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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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猫又からの招待状


 まったく。誰だ。スマホを渡した方が悪いと言ったのは。

 寒い夜道を歩く。ポケットに突っ込む手の力を強くした。キムチモツ鍋をご馳走になったおかげで、体の芯は温かい。町代母からお泊まりを強く勧められたが、さすがに断った。


『巫女ラブとは意外だったぞ。好き者だなあ』


 内側から煽るような声が聞こえてくる。実に腹立たしい。


「50%OFFだっただけだ」

『やれやれ。仕方がない。マクラが特別に巫女装束を着てやってもいいぞ』


 興味関心がまるで湧かない。すこぶるどうでもいい提案だった。クリーニング代を自分で払うならばという条件付きだが、コスプレなら勝手にすればいい。


「そもそも巫女服をどこで調達するつもりだ。まさかカーテンを改造するつもりじゃなかろうな」

『なぜバレたんだぞ? むむ。ならネットでレンタルすればいい』

「まあ最近はそういうサービスもあるんだろうが。僕のアカウントは使うなよ? ネットショッピングの味を覚えたお前は、三日もあればクレジットカードの限度額までエンジョイしかねない」

『それを許すのが大人ってものだぞ』「お前にそれを許すのは生粋のロリコンだ」

『こんなに可愛い猫耳少女の巫女姿が見れる。至上の幸福だろ? 一度や二度の破産がなんだ。臆する理由はどこにもないぞ』

「億で売りつけてやろうか? 生粋のロリコンに」


 バカな猫を一匹売るだけだ。人身売買には当たらない。無料で譲渡しても良いくらいだ。ハガキを送ってくださった読者の中から抽選で一名様にプレゼントしてやる。


『ああ』「どうした?」

『実家に帰ればあるな。巫女装束』

「実に興味深い。秋葉原のペットショップ出身か?」

『通報してやろうか? 幼気な猫耳少女の監禁犯として』「やめろ。冗談だから」


 怯え上がる。僕らの暮らしは側から見れば、一人暮らしの変態男子高校生が猫耳少女の首に糸を引っかけて飼っているように取れなくもない。立場が弱いのは僕だった。

 露骨にご機嫌を取る。


「きっとマクラは猫又の里で一番可愛いに違いない」

『当然だとも。やっと日文にも分かったか。マクラの可愛さが』


 ふふんと得意げに息巻く。屈辱だ。なぜ僕が、こんな駄猫に気を遣わなければならない。道端の石ころに名前をつけて可愛がった方がまだマシだ。石は何も言わないのが良い。

 そうだ。動物の猫がなぜ可愛いのか。こんな風に喋ったりしないからである。


「にゃー」


 町代の家から自宅アパートまでは駅二つ分離れている。電車かバスを使っても良かったが、気楽に散歩したい気分だった。ご馳走された鍋による火照りを冷ますためだ。モツが美味過ぎたせいで精力が溜まっている。明らかに町代母による陰謀だったが、どうにか乗り切った。

 途中、大きめの公園を突っ切ると近道になる。時代の流れか、滑り台とブランコ以外の遊具が撤去されたそこを歩いていると、猫の鳴き声が聞こえた。


「にゃー」「にゃ」「ニャン」

「今更愛嬌を振りまいても無駄だぞマクラ」

『振りまかなくともうんとたくさんあるぞ。マクラじゃない』


 足を止める。周囲に野良猫が集まってきていた。禊力で夜目が利くよう調整する。二十匹はいるかもしれない。餌を要求しにきたのか。あるいは、僕の中に居候する猫又を仲間と思い、近づいてきたのか。


『おい。下等な獣風情と高貴なる妖怪一族の猫又を一緒にするんじゃない! サルは人間に友好的か?』

「お前と猫にサルと人間ほどの差はなさそうだけれどな」


 しゃがんだ。猫たちは、体を擦り付け甘えてくる。愛い奴らだ。カバンに忍ばせていた魚肉ソーセージをすべてマクラに食われてしまったことが悔やまれる。

 最も甘えてくる猫を撫でた。気持ち良さげに目を細める。端的に言って幸せだった。持って帰りたいが、アパートは犬猫禁止である。引越しを検討する余地がありそうだ。


『む。マクラも偶には撫でさせてやってもいいぞ』

「ダニがいそうだ」『野良猫の方がいるだろが』

「いても撫でるだけの価値がある」『あん? マクラにはないと?』

「考えてみろ。お前を猫可愛がりした日に僕がどうなるか分かるか? 白々燐から死すべきロリコン認定される。果ては氷の彫像だ。札幌雪まつりに出展されちまう。イ◯スタで話題になれればいいが」


 もっとすごい作品がたくさんある。たかがリアルな人間像レベルで注目度を稼げるかどうか。東大受験よりも熾烈な競走だ。

 そもそもの問題として凍りたくない。


『なあ日文』「なんだ」

『微かな妖気を感じる。下等な四足歩行どもから』

「何?」


 猫を撫でる手が強張った。しかしどうみても普通の野良猫だ。妖気妖力は人間である僕には感じ取れないが、妖怪か否かくらいはフィーリングで分かる。

 いや。首を振った。妖怪でなくともその眷属である可能性はある。妖怪が下位の動物を連絡係などとして用いることはよくある。マクラが主張した通り、猫又は猫の上位だ。マクラ自体がどうかはともかく。

 この猫たちが猫又の使いっ走りであってもおかしくない。当然、親分の香りが残っているだろう。マクラか僕、あるいはその両方に用があるのか。

 一匹、一際上品そうなのが近づいてきた。口に手紙を咥えている。「マクラとそのバディ様へ」とあった。受け取ってすぐに開く。一行目を読んだ。


『マクラの面倒を見ていただきありがとうございます。もうエッチなことはしましたか?』「するかっ」


 破り捨てたくなった。どうにか自分を抑える。町代母といい、この文面の主といい、発情期でも来てるのか。深呼吸した。続きに目を通す。


「招待状?」


 どうやら、僕に猫又の里へと来てもらいたいみたいだった。当然か。奇しくも里代表となってしまったファミリーメンバーのペア相手だ。顔合わせはしておきたいだろう。尤も、VOTEの勝ち抜きを期待しているとは思えないが。何せマクラだ。

 候補者の交代などは望まないとも書いてある。元々棟梁の座は狙っていないと。猫又は責任に伴う面倒を嫌うそうだ。マクラを見ればなんとなく分かる。無理に引き離される心配はないだろう。


「来週の土日か」


 今日は火曜日。ほぼ二週間後か。一泊二日のお誘いらしい。下に返事欄があった。反射的に筆記用具を取り出そうとして、だが必要ないかと思い直す。案の定、禊力に紙が反応した。「了解した」と指で書く。


『行くのか。意外だ』「挨拶くらいはしておこう」


 向こうから丁寧に、筋の通った理由で誘ってきているのだ。用事もないのに断るのは失礼だ。僕から返事を受け取った猫たちが去っていく。少し名残惜しい。

 マクラが中でうんうん頷いた。


『猫又は女の子ばかりだからな。来客をもてなす巫女喫茶もあるぞ。ムラムラ日文が行きたくなるのも分かる』

「違うそうじゃない」


 ムラムラはキムチモツ鍋のせいだ。


 書いてみたらギャグシーンがかなり多いのでタグにギャグ入れます。

 町代が現段階では戦えないので戦闘をあまり入れられてませんが、どこかで必ずバトルがメインになります。

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