これもひとつの友情の形-2
教室に入ると中にいた人物が振り返る。けれどその顔は私達をみて困惑していた。
「どういう状況だ?」
涼ちゃんがそう言うと私を支えていた感覚はなくなり、体が重力に従いニュートンのリンゴの如くドスンッと下に落ちた。
「いっっった!!」
当然の如く、私はお尻を強打する。
「~~~~~~っくう……!」
涙目になりながら雪村君を睨む。
この人女の子落としたよ、最低だ。
「どうせ足なんて痛めてないでしょ、茶番に付き合ってあげたんだしもういいよね」
「足は痛めてなくてもこけた時体痛かったのに…」
「知らないよ」
あからさまに興味が無いという風に私から目線を外し彼は扉の方へ足を進めた。
部屋を出ると分かったのですぐさまその足へ縋りつく。この機会を逃せば彼はもう会ってはくれないという事は分かっている、なりふりはかまっていられない。
「待って」
「離してくれない?」
冷たい視線を私に向け、ぞくりと背筋が凍ってしまいそうなくらい低い声音で言い放たれる嫌悪の言葉を無視して私はさらに力を入れる。少し手が震えている気がする。彼は暴力を振るうタイプではないと理解しているので落ち着くために少しだけ息を吐き、視線を合わせた。
彼のヤンデレ属性は縛り付けるタイプだからな、周りを攻撃するタイプじゃなくて本当に良かった。
「逃がすわけないでしょう?」
絶対に、と心の中で言うと私は起き上がり彼と睨み合いを続けながら扉の前に立ち、鍵を後ろ手に掛けた。
「ちなみに言っておくともう一方のドアは、壊れて開かないから」
隙を突かれて逃げられでもしたら困るので沙原先生に一方のドアしか開かない教室を教えてもらったのだ。ただの話し合いのつもりがなんだか主人公を追い詰める悪役にでもなった気分。
「ふーん、じゃあ君をどかさない限り扉からは出られないわけだ」
「まあね、ちなみに窓からも無理だよ?そのために涼ちゃんを呼んだんだから」
「……」
涼ちゃんには雪村君が逃げ出そうとしたら捕まえてもらうようにお願いをしてある。渋々だったが桜良のためだと言ったら了承してくれた。ちょろい…そんなところも愛おしいけど。
今の言葉で意味を理解したのだろう、居心地の悪そうな涼ちゃんをちらりと横目に見た後雪村君は目だけが笑っていない笑顔をこちらへ向けた。
「それで、ここまでするなんて何か俺に用なの?」
なんとも白々しい。
「そりゃああるでしょう、私はずっと君と話がしたかったんだよ」
「俺にはないんだけどな」
「君になくても私にはあるの」
無理矢理にでもやっと彼との話し合いに持ってこれた。後はもう私が1人で何とかするしかない。彼は乗って来てくれるだろうか私の交渉に…出来れば乗ってくれる方に賭けたいところだ。笑顔のハッピーエンドを迎えるなら
「雪村君、単刀直入に言うね?私と友達になってくれないかな」
「え?」
雪村君ではなく涼ちゃんが声をこぼした。雪村君は少し顔をしかめただけでこちらの様子を探っているだけだ。
「嫌だけど」
そして、出てきた答えは否定の言葉。
涼ちゃんがおいっと声を上げたが私はそれを無視して会話を続けた。
「どうして?」
「理由が必要?そんなの分かりきってるでしょ、君が一緒に居たくない人間だからだよ」
「酷いなあ」
「そんな事微塵も思ってないくせによく言うよ」
「そんな事もないよ?でももうちょっと悩んでくれても良いのに」
「何を悩む必要があるのか俺には分らないな」
にこにことお互い笑顔を張り付けていても口から出てくる言葉は相手を煽る皮肉な言葉ばかり。
ちらりと見れば私達の険悪な雰囲気に涼ちゃんがハラハラと様子を伺っていた。
断ってくることは予想出来ていたのできちんと対策はしている。
「ま、いいや。断る事はなんとなく分かってたし、じゃあここからが本題」
少しの間を置いて私は言った。
「ねえ、私と交渉しない?」
「交渉?」
「そう、友人にはなれなくとも友人のフリをしてもらえないかな」
――桜良の為に
そう付け加えてみたら彼の眉がピクリと僅かに動いた気がした。
主人公が閉じ込めちゃったよ!?とツッコミを入れたい方がいるかもしれません。
しかしもう1人部屋にいるからギリギリセーフ!!ですよね!!




