5話「腕試し」
「では、参ります」
その言葉と同時にシノの姿が視界から消える。最初に会った時と同じ目で追えない速さだった。
僕は落ち着いてシノとの間合いや攻撃の出所を探る。そして、右脇腹付近にかすかな違和感を感じ取った僕は咄嗟に左手の拳にエーテルを纏ってそこに障壁を展開し、シノの斬撃をガードすることに成功した。斬撃を弾いた後、僕は1歩飛びずさってシノから距離を取った。
「お見事」
「どうも」
難なく捌いたふりをしているが、実際には紙一重といったところで内心冷や汗ものだ。正直これをずっと続けられただけでも集中力が持たずに根負けしそうだ。
「では、これならどうです?」
シノは白鞘を降ろしたかと思うと逆袈裟斬りの要領で自身の刀を切り上げた。それと同時に斬撃の形をしたエーテルの塊が自身目掛けて超高速で飛んでくる。
僕は驚きつつも落ち着いて上体を反らしながら斬撃を回避した。後方で木々が切り倒される音がするのを気にする余裕もないままシノの猛攻は続く。
「光刃・十文字」
今度は十字の形をした斬撃がまとめて飛んできた。攻撃範囲が広いので横に逸れ…いや、だめだ、シノが僕の動きを観察しながら居合いの構えをしている。おそらく、僕が回避した方向に向かって斬撃を飛ばしてくる気だ。ならば、
「剛拳」
「む」
僕の動きが予想外だったのかシノが小さい声をあげた。それもそのはず。僕は斬撃の束を避けることなく正面からエーテルを纏った右手の拳で正拳突きを繰り出し、弾き返した。シノはそれらを軽く払い、払われた斬撃は大きく逸れて通り道にあった木々を薙ぎ倒して消えていった。
「………」
「………」
お互いにしばし沈黙。うう、手の甲が痛い…ジンジンする。あの光の斬撃、防御自体はエーテルを纏えばなんとかなるけど、重さが半端ないな。鉄球を殴り返した気分だ。
「次はジンの方から来てはいかがです?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
シノの声色と目つきが最初会った時のものに近づいたのを感じ取った僕はより一層集中力を高める。とはいえ、どうやって攻めようか。
シノの技量は明らかに自分よりはるかに格上だ。やみくもに飛び込んでも軽くいなされるか強烈なカウンターを喰らうのは目に見えている。どうにかして隙を作らないと…うーん、ちょっとやってみるか。
「発脚」
僕は左足に纏ったエーテルを飛ばすイメージをしながら旋風脚を繰り出した。通称「発脚」。師匠直伝のエーテルエネルギーを蹴り技に乗せて放つ技だ。エーテルの塊がシノ目がけて飛んで行く。放たれた発脚はシノに難なく弾かれてしまったが、僕は続けて拳を振りかぶる。
「今度は拳で!」
今度は遠当てでもするかのように拳撃を飛ばすイメージをしながら右手にエーテルを纏って正拳突きを繰り出す…と見せかけて足下に拳を思い切り叩きつけた。
豪快な衝撃音と共に大量の粉塵が巻き上がる。僕は再度発脚を飛ばしすと同時にすぐさまシノの背後に回り、足払いを繰り出した。彼女は真上に飛び上がって足払いを回避する。
「そこだ!」
僕は二段蹴りの要領で身体を素早く回転させて上空に向けて発脚を飛ばした。発脚は空中で無防備な彼女に当たったかに思えたが、即座に空中で体勢を立て直した彼女もまた発脚を繰り出し、僕の攻撃を相殺。そして空中で着地(?)して滑走するかのように突撃してきた。
「うっ」
「勝負あり、ですね」
二段目の発脚を強引な体勢で繰り出したせいでうまく身動きが取れず、シノの突撃に対処する術はなかった。
「私の動きを見た上で光刃を弾き返す状況判断には驚きました。しかし、諸処の動作に粗が目立ちますね」
「講評はありがたいんだけど、それはこの体勢でやらなくてもよくない?」
大の字で地面に突っ伏している自分にシノが片膝立ちで覆い被さり、彼女の白鞘が自分の目と鼻の先の地面に突き刺さっている。ちょっと生きた心地がしなかった。あと、顔が近い。
「失礼」
シノが立ち上がって差し出した手を取り、僕も立ち上がる。そして、ちょっと気になることがあったので質問をしてみた。
「さっきのあれはどうやったの?」
「?」
シノが首をかしげてキョトンとしている。かわいい。
「空中で僕の攻撃を相殺した後にシノが空中で着地して突撃してきたように見えたんだけど?」
「エーテルで空中に足場を作りました。最初に闘った際に水辺に着地した際もそうです。身体の軸が安定していたでしょう?」
あー、だから水場なのにあんなアクロバティックな動きができてたのか。
「ジンならすぐに会得できますよ。次の機会にでも伝授しましょう」
こうして、シノとの対決は僕の完敗に終わった。




