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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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VOTEのルール


「改めて聞くと迷惑な話だ。妖怪だけでやってくれ」


 美女吸血鬼について根掘り葉掘り聞き出したかったが、堪えた。もちろん摩訶不思議な種族たる「吸血鬼」の方に反応したのであって、美女という単語に心惹かれたわけじゃない。


「由緒正しき伝統行事だよ。今更変えられない」

「変えられるさ。環境破壊か人種差別かジェンダーバイアスに絡めて世論に訴えろ」

「欧米の魑魅魍魎どもなら動くかもね」


 カムイはやれやれと(かぶり)を振った。話の腰をいきなり折ってしまったようだ。これは僕が悪い。「続けてくれ」と促す。


「一から順に話そうか。VOTEの開催決定権は、時の妖怪棟梁にある。引退するとか勢力を保てなくなったとか、そういう理由でね。内閣総辞職みたいなものさ。衆議院の解散も含めた」

「大事件だな」

「開催の宣言は、月一の『物の怪大会議』に行われる。そして、VOTEの開始を宣言した会議に参加してた妖怪には、無条件で候補の資格が与えられる。人とタッグを組み、バトルロワイヤルに参戦する権利がね」


 マクラに視線を向ける。大きな猫耳をぴょこぴょこ動かして、ドライフルーツの最後の一粒を咀嚼していた。食うのが早い。幸せならいいんだが。


「大会議の存在は知っていたが、月一とは忙しい。集まるだけの回も多くなるに違いない。VOTEの可能性があるとはいえ、総辞職に喩えるぐらいだ、それ自体は頻繁にある行事じゃないんだろう? 皆が代理を出すんじゃないか?」

「列席が認められている108の種族のうち、毎回三分の一くらいが代理だね。ボクもそうだ」

「マクラも!」


 嬉しそうに口を挟んできた。こいつが代理でなく真の代表なら、猫又の里が心配になる。特に衛生面。伝染病が蔓延して壊滅しそうだ。


「VOTEに当選するのは、脱落せず残った中で、最も『得票数』の多かったペアの妖怪だ」

「得票数?」

「もちろん言葉通りの意味じゃないさ。他のペアに『勝利』し、脱落させた分だけ五票手に入る。脱落は、他のペアに『敗北』した時か、ペアの妖怪(・・)が死んだ場合にしか起こらない。残ったペアが初めて五組以下になった時点で、108の族長が一人一票の下、スターペアのどれかに投票する。バトルと投票で得た分の合計が得票数だ」


 なるほど。深く頷く。最後には信望や政治力も利いてくるが、最も比重を置かれているのは勝利数というわけだ。妖怪らしい。

 脱落の条件から、火鼠の宿主殺しに説明がつく。やはり、ペアの人間(・・)が死んでも、候補からは脱落しない。


「脱落せずペアが解消された時、持っていた票はどうなる」

「ペナルティとして三票取られる。マイナスにはならない」

「へえ。『勝利』の条件は?」

「敵ペアの霊青線を、引きちぎることさ」


 右手とマクラの首を繋ぐ糸に、プラプラと力を加えた。


「これか?」「そうだ」


 自分じゃ切れなかった。が、少なくとも、VOTEに参加している他のペアには切れるようだ。良いことを聞いた。

 マクラの進路に棟梁となる希望があるとは思えない。そもそもまったく向いていない。僕もVOTEの結果に興味はない。糸など邪魔なだけだ。町代に切ってもらおう。

 そう提案しかけた途端、ある可能性に思い当たる。考え直し、やめた。


「どうしたんだい?」「なんでもない。自主的な棄権は出来るのか?」

「現棟梁に申請し、認められれば出来るよ」

「VOTE開催が宣言された会議にいなくとも、候補になれるのか?」

「それも棟梁に申請して、認められたら。ただし、一つの種族につき、候補となれるのは一人まで。族長が、会議に代理で出席した者と取って代わりたければ、候補となっている代理を棄権させ、空いた枠に入るという工程を踏まなくちゃならない。ちなみにボクは、父上から全権委任されているよ。何せ優秀だからね!」


 カムイは誇らしげだ。町代がボソリと、「見る目がないねお父さん」と毒を吐く。優秀な狛犬の息子は、バランスを崩して転倒した。


「あはは。こけてやんの」

「うるさい猫又風情が。殺すぞ」「ひっ!?」

「他候補の状況は分かったりするのか?」

「脱落してるかどうか、今まで何票獲得したかは見えるようになっているよ」


 カムイは、スマートフォンを取り出した。犬の足で器用に操作する。長方形の端末は、人の手に合わせて作られている。歪な光景だったが、画面が妖力に反応していると気づき納得した。


「ほら」


 渡されたスマートフォンを眺める。知らぬ名前も多少ある。でも大抵は有名な妖怪たちだ。

 友人もいる。雪女の白々燐など、今でもたまにSNSでやりとりする仲である。最初から彼女に事情を聞くべきだったのかもしれない。

 「白々燐」の横には「タッグなし」と書かれていた。「マクラ」「カムイ」の名もあり、その横には「候補:0票」とある。一名だけ「脱落」と表示されていた。三日目にしてすでにやられている者もいるのか。

 引っ掛かりを覚えて目を細める。無意識にあるだろうと思っていた名前がどこにもない。正義の大妖怪ギツネの名が。


「返すよ」「うむ」

「ねえ。どの妖怪が最有力候補なの?」


 町代が尋ねる。カムイは戸惑った。代わりに僕が答える。


「妖怪の実力者なら、現棟梁の息子で天狗の葉烏、雪女の白々燐、一つ目のナイセキ、蟲蜥蜴の底泥亭、百足鬼の鋼丸などか。だが、組む人間にも依るだろう」

「カムイに目はある?」「ない」


 即答した。カムイは落ち込む。「今のままではな」と付け加えた。


「町代」「な、何?」

「君とカムイのペアは正直強くない。格好の標的だ。襲いかかってくる敵が、人命を大事にしてくれるとは限らない。知人に死なれるのは目覚めが悪い。ここで糸を切っておくか?」

「嫌だ! ボクは諦めてないぞ! 切られるならこの女と心中してやる!」


 カムイは唸りを上げる。町代は彼を、怯えと憎しみと蔑みの籠った視線で睨みつけた。難儀なペアだ。


「だそうだ。だから、町代に自衛の方法を教えよう」「え?」

「カムイに選ばれたんだ。君には恐らくこれが使える」


 右手に紫の波を纏わせた。部屋の壁が藤色に染まる。怪しくおどろおどろしい雰囲気が、部屋に染み渡る。

 町代は目を輝かせた。


「綺麗……! 触っていい?」

「問題ない。無害に設定している。君はやはり怖がらないな。素晴らしい。これから毎日、放課後の修行編と行こうじゃないか。町代が凄まじい適性を示せば、カムイが棟梁になる目も出てくる」

「最後のは別にどうでもいいけど」


 町代は唇を尖らせた。「でも、死にたくないからやるよ」と続ける。僕は笑って返した。

 真島柿(こいびと)には見せなかった僕の裏側を、会って間もない女の子に明かしてしまった。これは裏切り行為だろうか。分からない。彼女と秘密を共有していたら? それでも僕の、「常識」の先生であってくれただろうか。

 用意された道から逸れていく。元の闇に歩を向けている。軸を失い、無軌道に飛ぶ。真島柿を失って覚えた予感が、当たってきている。


「なー日文。マクラは棟梁になれるか?」


 後ろから、ワクワクした声が聞こえた。眉を顰めて答える。


「やめておけ。仮になれたとしよう。お前の治世は、のちに『マクラの悪夢』と呼ばれる」


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