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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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逆走のエピローグ


 モウフは生き残った。彼女の命と生活については、お母様にしっかりと保証させた。とりあえずマクラの寮部屋で、隣室の猫又に世話を任せるらしい。世話係の人となりは確認し、問題はないと判断した。

 これにて一件落着。

 会食を行った場所、朱の御殿で一晩眠ってから、午前八時には妖怪京都に向かう。あまり長く猫又の里にいると、貞操が危険と判断したからだ。

 ドキドキニャンニャンパラダイスが開催されてしまう。クミンからの追及がしつこかった。最後まで紳士的に受け流した僕は偉い。

 行きの案内役だった黒猫が、またついてきてくれた。石済との約束の時間は正午だった。腕時計を見る。あと二時間。マクラの新しいスマホを契約してから、「三色かふぇ」に入って席を取る。それでもまだ三十分早かった。ストリートに面した椅子だけのものでなく、建物の中にあるきちんとしたテーブル席だ。

 マクラは僕の中にいる。神の不思議な力で成長しても、霊青線の繋がる位置は変わらなかった。喉だ。首輪を付ける位置。男子高校生が小学六年生を飼ってる絵面も問題だが、男子高校生が同い年の女子を従えている絵面もやはり問題である。知らない人がたくさんいる場所では、マクラを出すのはやはり控えたい。

 まだ注文しないが、ランチタイムのメニューを眺めた。きのこスパゲッティが美味しそうだ。


「なあ黒猫さん」「にゃー?」


 首を傾げた。イ◯スタに上げたいほどに可愛い。癒されそうになる。これから少し真面目な話をする。ゴホンと咳払いした。


「新しいマクラのスマホ。色々と設定するついでに見てみたんだが。昨日のゲート情報だよ」「にゃー」

「僕の街から妖怪京都を経て猫又の里へ行くのに、より近い道筋を発見した。わざわざ祠を通るまでもなく、妖怪京都から里中心部正門までダイレクトに行けるルートだ」「にゃーん」


 黒猫は鳴くばかりだ。この答え合わせ(・・・・・)は、ただの自己満足でやっている。問題ない。「黒猫さん」と問いかける。


「お前、最初から僕に金の巫女を救って欲しかったんだろ」「にゃー」

「猫又たちと遊んでから里の裏事情に巻き込まれるまでの流れが、明らかに出来過ぎなんだよ。特に【矢】が、祠の結界術式を壊した場面」

「にゃ」

「大妖怪ギツネが言ってたが、妖術には運命操作系のものがあるらしいな。字面ほど強力じゃない。十分起こり得る偶然を、一つ二つ必然にするくらいの効果。お前はそれを使ったんだな?」


 動物でも、上位の妖怪に使役されているうちに妖怪化することはある。

 眠そうに大あくびする黒猫。どこかわざとらしい。


「目的はなんだったんだろうな?」「にゃーん」

「例えば、単純に少女がかわいそうだったとか。あるいは長く続く生贄文化を時代遅れと憂いていたとか。まったく。猫又たちよりもずっと文化的じゃないか。四足歩行とバカにしているうちに立場が逆転するんじゃないか? なあマクラ」

『むぐぐ。うるさい! 下賤な四足歩行を褒めそやすな!』


 マクラは悔しそうに呻く。銀の舞姫がこうもポンコツでは、支配層の転換も近いだろう。ひょっとすると、二百年後に猫の神が呼び出されることはないかもしれないなと思う。


「にゃー」

「まだしらばっくれるかMVP。すみません、この猫様に最高級ランチコースを一つ!」「はーい、かしこまりましたー」


 店員さんが元気に応える。イタチの丸っこい耳が頭に生えた、どことは言わないが大きい看板娘さん。つい目で追ってしまう。『おい』とマクラから注意された。

 肩を竦める。

 しばらく待っていると、祓い屋見習い石済灰學が悠々とやってきた。


「ちわっす」「よう」

「どうだった? 合法ロリ天国猫又シティは」「いかがわしさが爆発してるな」


 合法でも豪放磊落というか、少しの法改正で警察が踏み込みそうだ。通報リスクが高過ぎる。


「ちっちゃな女の子に目覚めたりした?」「まさか。ありえない」

「君の方は子猫たちからモテそうだけど」

「モテはしたな。人生で一番。アグレッシブな種族だったよ。神を召喚するくらいに」「それが昨晩起きてた騒動の原因か」


 再び店員さんに呼びかける。料理を注文した。灰學が彼女と雑談すべく、さりげなく口を開きかける。この店を指定したのはそれが狙いか。

 すると向こうの方から、「あの」と話しかけてきた。どちらかに興味を持っていただいたのか。二人して居住まいを正す。


「お二人はその……付き合ってらっしゃるのでしょうかっ!?」

「「…………はい?」」


 昭和の漫画スタイルでズッコケそうになった。店員さんは俯きながら赤面し、ちらちらと視線を投げかけてくる。


「参考までにお聞かせ願えないでしょうか。なぜそう思った?」

「えっと、美男子が並んでいたので。昨日も一緒にいましたよね? そうだったら嬉しいなって。すごく嬉しいなって!!」

「いやいや。ただの友人です。昨日会ったばかりの」

「そうそう、たまたま意気投合しただけであって」

「きゃーっ! イキトーゴーだなんて! とてもえっちだわ! ああっ薄い本が生まれちゃう! 双子の薄い本がっ!? 早速戦友(なかま)に連絡しなきゃ! あっお写真撮っても?」

「あ、ああうん」「別に」

「よっしゃあ! 人生で最高のモデル確保っ! るるるんるん♪」


 興奮したように叫び、ステップで去っていった。注文を忘れてなきゃいいが。

 あの人の副業は、聞かない方が良さそうだった。


「アグレッシブなのも良いと俺は思う」「恋は盲目だな」

「恋かぁ。これが恋。なあ、日文には彼女とかいる?」


 唐突に尋ねられた。話題的には繋がっている。

 僕は目を伏せた。


「いた。真島柿厨荏。明るくていい女だったんだ」「過去形?」

「こないだ変死した。まあ事故死なんだろう」「おう」


 灰學は、申し訳なさそうな顔をする。


「すまない。悪いことを聞いた」「良い。気にするな」

「ん。待てよ。真島柿……?」


 引っ掛かりを覚えた声で言って、しばらく黙り込む。

 祓い屋見習いの様子に訝しむ。「どうしたんだ?」と問いかけた。ハッとした表情になった灰學は、身を乗り出して捲し立てる。


「思い出したぞ。現場研修で見学させられたんだよ。真島柿厨荏。十七歳。事故死じゃない」

「は?」


「怪異絡みの、殺しのガイシャだ」


 静寂。思考の空白。上手く言葉が出てこない。

 口の中が乾き切る。額から落ちる冷たい汗。


「え?」


 少しずつ進み始めていた時計の針が、逆走を始めた心地がした。


第一章はこれでおしまいです。章を追加します。

もしお暇があれば、感想を書いてくださると大変喜びます。


次回更新は一週間後です。

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