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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第二章 寄奇怪界

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自宅内『失踪』のプロローグ

第二章スタートです。


『番組の途中ですが、緊急ニュースです。○○県××市△△町で大規模な火災が発生、繰り返します、○○県××市△△町で大規模な火災が発生しました。原因などの詳細は今のところ分かっておりませんが、SNSの書き込みで、火災発生時には大きな爆発音が聞こえたとの情報が複数確認されています。映像や写真等の投稿もまた散見されます。が、現場付近に止まるのは大変危険です。現場すぐ近くの人々は警察や消防の指示に従って直ちに避難し、身の安全を確保するよう努めてください。付近に住むも自宅が確実に被災の範囲外と判断した場合は、警察や消防の活動を妨げぬようなるべく自宅に待機していてください。宿泊施設を利用されている方々なども同様の対応をお願いします。自分から近づくような真似は絶対にしないでください。火災に巻き込まれずとも、煙に含まれる有害物質などで二次的な害を被ってしまう可能性は十分に考えられます。……只今、死傷者の情報が入ってまいりました。現在死者は六名、重傷者は二十二名確認されているようです。救急車の搬送が追いついておりません。軽傷者は多数。すみません、新たに三名の死が発覚いたしました。大変な事件です。付近の人々はくれぐれも自分の命を最優先に行動してください。ただいまヘリからの撮影が始まりました。映像が入って参りました。ご覧ください、火が煌々と、轟々と燃え盛っております。逃げる女性の姿も見られます。子供を連れているようです……ああっ!? 爆発が起きましたっ。ビルが倒壊っ、ビルが倒壊しておりますっ……彼女たちは無事でしょうか……具体的な規模については映像のみでは分かりませんが、第二次世界大戦の終戦後では最大級と思われます。もう一度言います。くれぐれも、くれぐれも、自分から見に行くような危険な真似は決してしないでください。新しい情報が入り次第またお伝えします』


 金曜日の夜だった。バラエティ番組は再開せず、引き続きニュースが流れる。

 パジャマ姿の男が、リモコンを手に取りテレビを消す。


「大変だなぁ」「大変だわ」


 夫婦の感想はそれだけだった。東日本大震災の時と同じく、どこか現実感が湧かなかった。妻は缶ビールをグイと飲み干し、流水で空き缶を洗う。ゴキブリの出る時季ではないが、いつもの癖だ。

 手持ち無沙汰になった夫は、普段読まない夕刊の後半に目を通し始める。有名な芸能人の五回忌。外国のスポーツリーグの結果。金融業での帳簿整理に従事する彼にとっては、どうでもいい記事ばかりだ。

 銀行傘下の消費者金融。金の回収に恫喝などはしていない、健全な会社である。現在は。

 肘をつく。バブル崩壊など色々あったとはいえ、法改正のある2000年代前半までは良かった。昨今は羽振りが良くない。特に若者からの需要が伸び悩んでいる。賃金上昇率の停滞に、職の流動性が上がってから信用力のある奴が少し減ったのと、そもそも思い切って消費者金融から借金してみようという気概が小さくなってきているのと。


「ねえあんたさん」「なんだいママ」

「正二は春休みいつ帰ってくるかな」

「さあ。あいつにも友達と遊ぶ計画くらいあるだろうし。来月の中旬に一週間程度じゃないか。変な女か宗教に捕まってなきゃいいが」

「そうねぇ。最近は変な宗教あるらしいわね。あれ。異次元のきんゆーかんわとかってヤツ。リフレ教って言うんだっけ?」

「まああれは信仰の域だわな。苦しい時の金頼み。技術とか、出生率とか、もっと根本的なパフォーマンスを向上させる政策の方が望ましいだろうに」

「あっ。そのスルメ。あとあげる」


 ほぐれたイカ肉が入った袋を妻から手渡される。まだ半分ほど残っていた。ガジガジと噛む。塩辛い。夫はどちらかというと甘党だった。

 さりげなくゴミ箱を見る。彼の視界の端で、黒い何かが蠢いた。


「ん? ゴキブリかな?」「えっ? この季節に? 殺虫剤ないんだけど」

「ちょうど読み終えた新聞がある。これで叩き潰そう」


 彼は新聞をクルクルと丸めた。昔はこうして剣を作って、チャンバラごっこで遊んだものだ。『ダ◯の大冒険』全盛期。ア◯ンストラッシュを久しぶりに炸裂させてやろうと意気込む。

 ゴミ箱の裏を覗き込んだ。


「ねぇいた?」「んー、見つからないなぁ」

「いるならいるでまあ問題ないんだけど。でもなんだかさ、奥歯にスルメが詰まった気持ち悪さがあるし」「俺はそれ嫌いだな」

「私たちに姿を見せずにひっそり生きててくれりゃあ良いのに」

「まったくだ。一緒に探してくれないかな?」「はいはい」


 キッチン周りを共同で捜索する。途中、三年前から替えるのをすっかり忘れていたゴキブリホイホイを発掘した。中のゼリーは乾き切っている。

 二人して笑い合った。

 夫婦の背中から、黒い何かが近づいてくる。音もなく、気配もない。

 二つの口をガバリと開けた。夫婦が振り返った時にはもう遅かった。

 喰われる。一瞬で。血がびちゃりと飛び散った。咀嚼され、飲み込まれてゆく。


 肉のみ喰われた人間は地縛霊となって怨念を撒き散らす。

 魂のみ喰われた人間は妖怪の傀儡となる。

 魂と肉を共に喰われた人間は消滅する。


 プルルルルと電話が鳴った。息子の正二からだった。


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