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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第一章 寄奇怪会

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巻き込まれJK


「町代(はふり)


 昼休み。普通の高校生なら、教室以外で用があるのは食堂かグラウンドぐらいだろう。後は、弁当代わりの説教を食らいに職員室か。

 なのに、誰もいない美術準備室前廊下を、挙動不審な様子でうろついていた怪しい彼女に後ろから話しかける。


「うひゃあっ!?」


 町代は間抜けに叫び、肩を跳ねさせた。僕から話しかけられることなど、予想だにしていなかったようだ。昨日箒で僕を襲っておいて。想像力のレベルが低いんじゃないか?


「何を驚いている? 反省の言葉も言い訳もなしか? 町代、お前は、僕に会ったら反射的に土下座して謝れるようになっておくのが筋だろ」

「へっ、え? いやでも私、反射神経ないし」


 だから無理だと言いたいらしい。「反射的」とは言葉の綾で、こちらの主な要求は謝罪だ。噛み合っていない。

 中からマクラが、苦言を呈す。


『日文が悪いだろ。今のはマクラでも混乱する。いきなり背後から声をかけるなんて、変態なんだぞ』

「なんだと? 僕は変態じゃないから、その命題は不成立だな」

『はっ。反論が変態っぽいぞ』


 失礼な。根拠のない、バカなコメントだ。

 僕としては、常識の範囲内で話しかけたつもりだった。気配を消したりはしていない。このやりとりに罪があるとすれば、町代側の不注意が悪いに決まっている。責める気はないが。

 町代の頭を見る。昨日、そこには犬耳が生えていた。今は生えていない。隠せるようになったのか。あるいは、攻めの気持ちに呼応して生えるのか。

 後者の場合、僕の頭にも猫耳が現れる可能性がある。ひょっとすると、昨日の戦闘途中など、一時的に生えていたのかもしれない。

 恥ずかしくなる。

 すぐに切り替えた。壁を背もたれにして廊下に座り込む。昨日と同じく、ここで弁当を食べようという魂胆だ。真島柿の死から二日目、教室の空気は、僕に対してまだまだ寒々しい。


「町代。昼飯は、そのパンだけか?」

「えーと……お弁当は、三時間目と四時間目の間に」

「早弁か」「このパンは、さっき購買で買ったの」


 焼きそばパンを見せつけながら、一メートル横に座った。僕と話をする気はあるらしい。「よく食べるんだな、良いことだ」と褒めてから、早速本題に入る。


「町代には、妖怪が憑いているんだな」「……うん」

「そして、ヴォートとやらに参加している」「うん」

「昨日のあれは、僕に勝利すれば、町代の妖怪が棟梁に一歩近づくから」

「うん。でもね、私は無理だって思ったんだけど」


 ボソボソとした声でそう言った。なるほど、町代は悪くなさそうだ。彼女の妖怪に文句を付けてやりたかったが、学校で出してもらうのは気が引ける。周りに誰もいないのは明らかだが、校内かくれんぼに興じる生徒などが、突然現れたりしないという保証は出来ない。

 町代は、焼きそばパンに齧り付く。大きな一口だ。咀嚼に時間がかかると思ったが、かなり早い段階で飲み込む。


「もうちょっとよく噛んだ方がいいぞ」

「カムイ……私の妖怪にも言われたよ。会ってすぐ。でも癖になってて」

「『神威』とは、仰々しい名前だな。大妖怪なのか?」

「狛犬だって」「格式高い妖じゃないか」


 神の番を任されるくらいだ。猫又とは次元が違う。感心して言う僕に対し、町代は露骨に表情を歪めた。


「こいつ……ごほん、この子、『ひろってください』って書かれた段ボールに入ってたんだよ。雪が降ってて寒い中、本気で可哀想だと思って。だから拾ってあげたの。そしたらどうなったと思う?」


 町代の声がだんだんヒートアップしていく。


「いきなり変な糸で繋がれちゃってね。『VOTEへの参加おめでとう。君はボクの映えあるタッグプレーヤーとなったわけだ! 全力でボクを棟梁にしてくれたまえ! 行動しなければ、君を排除して新しいパートナーに移るから。よろしく!』とか脅し混じりに言われて。で、あなたを見かけた瞬間に『ぶっ倒せ!』とか命令されるし。なんなのいったい!? 妖怪ってホントにいたの!? もうわけわかんないだけど!」


 溜まっていた鬱憤を吐き出した感じだった。焼きそばパンをやけ食いし、ガクリと項垂れ、ポロリと涙をこぼす。哀愁が漂っていた。事情も知らぬまま巻き込まれたのか。不幸な子。

 どうやら狛犬のカムイ君は、捨てられた子犬のふりをして町代に取り入ったらしい。詐欺だ。狛犬の静謐としたイメージが崩れ去る。賄賂を貰えば、悪鬼羅刹の類も神社内に入れそうである。

 カムイはズルく、悪知恵が働く。

 聞く限り、ヴォートは実力が物言うゲームだ。カムイは恐らく、パートナーをいい加減に選ぶタイプではない。


「カムイを視認出来た時点で、町代には素質があると認められたんだ」

「え? 素質? わ、私に?」

「ほとんどの妖怪は、人間から姿を隠せる。潜在能力のある奴以外からはな」


 マクラは無理らしいが。


「そ、そうなの? なんで知ってるの?」

「後で話す。いいか? 町代は昨日、僕の撃破に失敗したのに排除されていない」


 昨夜、中の火鼠に裏切られて死んだ男を思い出す。さらにカムイが言ったという「君を排除して新しいパートナーに移る」。ヴォートには、役に立たないと判断した人間(パートナー)は切り捨て、棟梁候補の妖怪は新しい相手を探しても良い、というルールがあると予想される。

 なのに町代はまだ生きて、妖怪を宿したままなのだ。


「つまり、町代には見捨てるには惜しい才能がある。少なくとも、カムイはそう判断している。違うか?」


 町代ではなく、その内側のカムイに話しかけた。少し間を置いて、「……らしいよ」と彼女は頷く。


「しかし、町代がこのまま弱いままであれば、いつかは愛想を尽かされるだろう。カムイは町代を殺し、新たなパートナーを見つける旅に出る」

「や、やっぱり? ひぇえ、死にたくない! どうすればいいの!?」

「それも合わせて、カムイも交えて話がしたい。僕は、ヴォートについて詳しい説明が欲しいんだ。何せ相方がポンコツだからな」

『本当でも、言ったらいけないことってあると思うんだぞ』


 マクラが抗議してきた。悲しそうな声だ。自覚があるのだろう。


「でも、ここじゃ無理だ。万が一騒ぎになっても困る。そうだな。放課後、僕の部屋に来てくれ」

「………………へっ!??」


 五秒ほど呆けてから、町代は顔を赤く染め上げた。


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