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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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候補者増加


「お母さんごめん。なんか私、東大を目指すことになった」

「いいんじゃない? 応援するわ」


 最初にしておくべき受験のガイダンスとして、ジェンダー意識強化の表れか東大は最近女子を欲しがっていること、数学易化の傾向などを話していると、町代母が宣言通りちくわを持って入ってきた。湯気がほかほか漂っていて、香りが素晴らしく食欲をそそる。どうやら手作りかつ出来立てのようだった。特売で買い過ぎたのは魚の方らしい。


「応援すると言っても、保健体育くらいしか教えられないけど」

「それは最重要の基本科目ですね」「受験科目にはないけどね」

「じゃあ勉強頑張ってね〜」


 そう言い残し、町代母は部屋を出た。キムチちくわを割り箸で取る。程よくマイルドなピリ辛が旨い。『マクラを出せ! ちくわは大好物だぞ!』と内側からうるさく響く。


「声を出すなよ。バレるかもしれない」


 ちくわをガツガツと食らう猫又。所詮猫は猫である。人以外の動物に試験の摂理は無関係だ。放っておいて、ガイダンスを続ける。


「東大は、もちろん学力そのものも試してくる。が、同じくらいに、貯めた学をどう吐き出すかの質も問うてくる。アウトプットを効率よく綺麗に出来るかどうかって話だ。書き続ける試験だから、体力や集中力、根気も重要になる」


 教育機関であると同時に研究機関だ。少しでも研究者になる目のある学生を取りたがる。たとえ研究者にならずとも、研究活動に理解を示しかつ金を出してくれるだけの能力がある奴は弾かない。


「へ、へぇ」


 町代は口元を引き攣らせた。気圧されている。無理もない。だが僕は、町代には勝ちの目があると思っている。集中力と根気があるからだ。最も天性の才能に左右される部分であり、高校生になって鍛えるのは難しい。

 学力と文章力、体力は、基本的に努力次第で伸ばせる。現時点の評価だが、学力は恐らく高くない。残念ながら、成績系で良い噂は聞いたことがない。悪い噂もないから、多分平均くらいだろう。体力はかなり不足している。廃神社の階段を登るだけで息が荒くなる。

 しかし文章力は把握していない。見ておく必要がある。


「そうだな」


 スマホを取り出し、アメリカの有名な報道機関の記事サイトを開いた。面白く、難しくなく、かつあまり長くないものを一つだけピックアップする。


「これを要約してみてくれないか? 日本語で400字以内。スマホでも手書きでも。何分かかってもいい。僕を泊まらせても良ければ」

「……夕飯は食べていきなよ」


 眉を顰めたが、文句を言わずに着手してくれた。この素直さも美点の一つだろう。僕は暇になる。自分のスマホは町代の問題用紙だ。カムイから妖怪向けスマホを借りる。

 画面を操作し、VOTEの参加者リストを眺めた。前に見た時から五日。様相はほとんど変わっていなかった。人間タッグを見つけた候補者が十人ほど増えているのと、脱落者が一人から二人になっているくらいだ。まだ盤上が動く局面ではない。カムイによると、VOTEは平均して一年以上は続くということだった。

 ああ、そういえば、脱落者がいるということは、誰かが脱落させたということだ。あまり興味を持ってないからか、前回確認していなかった。票を持っている危険妖怪を探す。

 まず、蟲蜥蜴の底泥亭が五票持っていた。大妖怪ギツネからは「冷徹なリアリスト」と聞いている。他の候補者を襲うのに躊躇しないだろう。逆にまだ一体しか取れてないのかという感じだ。

 もう一人、五票を持っている奴がいた。「轍破(わだちやぶれ)」。聞いたことがない名前だ。種族も想像がつかない。とりあえず、リストにある名前を全部記憶しておく。

 違和感に、「ん?」と唸った。慌てて口を塞ぐ。町代は黙々と英文読解していた。さすがの集中力だ。頼もしい。安心し、リストに注意を戻す。

 脱落者含めて、名前が112ある。物の怪大会議に列席している種族は108ではなかったか。一つの種族につき候補者は一人だったはず。首を振る。VOTEが宣言された大会議の出席者だけ無条件で(・・・・)参加出来るに過ぎない。現棟梁に認められすれば、大会議の列席種族でなくても候補者の枠を手に入れられる。

 妖怪の種類は108よりもずっと多い。大会議に出られない弱小民族もたくさんあるだろう。一匹しかいないオリジナルも数え切れないほどいる。海外産のモンスターを含めればもっとだ。

 最後に残った五組以下のペアに投票権を持つのは108の族長のみ。このことから、VOTEも108の種族からなる枠組みの中で行われると思い込んでいたが、どうやら違ったらしい。候補者は増加する。つまり他ペアの霊青線を狙う輩がどんどん増える。

 糸を切られたらマクラは死ぬ。僕との繋がりなしで生きられるほど魂が安定するまで、まだ半年はかかるだろう。警戒を強めるべきか。

 リストを閉じる。町代はまだ時間がかかりそうだ。

 カムイのスマホを弄ると、犬向けのエッチな電子書籍があった。端末を投げ出しそうになる。さすがに興奮出来ない。

 ハッとなって町代の手元を睨みつける。僕のスマホはアンロック状態だ。探られてないかと心配になったが、どうやら杞憂らしい。検索履歴は逐次消しているものの、書籍アプリは簡単に開ける。アプリの起動にロックをかける機能がないか後でチェックだ。

 煩悶とする思考を追い出す。プライベートを覗くようで悪いが、再びカムイのスマホを調べた。渡す方が悪い。物の怪大会議の開催場所たる妖怪京都の立体地図アプリがあった。話は聞いていたが行ったことはない。この機会に地形など全部覚えておく。

 風俗もあった。最高評価の星五つ。絶頂的極楽が味わえる。妖怪は十五で色々許されるのだ。さして興味はないが、さして興味はないのだけれど、僕でも入れるはずだった。ちくわを全部食べ終えて、幸せそうな顔でちゃぶ台に突っ伏しているマクラを眺める。

 邪魔だなこいつ。

 真島柿の怒った顔が脳裏に浮かんだ。ふと冷静になって、乾いた笑みを浮かべる。町代はすでに手を止めていた。

 最後の見直しを終え、「はい」と渡してくる。


「なかなか悪くない文章だ。訳もかなり的確じゃないか」

「そうかな? ありがとう。ところで」


 町代はにっこりと笑う。


「巨乳と巫女さんが好きなの?」

「スマホを返せ」


残念当瀬! その風俗も犬型妖怪向けです。

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