3話「ボーイミーツガール」
「仁、仁」
女の子の声が聞こえる。目を開けると見慣れた凜の顔が目の前にあった。しかし、どことなく違和感がある。黒髪ロングのストレート…ではなくポニーテール、まぁこれはたまにやってるのでそこまで違和感はない。高身長でスラッとした背筋にキリッとした目つき、そこも変わらない。
だが、自分の知っている凜と比べると雰囲気や服装が大人びているように見える。目の前の凜は全身黒でパンクスタイルのジャケットとジーンズのコーデでぴっしりときまっている。その様は長身でスタイルのいい凜ならではである。格好良さと可愛さと強さを兼ね備えた彼女がそこにいた。
「あ、やっと起きた」
「凜!大丈夫だった?あと、ここは一体?」
反射的に身体を起こした僕は辺り一面が真っ白になっていることに気付いた。ここはどこだろう?さっきまでいたところとは違う。ただ、
「あー、うん、えっとね、どこから説明したらいいかな。私もその…色々あったからさ」
凜は右手でほっぺをカリカリしている。なんだか様子が変だ。
「時間もないから手短に話すね。私はまだこんな形でしかあなたと話せないけど、またいつか会えるから…必ず私を見つけてね」
「凜?」
凜が遠ざかっていく。手を伸ばしても届かない。走っても走っても追いつくことができない。凜は少し嬉しそうな、それでいて寂しそうな顔をしてこちらを見ている。
「またね」
「リン!」
飛び起きるた目の先には滝が見える。さっきのは夢か。どうやら気を失っていたようだ。
「気が付きましたか」
「ッ!」
すぐ隣にさっき襲いかかってきた紫髪のポニーテールをした女の子が立っていた。彼女はこちらに近づいてくるとおもむろに手を差し出す。最初に声を聞いたときは焦ったが、手を出す彼女の動作があまりにも自然だったので、僕はそのまま彼女の手を借りて立ち上がる。そして、彼女が僕に頭を下げた。どうやらさっきと違って敵意はないようだ。
「さきほどはすみませんでした。てっきり侵入者かと」
「えっと、とりあえず座って話さない?僕もいろいろ聞きたいことあるしさ」
僕がそう言って彼女に頭を上げてもらうと、きょとんとして目をぱちくりしている彼女の顔が目に入った。う、さっきは遠目だったり突然の戦闘で必死だったりしたから気付かなかったけど、普通にかわいいなこの子。The・大和撫子って感じだ。パッと見た感じ、歳は僕やリンと同じくらいに見える。
僕達は少し離れたところにあるせり出した岩肌に移動して腰掛けた。彼女の所作は一つ一つが上品でついつい目で追ってしまう。また、さっき戦ったときにはなかった白鞘を腰に差しているのが見えた。本職は剣士なのだろうか?
「こんにちは。クサナギ・シノと申します。コウザカ・ジン殿」
「こちらこそ、はじめまして。僕の名前は…あれ、自己紹介したっけ?」
「リンから伺っています。あなたが来るのを待っていました。私は…」
「!?リンを知ってるの!?彼女は今どこに!?!
僕は我を忘れて問い詰めるような態度を取る。思わず彼女の肩を少し強めに掴んでしまっていた。
「あ、ごめん。つい…」
「いえ、お気になさらず」
僕達はお互いに目をそらした。ちょっと気まずくなった僕は別の質問をする。
「その、シノさんはリンとはどういう関係で?」
「そうですね、好敵手?いや、腐れ縁と言ったところでしょうか」
シノさんは何やら複雑な表情でそう答えた。何だろう、仲悪いのかな?
「それから、ここは一体どこなのか教えてくれないかな。僕さっきまで猛吹雪の山中にいたはずなんだけど」
「鳥居をくぐられましたよね?」
「うん、大きな竜に乗せられて結晶に覆われた城に辿り着いたんだけど、その中にあった」
「その鳥居がこの心苑への入口です」
「最初会った時も言ってたけど、そのしんえんって言うのは一体?」
「心苑とはエーテルによって構成される特殊な空間です」
エーテルとは自然エネルギーの総称。高出力のエネルギー体として活用するだけでなく、物質の性質を変化させたり、強化することもできる。また、エーテルは属性を持ち、火・水・風・雷・光・闇・無の七つの属性に分類される…と師匠から教わった。でも、エーテルで構成された空間というのは初耳だ。
「つかぬ事をお聞きしますが、ジン殿は銀色の光に吸い込まれて猛吹雪の山中に迷い込んだのではないですか?」
「う、うん、そうだけど、どうしてわかったの?」
「少し昔話をさせてください。今から約400年前ほど前に同じ銀色に光る穴を通ってここエルトラントの世界に降り立った一人のいけ好かないおん…コホン…勇敢な女性がいました。彼女はこの世界の英雄、通称四大の一人として後世に伝えられています。その名はヤガミ・リン」
「…今いけ好かないって言った?」
「あのおん…コホン…彼女とは当時激しくやり合ったもので」
シノさんは少し懐かしむような…というかちょっと機嫌悪そうな顔をしていた。やっぱり仲悪いのかな?
「あれ?でもちょっと待って。400年前って」
シノさんの話が本当だとすると僕はリンがいるのとは別の時代に来てしまった、ということ?
「はい。彼女がこの世界に降り立ったのは今から約400年前ほど前になります」
「じゃあ、リンってもうこの世にはいないの?」
天国から地獄に落とされた気分だった。リンも師匠もいない世界で生きていく、そんな自分が想像できず僕はとても沈んだ気持ちになった。
「いえ、彼女は生きています。まぁ、ちょっと特殊な状態というか状況であるのは確かですが」
「どうすれば彼女に会える?」
僕は食い入るようにシノさんに質問する。リンのことを聞いて少し冷静さを欠いてるのかもしれない。だから「どうして断言できるの?」とは聞かなかった。
「彼女に会いたいですか?」
シノさんの問いに僕はコクリとうなずく。
「わかりました。私が案内しましょう。ただ、道中は長旅になりますので、その点はご了承ください」
「その、もしかしなくても僕とリンってこの世界の出身?僕さっきまで多分この世界…エルトラントっていうところとは別の世界にいたみたいなんだけど。あと、さっきからなんか知らない言葉しゃべってるけど、普通に理解できてるし」
シノさんが無言で頷く。なんとなくそんな気がしたんだけど、やっぱりそうなのか。そういえば、あなたが来るのを待っていました、って言おうとしたのを思い出した。
彼女は最初から僕がここに来ることを知っていたのだろうか。
「わかった。でも、シノさんはどうして初対面の僕にそこまでしてくれるの?」
シノさんは少し苦笑いしながら答える。
「リンとの約束なのです。あなたが来たら案内してやってほしい、と。それに私もジン殿には会って話をしてみたいと思っていました故。あと、私のことはシノでいいですよ」
今度は笑顔になった。普段はクールビューティーっぽい感じだけど、話してると表情がコロコロ変わる子だった。
「正直わからないことだらけだし、今でもちょっと混乱してるんだけど、その…よろしく、シノ。あと、僕のこともジンでいいよ」
「はい。よろしくお願いします、ジン」
お互いに挨拶が済んだところでシノが切り出す。
「また、道中は危険が伴います。ジンがいたところは魔獣のような類いの生物は存在しないと伺っていますが、こちらではその辺に普通に生息していますし、それ以外でも何かと戦闘に巻き込まれることもあるでしょう。なので、時折実践的な鍛錬を通じて指南させてもらえればと思いますが、いかがですか?」
「ありがとう。ぜひお願いするよ!あと、エルトラントだっけ?この世界のことももっと教えてほしいかな」
「はい、喜んで」
僕とリンは何故別々の年代に転移したのか、何かと疑問は尽きないが、リンの手がかりを掴んだこととで僕は少し気持ちが楽になった。




