそうな少女は町代祝。犬はカムイ。こっちのアホそうな猫はマクラ」「ど、どうも」


 町代はペコリと頭を下げた。姫毎奈図十は目を輝かせる。


「お友達ですか? それとも恋人?」「恋人なんてそんな。お、恐れ多いよ」

「友達と言えば友達だし、弟子といえば弟子だ」

「弟子を取ってらっしゃるのですか!?」


 姫毎奈図十は机に手をつき、ズイッと身を乗り出してきた。なんともオーバーリアクション気味な少年だ。とにかく仰け反らざるを得ない。結果、隣のマクラに体を押し付けてしまった。「ひゃんっ」と高い声が響く。

 びっくりした。お前そんな音出せたのか。


「えっと。半ばなし崩し的に禊力の使い方を教えるようになったんだ」

「昨日の試合、最前列で見てました! 本当に凄かったですよね! どうしてあんなに強くなれたんですか!? 僕にも禊力の使い方教えてくださいよ!」

「近い近い。安心しろ。叫ばれなくとも大丈夫だ。耳栓とかしてないから」

「こら奈図十。失礼じゃない。離れて差し上げて」


 少年は、従妹の片割れに引っ張り上げられた。ようやくマクラから離れられる。「こんな奴に籠絡されてたまるか」という気持ちがあってこそフラットな関係を保っていられるのに、理性が若干揺らいでしまった。

 真島柿に怒られそうだ。深呼吸して思考を整える。


「教えるのは別に構わないが。祓い屋の見習いには指導教員がいるものじゃないのか? 形式上、後で僕にも誰かが付くことになってるらしいが」

「高校生になってからです」「そうなのか」

「ぼくはまだ中一ですから。春休みが終わって中学二年生に進級します。禊力の本格的な修行はまだ始めてなくて。一応使えはするんですけど」


 大妖怪ギツネからは、「祓い屋の養成学校では、禊力椽転が出来るようになるまで、通常一年のカリキュラムを組んでいる」としか聞いていない。詳しい学習課程は知らないのだ。

 この少年は、その段階は過ぎているよう。だが、禊力を使った実戦練習は行っていない。


「規定に反しないのか? つまり、中学生以下は禊力のみだりな修行を禁ずるみたいな決まりがあったりは?」

「しません。ちゃんとした実技授業が始まるのが高校に入ってからで。各家庭で家庭教師を付ける分には構わないはずです。ぼくらにはいないんですが」

「なるほど。うーん。この後、午前に町代たちと訓練するが、見学するか?」

「いいんですか!?」「君らに用事がなければ。いいよな町代」

「うん」


 笑って頷く。嫌なのを我慢している様子はなかった。彼女には並外れた集中力がある。周囲のノイズなど気にしない。


「やった。アミとリサはどうする?」「行ってみる。補習よりは面白そう」

「わたしはどっちでも。まあナズとアミがどうしてもって言うなら行ってあげてもいいわ」

「なら帰れば?」「うん。帰ればいいじゃん」


 姫毎梨沙々は頬を膨らませる。


「行くもん!」


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