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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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不法侵入

すみません、写魏のルームメイトが「花織」になってました。正しくは「花瀬」です。


 自習スペースは天井が高く、モダンなデザインの机も相互に間隔が開いている。オープンな印象の空間だった。隅っこに喫煙室がある。教員も利用するのか。

 カフェも兼ねており、誰もが知る二つのチェーンが店舗を構えている。競争を誘発しているのだろう。値段は安いがどこかギスギスしている。


「仲が悪いので有名」「そりゃそうだろうな」


 仲が良かったら談合を疑うべきだ。二手に分かれて注文する。一方に集中し、もう一方の店舗スタッフに恨まれたら敵わない。


「黒糖ハニープラスアーモンドミルクのオルゾラテ」

「日文が頼むのっていつも名前長いぞ」「常に最適解を探ってるから」


 机はどれもコンパクトだ。六人席はない。三人席を二つ繋ぐ。座ってから、改めて顔ぶれを眺める。僕以外全員女子だ。マクラは除外するとして、四人の綺麗なお姉さん方に囲まれている。緊張せざるを得ない。

 外見的特徴として、全員、ヘアカラーが常人とは異なっている。アルビニズムの写魏がプラチナなのはともかく、他の三人もだ。上止葉友梨は黒に黄緑、花瀬卯架は黒に桜、根守詛璃は茶髪に藤が混じっている。染めているわけでもなさそうだ。天然発色。

 あと、何がとは言わないが、根守さんが特に大きかった。吸い寄せられる視線をどうにか逸らす。

 ニマリと根守さんに笑われた。気づかれてしまったらしい。話しかけてくる。からかわれるかと身構えたが、別の話題だった。


「さっきのバトル見たんだけど、すごかったねえ」「そうか?」

「謙遜はよしなよ。あの『覇人』石済灰學と互角に戦える人なんて、戦闘専門でも滅多にいないんだからさ」「でも、灰學は本気を出してなかった」

「あれに本気出されたらここが潰れちゃうでしょ」


 花瀬卯架がボヤく。まあ、少なくとも神の帰還と同程度のダメージはもたらしそうだ。根守さんが続ける。


「それに。君も本気じゃなかったよね」

「殺し合いでもなかったしな。一つ聞きたいんだが、ハジンってなんだ?」

「石済灰學の二つ名だよ」「二つ名だって? そんな恥ずかしい文化があるのか」

「恥ずかしい? 恥ずかしいの? 名誉じゃないかな。ねえみんな」


 聞かれた他の三人は、「うん」「名誉だわ」「私も欲しい」と皆一様に好意的だった。なんてことだ。恐ろしい。高校では、そういう「またの名を◯◯」という発言を行う輩は白い目で見られていたし、それが世間のスタンダードだと思っていた。文化的差異を覚える。


「マクラも欲しいぞ」「じゃあニート猫」「ヨシ! じゃないっ」

「心配しなくても、当瀬君にもその内付けられるわ。二つ名」

「上止さん。どうにかして回避出来ないか?」

「『虚月』とかどうかしら」「『黒神』とかいいと思う」

「シンプルに『天無』は?」「シンプルを追求するなら『影驥』なんてどう?」

「あっそれ分かりやすい」


 頭を抱える。高校生活で学んだ社会常識の基準に照らすと、あまりに痛過ぎるトークだった。

 とはいえ、確かに僕は、バトルのクライマックスで、【朔】という「新月」「黒」「無」「影」を連想させる技を放った。もっと印象に残らないものにしておけば良かったと後悔する。そして「影驥」のどこがシンプルで分かりやすいのだろう。一行以内で簡潔に説明して欲しい。

 マクラは、ストロベリークリームソーダを勢いよく吸った。


「いーなー。日文はかっこいいのがつけてもらえそうだぞ」

「かっこ良くてもマナー違反だ。お姉様方、この猫又に何かいいのを考えてやってくれ」

「うーん、強そうにも賢そうにも見えないけど」

「実際に弱いしバカだ」「でも可愛いじゃん」「猫又にしちゃ大きいよね」

「『イリオモテヤマ猫又』とか」「いいわねそれ」

「灰學もそう呼んだが。本当に一体、こいつのどこから西表要素が出てくるんだ?」「なんとなくかな」「なんとなく」「なんとなくだわ」


 揃ってテキトーらしい。肩を竦める。沖縄の生物なら、ヤンバルクイナの方が合っていると感じる。天敵となる肉食動物があまりいなかったせいで飛べなくなった、という間抜けな進化がマクラっぽい。あれは猫じゃなくて鳥だが。


「話戻すけど。なんで『覇人』と戦ってたの?」

「特別捜査士の資格を得るため」「あっ。史引先生そう言ってた」


 写魏は納得し、しかしすぐに首を捻る。


「なぜ特別捜査士の資格が欲しかったの?」

「……怪異絡みのとある事件について、詳しく知りたかったからだ」


 少し濁して答える。写魏は「ふーん」と頷き、深掘りはしてこなかった。ホットコーヒーを一口飲んで、スマホを触っている。代わりに花瀬が口を開く。


「捜査資料を欲しがるってことは、それから何か分かる自信があるってことでしょ? 日文君って名探偵も出来たりしちゃう?」

「いや。名探偵を期待されても困る。僕はただの高校生だ」

「『ただの』ってことはないっしょ。バトルの最後に【朔】って技使ってたけどさ。あんなのその場で組み立てるなんて、すごく頭良くなきゃ出来ないから」

「あれは奥義の一つでね。褒めてもらって光栄の至り」

「祓い屋とは元々無関係なんでしょ? どこでそんなに強くなったの……気になるけど。後でいいや。頭の良さそうな日文君に、ちょっとばかし相談があって」


 花瀬がそう切り出すと、他の三人の表情が少し強張った。


「あれを話す?」「外に漏れたら不味い案件だと思うわ」

「だからってこのまま放置はやばいじゃん」「客観的な意見は欲しいよね」

「日文さまはチクらないと思う」「仕方ないわね。一か八かだわ」


 覚悟を決めたようだ。どうやら何事か隠蔽しているらしい。まさか研究費の横領でもしているのか。それなら遠慮なくチクる。相談に乗ってるフリからの密告だ。

 四人は目配せし合った。写魏に視線が集中。溜息を吐き、彼女は事情を告げ始める。


「教育棟のエントランスで、術式のプログラミングコード化について研究してるとグダグダ話したと思うんだけど」「聞いたな。面白かった」

「えっ? あ、ありがとう。ゴホン。研究は、別に一人で全部やってるわけじゃない。他の三人も私と同じセミナーのメンバーで、共同で作業してる」

「なるほど。コミュニティで横に繋がれるのか。写魏でも友達が出来るわけだ」

「ほっといて。最近まとめた研究に、『強制解錠術のコード化』がある。あ、もちろん不法侵入が目的じゃない。まあ出来るんだけど」

「強制捜査やスパイ活動に重宝しそうだ」

「うん、狙いはまさにそれ。加えて認可申請書類管理用の金庫やぶ……ゲフン」

「ん?」


 聞き捨てならない自供があった気がした。空耳だろうか。

 写魏は首を縦に振り、コーヒーを飲み干した。「もう疲れた。誰か変われ」と告げる。花瀬が引き継ぐ。


「コード化はひと段落。研究室でちゃんと動くこともチェック。やったね! これで技術革新一歩前進! とは楽観出来なくて。実践出来て意味があるタイプのリサーチだから、もうちょっとちゃんとしたサンプルを取って安心したいわけ。そこで効果を試すため、オートロックがかかる深夜の教育棟に忍び込んだの。鍵が手動な男子トイレの窓から」

「不法侵入じゃないのかそれ?」

「ふふ。熱き魂に水を差す規範は破られても仕方ないのよ」


 上止が、上品に笑いながらそう言った。結構やばい連中である。チクるかどうか迷うラインだ。ギリギリを攻められている。オルゾラテに口をつけ、「美味しいな」と現実逃避する。判断を先送りにした。

 余談だが、男子トイレ窓の鍵が手動な点も気になった。女子トイレ窓はオートロックなのだろうか。

 説明が根守さんにバトンタッチされた。


「そこで、一番セキュリティがガチガチなメインコンピュータルームに行ったのね。『祓い場』ネットワークの心臓部。ここを開けられるなら、私たちの研究が非常に有用だという証明になる。解錠コードを起動したら、見事成功。十五分間経ってから再ロック、バレる前にコソコソと逃げ帰ったよ」

「罪の意識はあったのか」

「警備士が来た時は焦った」「始末するかどうかで迷ったわ」

「バレた時の処理(・・)は大変だからねえ」「でも総じて楽しかったかなー」


 四人は朗らかに笑い合う。訂正しよう。罪の意識はなさそうだ。異常者の集団である事実が徐々に明らかになってきた。背筋が冷たい。


「結局相談ってなんだ。お前らの認識が狂ってること以外何も分からない」

「問題はここからよ」「すでに問題だが?」


 上止が人差し指を立てる。


「侵入から五日経って、証拠抹消の必要性にようやく気づいたのよ。オートロックのログにアクセスしたわ。深夜解錠の記録を消そうとしたの。すると、驚愕の事実が判明したの」

「驚愕の事実だって?」

「なんと、解錠コードの試験運用以降、毎日同じ時刻に十五分間、メインコンピュータルームのロックが解除されてたの!」


 叫ぶ上止。自習スペースの利用者は僕たち以外にはいない。カフェの店員は奥に引っ込んでいた。


「そりゃ大変だ」

「私たちのコードが暴走している! でもそのメカニズムが分からない! だから止められない! これからもずっと回り続ける! 夜の決まった時間にメインコンピュータルームのロックがオープンしちゃうのよ! 控えめに言ってヤバい! 防犯の観点から誠によろしくない! いずれバレる! その前に報告しなきゃマズい! でもやっぱり怒られたくない!」

「そこで日文さまに相談」


 四人がじっと見つめてきた。真剣だが暗い目だ。仰け反る。


「どうやったら隠し通せるかな?」


 求められているのは名探偵ではなく共犯者だった。なんと愚かで性根の腐った連中だろうか。

 猫又の里で祠を壊した時の自分を棚に上げて、僕はそう思った。


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