宝かゴミの二択ならゴミ
自宅内失踪と資産家の奇病についても、各々の資料を見せてもらった。それぞれ被害者は28人、24人。かなりの数だ。
正午までもう少し。マクラはひどく腹を空かせている。全ケースの詳細まで目を通す時間はない。概要だけ眺める。自宅内失踪は、文字通り、人が自宅で「失踪」している。厳密には肉と魂を妖怪に喰われて死んでいる。いなくなっているのは喰った妖怪だ。まるで足取りが掴めない。「その場でパッと現れて、人を喰った途端に存在が消失しているとしか思えない」と、正直な心情が吐露されている。
もう一つ、資産家の奇病。時価にして約二億以上の資産を持つ人々が、次々に不審死するという事件だ。死に方がえげつない。数十秒から数日、体液という体液を流し尽くし、ボロボロになって苦しんだのち、死ぬ。気味が悪い。金持ちが憎いのだろうか。妖怪の痕跡は残っているが、今まで確認されたどの種類とも異なる。ごく最近生まれたオリジナルか。被害者の死体にこびりつく妖気から追跡を試みているほか、最新の術式を用いて姿形を再現しようともしているらしい。
真島柿殺害との関連は、現時点では何も言えない。時間が足らなさ過ぎる。後でゆっくり考えたいものだ。
灰學とともに昼食を取る。正倉院らしき出で立ちの建物でカツ丼を食べた。ポイントが8失われる。円にすれば大体1200円。マクラと二つ食べたので、一つにつき600円だ。にしては量が多かった。
「見習い御用達の店だから」「なるほど。コンビニはないのか?」
「ある。ロ◯ソンが。見た目じゃ分かりにくいが」
「牛乳瓶の代わりに一升瓶なのか?」「生臭坊主の闇出店かよ。ロゴは一緒だ」
この後仕事があるという灰學と別れる。僕にも明日バイトの案内がやってくるようだ。
祓い屋は、突然始まったVOTEに対して後手後手の対応を迫られている。妖怪により不本意に参加者にされた人々を助けるのも彼らの役割だ。が、被害者とのコンタクトが取れておらず、イマイチ実態を掴めていない。恐らく、妖怪側が祓い屋の介入を警戒している。相次ぐ事件に伴う労働力の分散も相まって、保護活動の進捗は芳しくない。そこに現れたVOTE参加者の僕は、担当部署にとっての救世主。ぜひ調査の協力を願いたいとのこと。
ポイントもくれる。手を貸さない理由はない。
午後七時に、教育棟のエントランスで灰學と待ち合わせだ。適当に夕食を済ませてから、宿泊用に開放された寮部屋へと案内してくれる手筈となっている。社会人になってから祓い屋業に従事するなら、そのままずっと使ってくれても構わないと言われた。好待遇だ。人材不足を実感する。
約束の時間まで暇だ。事件の考察をしてもいいが、資料を映す端末がまだ手元にない以上、無駄に終わる可能性が高い。星2.5とはいえせっかく「祓い場」に来たのだからと、探検がてらぶらつく。どの建物も見た目は寺だが、入ってみると中身が違う。ギャップが面白い。スマホを開く。好意的なレビューと星5を付けてやった。
時刻は午後三時。マクラが指を差す。
「日文。ソフトクリームが売ってるぞ。マクラ食べたいなぁ」
「確かに、間食にはちょうどいい時間だな。バニラ。抹茶。コーヒー。いちご。すみません。スタッフ考案チャレンジングテイストとありますが、これは?」
「本日は『コールドスプレーを浴びたばかりの女子高生フレグランス』味となっております」「チャレンジングですね。色々」
ほんの少しだけ気になるが、挑戦する気にはならなかった。無難に二人ともバニラを購入する。3ポイント減った。パクつきながら会話する。
「この後どうしようか。図書館があるなら行きたいが」
「マクラは嫌だぞ。まじめな本は見るだけで気持ち悪くなるからな」
「ゲームでもしとけ」「持ってきたはずなのに、なぜか数学ドリルになってた」
「そっか。なら数学ドリルをやれ」
スマホが鳴る。知らない番号だ。無視せず「もしもし」と出る。先ほど聞いたばかりの声が返ってきた。
『日文さま。こちら写魏』「なぜ僕の電話番号を?」
『さっき貸してくれたでしょ。その時控えた』「まあいいが」
『ここにはどのくらいいる?』
「とりあえず二泊三日はするつもりだ。春休みの間はかなりの頻度で来ると思う。その後もちょくちょく足を運ぼうと思ってる。稼ぎが良さそうだから」
『外と比べればとても高所得。禊力使える時点で希少人材。祓い屋は治安維持に必須なのに。需要に対して供給が少な過ぎるおかげで、国がたくさん金を出してくれる』
「税で運用されてるのか。公務員だな。歳出ではどういう名目で勘定されてるんだ?」『廃棄物処理施設整備費』
妖怪って廃棄物扱いなのか。マクラを見る。宝かゴミの二択ならゴミだが、さすがに不名誉だと感じた。
『退治してるの悪い妖怪だし』「悪いからゴミというのも違う気がするが」
『とにかく。継続的に祓い屋と関わるつもりなんだね』
「資格ももらったしな。自分の目的だけ果たしてサヨナラ、は不義理だろ」
『じゃあ。ここでの人脈作りは大事と思わない?』
間断なく頷く。
「もちろん。早ければ早いほどいい」
『今から会える? 私の友達、紹介してあげる。みんな優秀。将来は理事になるかも』「期待大だな。株を買っておきたいくらいだ」
『教育棟右斜め向かいに道がある。入って真っ直ぐ。角を右に曲がったところにお喋りおっけな自習スペースがある。そこに行って』「了解」
言われた通りに動く。待つこと五分、女性が四人現れた。写魏もいる。彼女のプラチナヘアはよく目立つ。他の三人もかなり大概な髪色だが。地は黒髪か茶髪なのに、所々にパステルカラーが発現しているのだ。それぞれ黄緑色、桜色、藤色。
再会早々、写魏は謝ってくる。
「ごめん。あと二人ほど呼びたかったのだけど。用事があるみたいで」
「失礼なこと聞くが。友達いたのか?」「すごい失礼だな」
「ごめんね的乃ちゃん。私たち実は式神だったの」「え?」
「ぼっちな的乃が寂しくないようにって作られたんだ」「ぱ?」
「マト、あなたは真実を知ってしまった。もう一緒にはいられないよ。それじゃあね」「そっそんな!? 待って、行かないで――」
写魏は、ふわりと浮かぶ「友人」へと手を伸ばす。涙目だ。
が、三人はすぐに地面に降りてきた。
「というのは冗談で、私は的乃ちゃんの友達、上止葉友梨です」
「右に同じく花瀬卯架」
「さらに右に同じく根守詛璃だよ」
「当瀬日文です。よろしくお願いします」「素の口調でいいのよ」
呆然とする写魏を残し、自習スペース内に赴く。外部者の入館を制限するセキュリティゲートがあったものの、特別捜査士の身分を示す手帳を押し付ければ通れた。
後ろから、頬を膨らませた写魏が走って追ってくる。金魚のスイホウガンみたいだ。相当お怒りである。
「極悪非道。なんでこんな騙すようなことするの。信じてたのに」
「信じる者は足を掬われるわ」
言われた途端、セキュリティゲート直後の段差でコケる写魏。頭のぶつかる音が鳴る。痛そうだ。
上止葉友梨は性悪そうに微笑む。
「ほらね」
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