7話「感傷」
時を遡ること数刻。疲れからか寝落ちしてしまったジンに布団を掛けた後、シノは一人物思いに耽る。
「ジンのこと頼んだわよ」
「ああ、任せておけ。私が必ず会わせてやる」
リンとの遠い日の約束。今思えば随分と安易な約束をしたものだ。ラズライトの能力のおかげでジンがいつの日かこの地を訪れることはわかっていたが、400年という月日はとにかく長かった。
自身の使命とはいえ数百年もの間の長きに渡って現世から隔離された空間であるこの心苑で過ごす日々はさすがに退屈の極みというものだ。
長い間何かしらの伝承を耳にはさんだ探検家やありもしない財宝を求めてやってくる自称トレジャーハンターみたいな輩くらいしか来客のいなかったシノにとってジンの来訪はまさに福音だった。
最初の戦いでは不意を突く形となったが、その後の対戦での立ち振る舞いを鑑みるにジンの実力は当時この世界に降り立った頃のリンと同等かそれ以上のものだとシノは感じていた。
見た目こそおとなしく頼りなさそうに見えるが「力こそパワー」が信条と言っても過言ではない当時のリンと比べても遜色のない攻撃力や突破力があり、エーテルへの適応能力の高さも引けを取らない。前半はあの師匠にしてこの弟子あり、後者はやはり血筋の影響だろうか。いづれにしろ鍛えがいがある。
シノは武人である。幼い頃から剣術や弓術、格闘術をはじめとするさまざまな武術とそれらをエーテルと組み合わせた実戦闘における術を叩き込まれてきた。その実力故に何かと孤立しがちだった彼女にはジンとリンの関係性がうらやましくもあった。
「ふぅ、いけませんね。昔を思い出すとどうしても感傷的になってしまう。ジンも眠ったことですし、今のうちに旅の支度を済ませておきましょう」
シノは寝床に着いているジンに一瞬目をやった後、小屋を出た。
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再び山中にある滝までやってきたシノはその裏にある洞窟へと足を踏み入れる。滝口から流れ出る大量の水が水面に打ち付ける音がこだまする中、さほど深くない洞窟の最奥に辿り着いたシノは安置されている一張の弓に目をやる。
その弓は白銀の光を放っており、暗い洞窟の中を明るく照らす様は古代の神器と言っても差し支えない。弓を手にしたシノはスッと目を閉じる。それと同時に弓は彼女の首筋付近の背中に刻まれた紋様に吸い込まれていった。 その直後にシノは急な目眩と息切れを起こして近くの壁にへたり込んだ。
「この身体で雷霆を使うにはまだ負担が大きいか。やはり白銀を使うのとは訳が違いますね」
シノが扱う武器は主に二つ。一つは白鞘に納められた愛刀、白銀。もう一つはこの地よりはるか東の国キョウコクに伝わる伝説の弓、雷霆。 いづれも強力な武器だが、白銀と雷霆ではその性質が大きく異なる。
白銀は作刀した刀工の名を聞けば誰もが驚く名刀にエーテルを込めて作られたエーテルギアだが、元は物理的な刀であることに変わりはない。一方で、雷霆はエーテルエネルギーを弓の形で具現化したものでエーテルギアと区別するためにエーテルティアと呼ばれる。
エーテルティアのエネルギー出力はエーテルギアの比ではなく、使用者には相応の負担がかかる。シノもまたリンほどではないものの過去の戦いの影響でエーテルエネルギーの消耗が激しく、全盛期にはほど遠い状態であった。
「しかし、雷霆を取り込めるくらいには力が戻っているようですね。これはジンに感謝しなければ」
本人もまだ知らないジンが持つ力の影響を実感したシノは静かな笑みを浮かべた。
「ジン、もっと強くならないとリンを取り戻すことは叶いませんよ。でも、あなたならきっと…」
シノはこれから始まるジンとの長旅とその先に待つであろう結末を想像し、天井を見上げながら呟いた。




