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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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構ってちゃん


 合法ロリ天国猫又シティ訪問から一週間後の土曜日。僕のアパートから自転車で30分の距離にある、稲荷系の神社にやってきた。階段を登る。町代は息を切らさなくなった。体力がついてきたのか、あるいは階段の登り方を覚えたのか。頂上まですぐ辿り着く。

 汚かったお狐様の像は、いくらか綺麗になっている。来る度に二十分ほど掃除しているのだ。そして先客がいる。


「おはよう」「あっどうも」

「燐じゃないか。どうした?」「別に。暇だっただけ」


 白々燐が来ていた。「あー暇だわ」と言いながら、妖怪スマホをポケットにしまう。三週間前にもここで会っている。物見遊山か。

 あるものはなんでも使う。彼女には妖怪たちの指導に回ってもらうことにした。

 すでに三月の初め。暖かくなってきた。真冬と比べたらの話だが。三学期末も近づいている。そろそろテスト勉強に向けて本腰を入れねばなるまい。来週は禊力の訓練を休みにしたい。その分今日明日はみっちりとやる。

 町代の掌に、薄紫の波がゆらゆらと揺蕩(たゆた)った。


「素晴らしい。だいぶ安定してきたな」

「ねえ当瀬くん」「なんだ町代。練習中に話しかけてくるなんて珍しい」

「白々燐さん、ホントに暇だったからここに来たと思ってる?」


 質問の意図が掴めない。が、頷いておく。


「ああ。本人がそう申告したんだから」

「違うよ。あれは言い訳。下手くそ過ぎるけど。白々燐さんは当瀬くんに会いに来たんだよ。妖怪ズ担当になった時の残念そうな表情、見てなかったの? ちゃんと彼女に構ってあげて」


 背中を押された。町代の見立てによれば、白々燐は構ってちゃんらしい。とりあえず頃合いを待つ。

 カムイは休憩、マクラは写経を始めた。写しているのは、妖怪京都で買い与えた牢獄についての教科書である。ほぼ一週間経つのに、新品同様の綺麗さ。まったく読んでなかったらしい。心配になる。

 とにかく、白々燐は手隙となった。構ってあげるチャンスだ。


「燐。今日は着物じゃないんだな。シックなジャケットもとても似合う。紺のジョガーパンツと合わせてクールだ」「そう。ありがと」


 青く長い髪の毛をいじり出した。毛先まで綺麗に整えてある。初めて会った時には少し荒れていたのだが。爪はとても滑らかだった。ネイルはない。メイクは軽めのファンデーションと、目の周りを少々整えているのみ。雪女は冬の乾燥と無縁だ。リップクリームすらしていない。香水はバニラ系。ただしとても薄めている。外見からコツコツと会話の糸口を探す。

 戦略が整う前に、白々燐が「ねえ」と口を開く。


「あの猫又、なんでサイズが変わってるの?」


 やはり聞かれたかと感じる。誰もが気になるビフォーアフターだ。マク◯ナルドポテトのSとLくらい違う。察知しない奴はむしろアホである。


「当瀬日文はロリコンじゃないのよね」「その通りだ。理解してくれて嬉しい」

「認めましょう。ロリコンじゃない。まさか。常に横にいる女児を、好みの外見に近づけたいと、成長促進薬を作って飲ませたんじゃないでしょうね?」


 睨まれる。死角からアッパーを喰らった気分になった。いくらなんでもまさか(・・・)過ぎる。考えもしなかった。そもそもとして、マクラから異性の魅力を摂取しようだなんて無謀もいいところだった。

 強い口調で言い返す。


「そんな薬が作れるのなら、当瀬万能薬カンパニーの設立を宣言し、一週間で◯塚製薬と小◯製薬を超えてやる。一番の売りはエリクサーだ」

「それ知ってる。不老不死の妙薬でしょ? ファンタジー小説で読んだ」


 ネタに乗っかってくる。意外だった。白々燐はファンタジー小説を嗜んだりするのか。修行と勉強の合間にミステリーを少し読む程度のイメージだった。


「ほとんどの人間に、不老不死にする価値はないわ。当瀬日文と違って」

「僕を褒めてるのか? 長く生きるのも大変なんだなと学んだばかりだが。まあどうも」「勘違いしないでよね。能力を認めてあげてるだけなんだから」

「能力だけでも君に認めてもらえて、天に昇るほど嬉しいさ」

「ふん。当然ね」


 機嫌が良くなった。白々燐は満足そうに笑う。変な疑いは持たれずに済んだらしい。冤罪は不幸しか生まない。信じるはハピネスである。


「ねえ当瀬日文。九さんと最近会ってる? 元気?」

「九さん? ああ、大妖怪ギツネのことか。会ってないから分からない」

「ふふっ。なにその呼び方」「生活費とかは変わらず振り込まれてる」

「一人分でしょ? 猫又養えてる?」

東京(・・)で一人暮らし出来る金をもらってる。余裕はある。それにバイトもしてるし。ちゃんと食わせてやってる。ゲームだって買ってやった。幸せに生きてるよあのバカ猫は。ほら見ろ」


 マクラを指差す。


「あの安らかな寝顔」「こら寝るな! ちゃんと勉強しなさい!」


 声を荒げる白々燐。労働条件がいいとは言えないが、先生役はきっちり果たそうとするらしい。責任感がある。マクラは跳ね起きた。「ごめんなさいだぞお母さまっ!」と叫ぶ。定番の勘違いだ。妖怪ズの勉強が再開される。

 町代を眺める。自分との対話に没頭していた。質問があれば自発的にしてくるだろう。暇になる。スマホを開き、ニュースサイトを見る。

 大火災、死者二百五十名超え。局地的な災害にしては多い。冥福を祈る。「何度も爆発音」「煙に混じる甘い匂い」「火事場近郊で銃撃戦?」などの追加的な情報も見かけた。ただの火災じゃなさそうだ。

 他にも事件が起きている。見出し「自宅で家族が行方不明:ただし致死量の血痕あり」に目を細めた。似た事件が複数続いている。警察は関連性を疑って、同一犯グループによる連続殺人事件として捜査しているようだ。他にも、「資産家の相次ぐ不審死:原因不明の奇病」などがある。物騒だ。

 勘が囁く。人間業じゃない。妖怪が犯人だ。

 怪異絡みの、殺しのガイシャ。「真島柿」と小さく呟く。


「よっす」


 途端、後ろから声をかけられる。振り返った。ちょうど会いたかった奴が来た。

 応答する。


「やあ灰學」


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