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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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気品あるもてなし


「昨日の昼休み、町代は教室に戻ってなかったようだが。どこにいたんだ?」

「ほ、保健室。頭の犬耳がしばらく消えなくて。ベットに籠ってたの。あと、ホントに気分が良くなかったし」

「カムイが宿っての妖気酔いかもな。慣れてない人間は、妖気をモロに浴びると気持ち悪くなるんだ」


 帰り道。町代を伴い進む。彼女の歩みはどこかぎこちない。肌を切り裂く寒さが理由じゃないだろう。ストッキングは暖かそうだ。

 一人暮らしの男子の部屋に行くのに、緊張しているようだった。配慮のない提案だったなと後悔する。とはいえ、妖怪を交えての会議を安心して行える場所なんてそうはない。僕のアパート以外には、ホテルの一室か雑木林の中かぐらいしか思いつかないが、いずれも金か時間がかかる。

 学校から三十分、僕が間借りしている集合住宅に辿り着く。エレベータに乗り込み、三階のボタンを押した。扉が閉まり、十秒も経たずにまた開く。僕の302号室は、エレベータの右隣にある。


「……ねえ。着替えてきちゃダメ?」

「この期に及んでか? 町代の家は駅二つ分離れてるんだろ? 時間がかかる」

「せ、制服の方が燃える、とか?」「燃えていいのか?」

「いっいえ。冗談です……お邪魔します」


 玄関に彼女を入れる。控えめに、最小限の動作で靴を脱ごうとした町代だったが、もたついてバランスを崩した。左手で支える。


「わっ、あ、ありがとう……」

「靴なんて、脱ぎやすいように脱げよ。揃える必要もない。自分がこの部屋の王と思ってくつろいでくれ」「それはさすがに」


 空いた右手から、マクラがスルッと出てきた。「ドライフルーツだぁ!」と叫び、一目散にお菓子置き場に走る。彼女と繋がる右手の糸を引っ張った。

 ゴロンと、後ろに転倒する。


「帰ったらまず手を洗え」

「マクラはお腹を壊さない!」

「うるさいバカ猫。菌まみれの手でベタベタ物に触る。それはもはやバイオテロだろうが。手がなくなるまで洗ってやる」


 嫌がるマクラの襟首を引っ掴み、洗面台へと引きずる。町代も、おずおずとついてきた。丹念にマクラの手を洗ったのち、町代を洋室に招き入れた。

 ちゃぶ台を出し、その上にジュース瓶とコップ、クッキーを置く。


「紅茶やコーヒーの方がいいなら淹れる」

「お気遣いなく……」「町代は謙虚だな」

「え。普通だと思うよ」


 真島柿はもっと堂々としていた。恋人関係になる前から、僕を扱き使える場面では躊躇なく扱き使った。コーヒーか紅茶かと言おうものなら、どちらも出させて、気分じゃなかった方を丸々残す奴だった。

 あれが社会の平常なのだと考えていたが、そうでもないらしい。

 コップにジュースを注いでやる。出されたものに手をつけないのは気が引けるのか、町代はすぐ一口飲んだ。ラズベリージャムのクッキーも食べる。ともに、近所のスーパーに置いてあった輸入品だ。同格の国内製造品に比べて少し高いが、容れ物のセンスがいい。


「おいしい。それに気品があるね」「分かってるじゃないか」


 うんうん頷く。真島柿には、食品の「オーラ」に払う金の重要性が理解されなかった。町代への評価を上げる。マクラが首を傾げた。


「キヒンってなんだぞ?」「お前にはないものだ」

「マクラちゃん、だっけ? すごく可愛い猫ちゃんだよね。銀髪が綺麗で神々しい。気品、ちゃんとあるって」


 町代がマクラを擁護する。

 気品あるらしい猫又を一瞥した。確かに見た目は神秘的だ。しかし、出会ってまだ三日目だが、中身がポンコツなのは間違いない。外見と実質に著しい乖離がある。


「アルミ製の似非プラチナだ」「口縫うぞ」

「マクラのことはどうでもいい。カムイを出してくれ」


 毛を逆立てるマクラの後ろに、ドライフルーツの袋を投げた。反射的に飛びかかっている。これでしばらく静かだろう。


「うん。出ておいで、カムイ!」


 町代の右手から、四足歩行の犬が現れた。超然とした美しさ。エレガントな毛並みだ。アフガン・ハウンドを彷彿とさせる。

 僕らと同じく、青緑に輝く糸が彼らを繋いでいた。


「初めまして。ボクが名はカムイ。高貴なる狛犬の次期族長だ」


 優雅かつ尊大に言う。「高貴なんてよく言うよ」と町代は呟いた。この妖怪もまた、外見と実質に不一致がある。

 周囲を見下す姿勢のカムイ。喉元を盛大に晒していた。お望み通りに、紫色の禊力を纏った左手で首根っこを掴んでやる。隣で、町代が驚いていた。


「ぐわっ!? 何をする!?」

「物陰から僕を襲うよう、町代に指示したのはお前だろ? 目には目を、歯には歯を、罪には裁きを。当然の報いだ」


 気管を五秒ほど圧迫したのち、手を離した。カムイは咳き込み、荒々しく息を吐く。当初のエレガントさはカケラもない。


「清算は終わった。さて、ヴォートについて教えてもらおうか。カムイ」

「待て! このボクに無礼な仕打ちをしておいて! 素直に話すわけないだろっ」

「よし。白菜が余ってる。今夜は犬鍋だ。町代も食っていけ」


 優しく謙虚な町代だが、カムイを庇う様子はない。むしろ積極的に首肯していた。騙され、巻き込まれ、相当フラストレーションを溜め込んでいると見える。


「ギャーッ!? やめたまえ! 分かった話そう! 話せば分かり合える!」


 快く、フレンドリーに従ってくれた。

 大妖怪ギツネから学んだ血抜き術を披露出来ずに残念だ。


「演説のための台を用意しようか? まな板というんだが」

「鬼畜な奴め。禊力も使えるときた。君と組みたかったよ。牢獄も使えるのか?」

「使えるが、勝手が悪い。その話はヴォートの後だ。町代がついてこれない」

「ふん。ったく。才能ある素人ってのは厄介だね」

「ポンコツ妖怪よりマシだろ」


 カムイは町代を睨みつけ、フンと鼻を鳴らした。次に、ドライフルーツに夢中なマクラを眺め、深々と嘆息する。

 それからようやく、仏頂面で口を開いた。


「君の発音がかなりムカつくから最初に言っておくがね、VOTEの言い方は英語に準ずる」「そうなのか」

「そうなのさ。初めにVOTEなんてやり出したのは、そこのラズベリークッキーと同じく、海外産のヴァンパイアなんだよ。美女さ」

「美女だったのか」


 興味があるな。


「まだ生きていて、現在進行形で美女のようだ。まあこんなのは前置きだよ。本題に入ろう。VOTEというのは、君も知っての通り、妖怪棟梁を決めるためのバトルロワイヤルだ。人間とタッグを組んでな」


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