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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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ありふれた高校通いの目立たぬ最高峰実力者〜銀髪の猫耳美少女と繋がっちゃいました。毎日イチャイチャして充実ライフを過ごしてます〜


 妖怪の世界から帰ってきた翌日、月曜日。学校が始まる。真島柿のいない教室に皆すっかり馴染んでしまったのか、彼女の恋人だった僕に対して、よそよそしい雰囲気は完全になくなった。逆に親しげに接してくる人も出てきている。これは、僕が前よりジョークを多く飛ばすようになったからかもしれない。元々、頭で冗談を考えはしても、それをペラペラと喋るタイプではなかったのだ。

 マクラに取り憑かれた影響で、口が軽くなっている。

 ふと、未交の席を見てみた。普段なら、真っ先にとは言わずとも、必ず僕に挨拶してくるはずだ。いない。先週金曜の夜に起こったという、戦後最大の大火災に巻き込まれたのかと心配になる。その日は旅行前で早くに寝ており、夜にテレビはつけていなかった。土日もニュースは見ていない。よって事件を今朝知ったのだった。

 彼女の欠席について、武良咲先生は朝礼で言及した。ただの風邪だそうだ。安心する。

 連絡された事項は他にもある。物理の教師が欠勤しているようだった。大火災によって身内が不幸にあったらしい。はっきりとした身元確認のため、現場近くに向かったとのこと。月曜の三時間目が物理だった。自習かと思いきや、休んだ教師はなぜか、僕を代行として指名していた。授業に穴が開くと試験範囲が狭まるという理由でだ。当然のこと困惑するが、お金をくれると言われたので了解しておく。

 クラス中の男子から守銭奴呼ばわりされた。「待て」と諌める。


「仕事に見合う金をもらえるなら人は動く。最も有名な物理法則だ」

「なんだよ当瀬、もう授業か?」

「学びは授業だけじゃなく、どこにでも転がっている。這ってでも探せ」

「女子、当瀬先生に注意しろー。ああ言ってスカートの下を覗くつもりだ」

「このむっつりスケベ!」「太ももフェチか!」

「バカ言うな。僕はただ、社会に新しい風を吹かせるための心構えをだな」

「女子、当瀬先生に注意しろー。強風を起こしてスカートを捲るつもりだ」

「行動力のある変態!」「極悪非道!」


 失礼な奴らである。「当瀬先生ならまあいいよ」と女子の一人が発言し、背筋が凍りつきそうなほどの殺意が僕に向けられた。

 変化と言えばそのくらいだ。概ねいつも通りという言葉の範囲内で時間は過ぎる。放課後は町代と待ち合わせだ。事前に、今日は禊力の訓練をせず僕のアパートで話し合いがしたいと連絡アプリで伝えてある。その後に受験勉強と。

 町代は素直に来た。適当に会話しながら、三十分ほど歩いて自宅に赴く。玄関の扉を開き、彼女を招き入れた。扉を閉じたのと同時に、マクラが右手から飛び出してくる。


「ひゃっふぅ! ドライフルーツだぁっ」「だから手を洗え」


 またこのパターンだ。糸を引っ張る。マクラはゴロンと転がった。成長したからか床が軋む。


「頭蓋骨を開いて脳まで洗ってやろうか」「それは洗脳と言うんだぞ」

「えっと。ねえ」


 町代は震えながら、おろおろと尋ねてくる。


「マクラちゃん、なんか色々大きくなってない?」

「その辺りの話も含めて、報告し合おう。君にもあるだろ、話そうと思っていたこと」

「まあ、うん。そうだけど」


 ちゃぶ台の上に緑茶とお菓子を並べて、カムイ含めて四人で座る。今日は妖怪京都土産の和菓子だ。オレンジピールが練り込まれた羊羹や胡桃入りの月餅などを並べる。パクパクと頬張る町代。


「これは太っちゃうよ。お茶も美味しいね。合わせると無限にいけそう」

「お菓子はカフェの店員さんが勧めてくれたもの。お茶は、妖怪世界のコンテストで優勝した茶園の葉で作られた最高級煎茶だ」

「優雅だよ。良家のお嬢様になった気分。妖怪がいなければの話だけど」


 マクラとカムイは互いにスマホを突き合わせ、熱心にゲームをしている。妖怪スマホ限定配信のアプリで対戦しているらしい。マクラはゲームが好きだ。スマホゲームに限らない。一日一時間までと注意しているが、「未来からの先取り」と称して毎日三時間やっている。

 日本財政並みの超過債務だ。


「精神年齢は変わってないね。でもやっぱりすごく大きくなってるよね? 前は140センチくらいだったのに、今はどう見ても160はあるし。か、体つきも……いったいなんでかな?」

「マクラの里帰りに付き合ったら神に遭遇」「はい? 神?」

「なんやかんやで神の力をもらってマクラが急成長した」

「なんやかんやって何!?」


 鋭いツッコミが入った。仕方なく、六百年の月日を生きる化け猫との戦闘、及びその苦労を語る。町代はちゃんと聞いてくれた。


「土壇場で初挑戦の技に成功するって。主人公みたい」

「僕が主人公の作品か。どんなタイトルだと思う?」

「なんだろう。『ヒブンセキブン』?」「理系を売りにした芸人コンビか?」

「『ありふれた高校通いの目立たぬ最高峰実力者〜銀髪の猫耳美少女と繋がっちゃいました。毎日イチャイチャして充実ライフを過ごしてます〜』」

「なんだその痛々しい長文は」


 眉を顰めた。盛り込み過ぎだ。小説表紙にすべて収めるにはうるさい。大妖怪ギツネの時代以前と違い、最近は名詞でなく文のタイトルが多いのは知っているが。「高校生、バカ猫を飼う」くらいがちょうどいいだろう。

 町代は項垂れた。「痛々しいかな……」と呟く。ちょっと落ち込んでいる。彼女は小説を書いていると前に聞いた。もしかして、そういう感じのタイトルを付けているのだろうか。僕の感性が一般とズレている可能性はあるものの、やめた方がいいと思った。


「えっと。実際にイチャイチャしてはないよね?」「してないしてない」

「私なんかよりも可愛いし、スタイルもいいけど。正直なところ?」

「前途多難だ。バカ猫に欲情するなどプライドが許さない、そういう気持ちでなんとか理性を保っている」「まだ二日くらいしか経ってないよね?」


 猜疑心の籠もった目で見られた。咳払いして誤魔化す。

 ちょうど妖怪どものゲームバトルが終わった。マクラからスマホを取り上げる。

 画面に「YOU LOSE...」と表示されていた。


「こらっ返せ! 負けっぱなしは猫又の恥!」

「どうせ恥だらけの人生だろうが。VOTEのリストを見るだけだ。すぐ返す」


 画面に名簿を表示する。マクラの項を拡大した。

 前までゼロ票だったのが、十五も入っている。


「町代にも五票入ってる。襲撃されたな?」

「う、うん。でも、式神七つ、全部使って撃退したよ」

「おっと。我がバディは嘘を吐いている。正確には襲撃の前、事前の確認と称して一つだけ作動。上半身を脱がして腹筋を撫で回していたよ。ズボンを剥ぎ取る勇気はなかったようだ」「こっこらカムイ! 言わないって約束したでしょ!?」


 真っ赤になる町代。多感な時期だ。僕と町代の立場が逆であれば、同じことをしていた可能性はある。怒りはしない。


「安心しろ。生殖可能なようには作ってないから」

「なっ、え、えっと違う! 違うの! 違うんだから!」「何が?」

「げほっげほっ! とにかく! 撃退したの! でもおこぼれで、私も一人倒したんだ。禊力がちゃんと発動したの。見様見真似で、当瀬くんの【矢】っぽいのが出来たんだよ!」

「へえ、それはすごい。なるほど、先週よりも陽の気の流れが澄んでいたわけだ」


 賞賛する。拍手した。町代は照れて頭を掻く。実戦経験を経て大きく成長したようだった。訓練計画の前倒しが必要だ。


「町代も主人公みたいじゃないか」「そ、そうかな」

「タイトルは『ちくわの子』だぞ、あはは」

「生まれて初めてお母さんを呪いたいって思ったよ」


 マクラのセンスに、町代は頬を引き攣らせた。それから、VOTEのリストに目を落とす。僕や町代含めてかなり票数が変化している。また、一桁台だった脱落者もおよそ三十まで増えた。


「この土日で、盤面が一気に変わったよね」

「ああ。そこそこ強い奴らで結託、弱い奴らを一掃しようという動きか」

「ん? あれ?」「どうした」

「一人につき倒したら五票だよね?」「ああ」

「私に襲いかかってきたのは三人」


 彼女は指を三本立てた。一本折って、不思議そうに首を傾げる。


「当瀬くんの式神が倒したのは二人だけだよ」


 五掛ける二は十。マクラに入っていたのは十五票。

 奇妙な五票が引っ付いている。


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