4話「過去からの贈り物」
「エルトラントは中央の大海に点在する島々とそれらを囲む4つのエリアから構成されています。
我々が現在いるのはここ北西の大陸ラズライトエリアの北端にあるクリスタルガーデンと呼ばれる場所です」
シノによるエーテルの指南が終わって少し休憩している間に僕は彼女から今後向かう場所と周辺の地理について軽く説明してもらっていた。お互い岩場に座ったまま、彼女が木の枝で地面にこの世界の大まかな地図を描きながら僕達が現在いる場所とその付近の地域に触れている。
「クリスタルガーデンの南には大きな山脈が連なっていて、そこを越えた先に神聖アスガルド帝国と呼ばれる大きな国があります。まずは、そこにいる四大の子孫の一人を探します」
「四大って昔実在した四人の英雄だっけ?リンもそのうちの一人だったんだよね」
「そういえば四大についてちゃんと説明していませんでしたね」
シノが思い出したように四大の解説を始める。
「四大とはかつてエルトラントで起こった大戦を終結に導いた英雄達の通称ですが、これは表向きに過ぎません。実際には、この世界エルトラントの成り立ちや根幹にも関わる力を持つ存在なのです。現在はヤガミ・リン、私クサナギ・シノ、ラズライト・フォン・アスガルド、そしてアカツキ・ホムラの4人を指します」
「!!!」
シノも四大の一人だったのか。いや、それよりもホムラだって?姓が違うけど、師匠のことじゃないのか?
「その、アカツキ・ホムラっていうのはもしかしなくても」
「はい。ジンとリンの師匠その人です」
師匠も過去に飛んでいたのか。
「四大…リンや師匠、シノ達はどうしてそんなに長生きできてるの?」
「我々が宿しているエーテルは特殊なもので、それが影響しています。我々やジンの高い身体能力と言語能力、そして長寿の力もそのエーテルの性質に依るところが大きいのです。また、ホムラのような例外はあるものの通常は肉体年齢的にも人間の身体能力のピークである20歳前後の状態が維持されます」
「え、僕も?」
シノが無言でコクリと頷いた。…あれ?じゃあ、僕も長生きなのか。なんか色々とぶっ飛んだ話で実感が湧かないので、それくらいの感想しか出てこなかった。
「ジンはこれまで周囲と比べて自身の身体能力が桁外れに高いと感じることはありませんでしたか?」
「ある、ものすごくある」
ちょっと前にリンが言っていた「私たちって普通の人間なのかな?」という言葉が頭に浮かんだ。
「どんな生物でも大なり小なりエーテルをその身に宿しています。体内に宿すエーテルの量が多ければ多いほど強力な力を行使することができ、身体能力も大きく向上します。我々の場合、その量が膨大で先述の特殊性も相まって非常に高い能力が発揮できる、というわけです」
情報量が多くて混乱してきた。シノもそれを感じ取ったのか一息つく仕草を見せる。僕は少し頭が冷えるのを待った後、彼女に話を続けて問題ないことを無言で目配せして伝える。
「話を戻しましょう。四大の子孫が帝国内にいると言った件ですが、私が三番目に言った四大の名前は覚えていますか?」
「えーと、ラズライト・フォン・アスガルドだっけ?…ああ、そういうことか」
「はい。ラズライトは400年前に実在した神聖アスガルド帝国の皇帝です。かの帝国の皇帝は代々四大の力を継承しているので、皇位継承権を持つ皇族を探します」
「それがリンに会うことにつながる?」
シノが再び無言でコクリと頷いた。でも、どうしてリンと会うために他の四大と会わないといけないのだろう?疑問に思っているとそれを察したのかシノがさらに続ける。
「先述の通り、リンは現在特殊な状況にあります。本当の彼女に会うには他の四大全員とジンの力が必要です」
「僕の?それってどういう…」
シノは僕の言葉を遮るように立ち上がって唐突な提案をしてきた。
「ところで、ジン。よろしければさっきの続きをやりませんか?」
「さっきの続き?」
「あなたの実力をもう一度見せてください」
シノは挑発的な笑みを浮かべながらそう言って自身の腰に下げている白鞘に手をかけた。ちょっと楽しんでいそうに見える。ついさっき完膚なきにまでにやられたので言うまでもないことだが彼女は強い。自分は彼女の動きについて行けるだろうか? ただ、このままやられっぱなしなのも悔しいので、一矢報いるくらいはしたいと思った僕は間髪入れずに返答する。
「うん、わかった」
「では、こちらへ」
シノはそう言って修練場内の道場の前まで僕を連れて来た後、「少々お待ちを」とだけ言って道場の中に入っていった。少し待った後に戻ってきた彼女の手には少し大きめの木箱があった。彼女は徐にその木箱を僕に差し出す。
「リンからの贈り物です。ジンが来たら渡してほしい、と」
「僕に?」
木箱を開けてみると、黒を基調にしたスーツ、靴、グローブ等が入っていた。これを身につけろ、ってことかな?
「これは戦闘用に設計されたものですが、旅支度の普段着として着用しても違和感のないものです。贈り主の趣味が多分に入っている気がしますが」
「…はは」
「では、準備が整うまでお待ちしています」
シノはそう言って修練場の中央に向かって歩き出した。僕は再度シノと一戦交えるために道場に入ってリンがくれた衣装に着替える。
サイズがぴったり…あれ、でも上着の袖がちょっと長いな。僕は肘の手前まで袖を捲った後、両手にグローブを填める…なんか厨二病っぽい出で立ちに見えなくもない。僕は当初来ていた制服を畳んで置いてから道場を出てシノの元へ向かった。
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「なかなか様になってますよ」
戻ってきた僕を見たシノが開口一番笑顔でそんなことを言ってきた。ちょっと照れくさい。
「始める前に一ついいかな?」
「どうぞ」
「このグローブを付けてからエーテルを練りやすくなかった気がするんだけど、実際にそういう効果があるの?」
「はい。そのグローブはエーテルエネルギーが込められた特殊な装備品でエーテルギアと呼ばれるものの一種です。いろいろとおもしろい仕掛けが施してあるのでぜひ使いこなしてみせてください」
エーテルギアか。今シノが手にしている白鞘もエーテルギアの類なのだろうか。
「準備はいいですか?」
「うん、いつでも」
シノに促されて僕は臨戦態勢を取り、そのまま彼女を観察する。微動だにしない隙のない構えだ。下手に動くと一瞬でやられる、そう感じさせる雰囲気が彼女にはあった。
「では、参ります」




