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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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のどかな冬の日の昼食


「マクラは本当に僕と同い年なのか?」


 太陽が高く昇っている。冬の真っ只中にしては暖かい。包みを開き、中の重箱を展開した。色とりどりのおかずが視界に活力を与える。

 昼飯の時間だ。


「だとしたら、幼稚園でずっと留年してそうだ」

「ぶっ飛ばすぞ」


 腹が減っていたのか、町代は黙々と卵焼きに箸を伸ばす。カムイはブルーシート上の食事会に参加していない。狛犬は自然から溢れでるエネルギーや魂の残滓を食らって生きる種族だ。だとしても、少しも手をつけないのは計算外だった。

 作り過ぎだ。町代が思ったよりもよく食べているとはいえ、その大きくはない体格にカムイの分は入らないだろう。しかし、残すのは嫌だった。

 小さな口でおにぎりを()む町代の隣、戸惑っている白々燐に「燐も食えよ」と声を掛ける。


「私も食べて良いの?」

「もちろん。燐と昼食を共に出来るなんて、僕には至上の喜びだ」


 僕は先ほど、白々燐の機嫌を損ね、ボコボコに殴られている。禊力を用いた肉体回復術で凍傷と腫れは引いたものの、まだかなり痛い。きんぴらごぼうを噛む歯がとても辛い。

 これ以上危害を加えられぬよう、なるべく彼女を持ち上げる方向で会話を調整したいものだ。


「まあそれは当然よね」


 ふんと満足げに笑い、取り皿に大きな唐揚げとおにぎりを乗せた。「狙ってたのに」と残念そうに呟くマクラ。ハッと閃きに満ちた表情をして、服の裾を前に引っ張る。


「あの、白々燐! いえ、白々燐さん! サインして! マクラに!」


 耳と尻尾が高振動で震えている。さながら、憧れの芸能人に会えた熱心なファンだ。白々燐は得意そうに「良いわよ」と返し、しかし条件を付ける。


「その代わり、当瀬日文を私に返して」

「いいぞ! こんな失礼な奴、耳を揃えて返してやる!」


 マクラは頭の猫耳をピッタリ揃えた。「耳を揃える」という熟語の意味はきっと理解していない。

 付け加えて、僕は白々燐のものになったことはない。当瀬日文という男に所有権を主張出来るのは、真島柿厨荏だけだ。いや、「だった」と過去形にすべきなのか。心に一抹の虚しさが去来する。

 因みにだが、白々燐に真島柿の存在を伝えたことはない。言ったら僕か真島柿が殺されると、なぜか本能が警鐘を鳴らしたのだ。


「交渉成立ね」


 白々燐が嬉しそうに微笑んだ。「待て」と呼びかけ、バディを交渉材料にした取引に横槍を入れる。


「ダメだ。マクラとのタッグを放棄することは出来ない」

「やっぱりロリコンなの!?」


 会話が早くも暗礁に乗り上げる。いきり立つ白々燐に対し、ちょいちょいと手招きした。ブルーシートの外に連れ出し、耳打ちする。


「何よ」

「マクラを拾った時、あいつは死にかけの重傷だった。僕の救助精神が、VOTEのタッグ契約への合意と見做されたんだろうな」


 怪訝な顔で返される。ここから先は、マクラに聞かれたくない。


「マクラの命は、恐らく僕の魂から流れる力で保っている。糸を切れば彼女は死ぬだろう」

「……っ」


 白々燐は黙り込んだ。この雪女は優しい。小さく可憐な猫又の生死を軽視したりはしない。「分かったわよ」と引き下がる。

 ロリコン疑惑も解けたと願いたい。


「マクラと言ったわね。情けでサインをくれてやるわ」

「え? 日文なんていくらでも返してやるぞ? 毎月部品を送ってやろうか? 創刊号はたったの390円だぞ」

「デア◯スティーニみたいな提案やめろ」


 猟奇的に過ぎる。時間をかけて少しずつ組み立てる楽しさなんていらない。

 白々燐は妖力をインクに換え、手慣れた様子でサインする。「可愛い猫又のマクラちゃんへ 白々燐」と、艶っぽい字体で書かれていた。


「おー! 帰ったら額縁に入れるぞ!」「どこに飾っておくつもりだ」

「あなたの学習机の前でいいじゃない。毎日拝み倒しなさい」

「僕の部屋を宗教法人白々燐ファンクラブの支部にする気か?」


 ファンクラブメンバーが巡礼にやってきそうだ。白々燐を崇める連中はグループとしての粘着性が高い。かつマゾヒズム気質だ。気持ち悪くて相手にしたくない。奴らと比べれば、マクラははるかにマシな部類だ。


「ねえ当瀬くん」


 弁当に夢中だった町代が声をかけてくる。耳を傾けた。


「陽の気というの、ほんのちょっとだけど取り出せるようになったよ。昼はどうするの?」

「次に進んでもいいが、別に焦る必要はない。今日はそれなりの量を安定的に取り出せるよう練習した方がベターだと思う」「分かった」

「その女は誰よ?」

「同級生かつVOTEの参加者だ。禊力が使えるよう手助けしてやっている。妖怪の権力争いに突然巻き込まれた一般人を、見て見ぬ振りするのは気が引けるからな」

「ふーん?」


 白々燐は町代をジロジロと眺める。勝ち誇ったように口角を上げた。

 特に気分を害した様子もなく、町代は続ける。


「あの綺麗な紫色って、そう簡単には出せないよね? えっとつまり、禊力ってすぐ使えるようにはならないんだよね?」

「普通は一年以上かかるらしいな。でも町代の進度なら、一ヶ月で出来るようになるだろう」


 体内に流れる陽の気へと干渉出来るだけで人間としては貴重、と大妖怪ギツネは言っていた。祓い屋の養成学校では、取り出せるようになるまで一ヶ月から二ヶ月、そこから禊力に変換出来るようになるまで一年の通常カリキュラムを組んでいる。もちろん僕みたいに、禊力椽転までの過程を易々と飛び越えていく生徒もいる。


「一ヶ月かー」「問題か?」

「休みの日はこの神社に来てもいいと思うけど、学校ある日にここまで来るのはしんどいなって」


 ご指摘の通りだ。あまりいい解決策は浮かんでいない。例えば僕の部屋を練習場所に設定したとして、毎日町代を連れ込んでいては必ず妙な噂が立つ。片や恋人を喪ったばかりの男、片やそいつと妙に親しげな女。悪い尾鰭が必ず付く。そもそも僕のアパートは風水の観点から好ましくなく、初心者が練習しやすい場所ではない。

 学校からすぐに行け、人のいない、霊的なエネルギーに溢れる廃神社のような都合のいいポイントが、そうあるとは思えなかった。

 白々燐が目をパチクリさせる。なぜ気づいていないのかという表情だ。

 それから悩める僕に、有益な助言をくれた。


「当瀬日文、あなたの通っている高校には、いい練習場があるでしょうに」


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