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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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ドキドキニャンニャンパラダイス


 ゲートを抜けると、古びた祠の前に立っていた。中には大きな水晶が入っている。黒猫に挨拶を促された。一礼してから歩き出す。

 妖怪京都と違って寒い。まさしく冬の真っ盛りだ。コートを羽織る。周りは木々で覆われていた。森である。春夏は無数の葉で彩られるのだろうが、今は禿げている。木の足元には、汚くなった雪が残っていた。微かに川の水音が聞こえてくる。妖怪の里自体は異界系妖術のはずだが、本物の自然としか思えない。ヴァーチャルリアリティは形なしだ。

 すぐに森を抜けた。田畑に覆われる集落が見えてくる。その入り口で、子供の猫又たちが楽しそうにボールで遊んでいた。全員メスのようだ。


「あれがお前の故郷か?」

『違うぞ。里にはいくつか集落がある。あそこはその一つだ。マクラが住んでるのは里の中心地なんだぞ。ドヤ』


 外からざっと眺めた感じ、電気ガス水道諸々、ちゃんと通ってそうだ。どの建物もきちんと手入れされているらしく綺麗である。ただデザインが古風で高い建物もないため、実質よりもだいぶ廃れて見えた。施設を出てから三年弱しか経っていないが、都会の価値観に染められている。

 猫又の子供たちが動きを止めた。「こんにちは」と挨拶する。少女たちは集まって、ひそひそと会話を始めた。


「にゃ? 男だ」「人間の男ですね」「2.5次元以外で初めて見た」

「ちょっと暗いけどイケメンだ」「二枚目の俳優感ある」「ドラマの主役張れる」

「背も結構高いです」「賢そう」「筋肉ありそう」「動けそう」

「いい遺伝子ってやつ?」「お母さまが買ったのかな?」


 品定めされている気分になった。「お母様が買った」という不穏な言葉は一先ず置いておく。公園や通学路で見かけるあの年頃の子供たちがする話とは思えない。疑わしいが、マクラは十七歳だと自己申告した。あの子たちもそのくらいなのか。ひょっとして。

 ジリジリと寄ってくる。実力者の凄味は感じない。一対十プラスアルファでも、戦えば僕が必ず勝てるだろう。なのに妙な迫力を覚える。一歩後退った。


「控えろお前ら! これはマクラのパートナーだぞ!」


 右手からにゅるりとマクラが出てきた。偉そうに胸を張る。いつもならイラつくが、今は助かったと感じた。このまま壁になってくれるとありがたい。


「あれ。マクラちゃんじゃん。アホで落ちこぼれの」

「うるさいぞ! お前らも似たようなもんだろーが!」

「ちょっとは妖力出せるもん。どうしたの? 最近見なかったけど」


 長い黒髪の猫又が首を傾げる。マクラと親しげだ。友達か? いや、マクラには一緒に雪遊びしてくれる友達すらいないはずだ。知り合いの域は出ないのだろう。それでもとりあえず、ウチのアホで落ちこぼれが過去に迷惑をかけましたと謝っといた方がいいだろうか。

 マクラは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。


「なんとマクラは、VOTEの候補者になってたんだぞ!」

「ぼーと? なにそれ? 美味しいの? あ。船遊び?」

「なんで知らないんだ!?」


 憤慨する銀髪の猫又に、「お前もほとんど知らなかったじゃないか」と後ろから声を掛ける。物の怪大会議に参加していたにもかかわらずだ。説明直々に受けておいて、VOTEを理解していないバカよりも千倍マシである。


「VOTEはな。妖怪棟梁を決めるためのトーナメントだぞ! 人間とタッグを組んで他の候補者と戦うんだ」

「トーナメント形式じゃない。形式としてはバトルロワイヤルが近い」

「とにかくだ! 里の命運はマクラの肩にかかってる! つまりエラいということなんだぞ! お前ら頭が高いんじゃないか?」


 どんどん尊大になっていく相棒の肩を見る。耐荷重量はせいぜい10キログラムほどだろう。里の命運など背負ったら一瞬でひしゃげそうだ。

 霊青線を高く掲げ、「ほらっほら!」とマクラは嬉しそうに言う。集落の猫又たちは顔を見合わせた。全員で溜息を吐く。


「彼氏のステータスが抜群だからってイキってるの?」

「厄介な女じゃん」「めんどくさいです」「ドラマだったら嫌な奴」

「だからマクラちゃんと遊びたくなかったんだよね」

「うるさいぞ! マクラだってな、ちょっとは妖力が使えるようになったんだからな! 見てろ!」


 意気揚々と掌を掲げた。その上で緑の炎を灯す。カムイの教育効果か、魂の知覚が出来るようになった成果だ。正直大したレベルではないが、マクラにしてはよく頑張ったと思う。

 尤も、先に「彼氏」の誤解を取り除く努力をして欲しかった。保護者あたりに訂正したい。里の猫又たちがマクラを取り囲む。視線は緑の炎に釘付けだ。訂正するタイミングは残念ながら掴めない。


「えっ本当だ」「すごいじゃん」

「結構出てる!」「あのマクラに負けた……」

「あーっはっは! もうアホで落ちこぼれとは言わせないぞ!」


 マクラは高笑いする。褒めそやす猫又たちに、お世辞を言っている雰囲気はなかった。心底感嘆しているらしい。里の将来が心配になる。マクラと知り合いなことから、単に落ちこぼれ同士で固まっているだけの可能性もあるが。


「お、お兄さんなんですか?」「ん?」


 気弱そうな子にコートの裾を引っ張られた。屈んで目線を合わせる。小学生に対応している気分だ。この子も僕と同い年ぐらいなのだろうか。


「お兄さんがマクラちゃんに教えたんですか? 妖力の出し方」「いや」


 首を振る。


「僕は人間だ。魂の知覚までは教えられても妖力按転は難しい。按転の法理がどういうものかを言葉で説明するくらい出来るが。感覚的な話は無理だ」


 だから結局、マクラの教育係はカムイに任せた。


「禊力椽転なら別だが」

「禊力が使える人間さんなんですか!? 見せてもらってもいいですか?」

「いいぞ。構わない」


 紫の奔流を体に纏わせる。マクラに集まっていた注目がすべてこちらに転換した。パフォーマンスとして、基本技【矢】を森に向けて放つ。木は折らないよう注意した。(いたずら)な自然破壊はしない主義だ。

 拍手喝采を浴びる。照れ臭い。客を全部奪ってしまったからか、マクラが拗ねていた。申し訳ないと感じる。


「お兄さんの禊力、すごく綺麗で迫力がありました!」

「うん? 比較対象がいるのか?」

「えっと、はい。女性の祓い屋さんは末端の集落でも結構見かけるので。ですが」

「みんなこんなにすごくなかったよね」「もっとしょぼかった」

「見習いなんじゃないか?」


 祓い屋については、大妖怪ギツネに教えてもらった情報がすべてだ。会ったことは今までなかった。さっきの石済灰學が初めてだ。彼は間違いなく相当出来る奴だ。しかし実のところ、祓い屋総体の平均的実力は知らない。


「妖怪の里に祓い屋が来るのか。目的はなんだ?」

「人の社会に害を成すことをしてないかの監視だそうです」

「犯罪者が潜伏してないかのチェックもするんだって」

「あなたは祓い屋じゃないの?」

「違う。一年半ほど妖怪に育てられたことはあるが。ただの高校生だ。ああ、女性の祓い屋は見かけると言っていたが、男は来ないのか?」


 何気なく質問を投げかける。すると猫又少女たちの目つきが変わった。ギラギラしている。視線がとある一箇所に集中していた。

 直感する。やばい。藪蛇を突いたら地雷だった。


「猫又の里にはほぼほぼ女しかいません。だからチャンスは逃さないのです。男性祓い屋は任務が任務じゃなくなっちゃうんですよ。ところで強くてかっこいいお兄さん」

「なんだい子猫ちゃん」

「キュートな子猫ちゃんたちとのドキドキ♡ニャンニャン♡パラダイスに興味はありますか?」

「ふむ。魅力的な提案だが」


 深呼吸した。やれやれと肩を竦める。

 目頭を押さえて思う。タイトルのセンスが二世代前だった。70%OFFなら買ってしまうかもしれない。フッとキザに笑ってみせる。


「それは鬼ごっこのことかな?」


マクラと集落の猫又たちは、かつて最下級クラスで一緒にまとめられていました。「落ちこぼれ同士で固まっている」という当瀬の推理は正しいです。

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