第19話 小さな配り物
十二月の市立初等校は、朝から少し浮き立っていた。
窓には、白い紙を切った小さな飾りが貼られている。細い紙を輪にしたもの、星のように折ったもの、途中で形が崩れて花に見えるもの。どれも立派な飾りではなかったが、冬の弱い光を受けると、教室の中がいつもより明るく見えた。
教室の隅には、紙包みがいくつか置かれている。
ジュールは席に座る前から、それを見ていた。見るというより、もう半分向かっていた。
「先生、それ菓子?」
「座ってから聞きましょう」
ルノー先生は名簿を机に置き、いつもの声で言った。
ジュールは椅子に腰を下ろしたが、体の向きは紙包みの方へ残っている。
「座ったら菓子?」
「座ったら話が聞けます」
「菓子の話?」
「話を聞く前に菓子へ走らないでください」
何人かの子どもが笑った。ルシアンは机の上を先に空け、何かが置かれる場所を作っている。マノンは隣の席で、ミラの方へ少し身を寄せた。
「今日は何かもらえるって」
「うん」
「菓子だったらすぐ食べる?」
ミラは教室の隅の紙包みを見た。それから、窓に貼られた白い飾りを見た。
「食べていいものか、聞きます」
「先生に?」
「うん。返すものなら、食べたら困る」
マノンは目を丸くした。
「食べたら返せないよ」
「だから、先に聞きます」
マノンは不思議そうな顔をしたが、嫌な顔ではなかった。ミラが大事そうに言うので、それ以上は笑わなかった。
ルノー先生は黒板の前に立ち、子どもたちを見渡した。
「今日は、年内最後の授業です。明日からしばらく冬休みに入ります」
冬休み、という言葉で、教室のあちこちから小さな声が上がった。ジュールは明らかにうれしそうな顔をし、ルシアンは机の上に置いた両手を見下ろし、マノンは「お休み」と小さく繰り返した。
ミラは、すぐには声を出さなかった。
鞄の取っ手に触れようとして、今は席に座っていることを思い出したように、手を膝の上へ戻す。顔は静かだった。けれど、ルノー先生はそれを見落とさなかった。
「冬休みの間、学校は閉まります。次に来る日は、この紙に書いてあります。家の人に渡してください」
先生は机の上から小さな予定の紙を取った。ミラにはまだ全部は読めない。けれど、それが学校へ戻る日を知らせる紙だということは分かった。
ジュールが手を上げる。
「先生、休みの間、ぼくの席は誰か座る?」
「座りません」
「じゃあ、椅子も休み?」
「椅子はここにあります」
「椅子は家に帰らないの?」
「帰りません」
教室がまた少し笑った。
ミラは、そのやり取りを聞いていた。ジュールは菓子や椅子のことで騒いでいるだけだ。けれど、その騒がしさのおかげで、ミラは一人で質問しなくて済んだ。
ルノー先生は、予定の紙を一人ずつ配った。
ミラの番になると、先生は机の上に紙を置き、短く言った。
「これは家の人に見せる紙です。なくさないでください」
「家の人に見せます」
ミラは両手で紙を受け取った。
「休みが終わったら、またこの席に座りますか」
「はい。ミラさんの席は、そのままです」
「見えなくても?」
「見えなくても、あります」
ルノー先生の声は、いつも通りだった。やわらかく言い直したわけではない。けれど、必要なところをまっすぐ置く声だった。
ミラは予定の紙を見下ろした。
「先生も、戻ってきますか」
「戻ってきます」
「みんなも?」
「来る日になったら、来ます。風邪を引かなければ」
ジュールがすぐに言った。
「ぼくは引かない」
「そう言う人ほど、外で上着を脱ぎます」
「先生、見てた?」
「見ています」
ジュールは首をすくめた。教室の空気が軽くなる。ミラは予定の紙を折らないように、鞄の内側へ入れた。
その後で、ルノー先生は窓辺の紙飾りを一つずつ外した。細い紙を折って作った、小さな白い星のような飾りだ。角は揃っていない。糊の跡も少し見える。けれど、子どもの手には十分特別なものに見えた。
先生はそれを一人ずつに配っていく。
ミラは両手で受け取った。
「先生、これは持って帰るものですか」
「はい。家に持って帰ってください。ミラさんに配ったものです」
「学校のものではないんですか」
「今は、ミラさんのものです」
ミラは紙飾りを見下ろした。
自分のもの。
その言葉は、まだ少し扱いが難しい。学校で配られたものなら、学校のものに見える。先生が作ったものなら、先生のものに見える。けれど、渡された。持って帰っていいと言われた。
ミラは紙飾りの角を折らないよう、机の上にそっと置いた。
次に、小さな菓子が配られた。
薄い紙に包まれた、砂糖のついた硬い菓子だ。大きくはない。子どもの手の中に隠れるくらいのものだったが、ジュールの顔は、さっきまでの冬休みよりずっと明るくなった。
「先生、これは食べるやつ?」
「家に持って帰ってから食べてください」
「今は?」
「今は授業中です」
「授業が終わったら?」
「道で食べながら歩かないでください」
ジュールは少し考えた。
「じゃあ、家の前?」
「家の人に聞いてください」
「家の人は、たぶん食べていいって言う」
「たぶんで菓子を開けないでください」
マノンが笑い、ルシアンの口元も動いた。
ミラは菓子の包みを受け取ると、紙飾りの横に置いた。予定の紙、紙飾り、菓子。今日は、机の上に小さいものが三つも増えた。
「ミラ、食べないの?」
マノンが聞いた。
「家で聞きます」
「誰に?」
「レオンさんに」
マノンはその名前を聞くと、少し笑った。
「ミラのレオン、今日も来る?」
「来ます」
ミラはすぐ答えた。
自分でその早さに気づいて、いったん口を閉じる。けれど、言い直しはしなかった。
ルノー先生はそのやり取りを聞いていたが、何も言わなかった。ただ、ミラが紙飾りを鞄に入れる時、角が折れないように厚紙を一枚渡した。
「これに挟むと、少し持ちやすいです」
「これは、返すものですか」
「はい。休み明けに返してください」
ミラは真面目に頷いた。
「厚紙は返す。飾りは家に持って帰る。菓子は、聞いてから食べる」
「その通りです」
ジュールが横から言った。
「先生、菓子も返さない?」
「返さなくていいです」
「食べたあとでも?」
「食べたあとに返されても困ります」
「だよね」
先生は目を細めた。
「今、確認しなくても分かることを確認しましたね」
「菓子のことは大事だから」
「大事なことほど、袋を開けずに持って帰ってください」
その言葉で、ジュールはようやく菓子を鞄にしまった。
ルシアンが自分の鞄をのぞき込み、小さく言った。
「ぼくの菓子、帰るまで残ってるかな」
「鞄が勝手に食べることはありません」
ルノー先生が答えると、ジュールが真面目な顔で自分の鞄を見た。
「でも、ぼくの鞄は信用できない」
「信用できないのは、鞄ではありません」
教室がまた笑った。ミラは自分の鞄を見下ろした。中に入れたものは、まだそこにある。予定の紙も、紙飾りも、菓子も、厚紙も。鞄が勝手に食べないなら、帰るまでは残る。
授業が終わる頃、教室の空気はいつもより落ち着かなかった。子どもたちは鞄を開けたり閉めたり、予定の紙を見せ合ったり、菓子の包みがちゃんと入っているか確かめたりしている。
ミラは紙飾りを厚紙に挟み、予定の紙を鞄の内側へ入れ、菓子をその上に置いた。順番を決めると、少し安心した。
門の前には、迎えの大人たちが集まり始めていた。
冬の夕方は早い。空はまだ明るいのに、通りの端にはもう冷たい色が落ちている。パン屋の前から焼けた匂いが流れ、馬車の車輪が石畳をこする音がした。
レオンは門の横に立っていた。
工場の水場で手を洗ってきたらしく、指先はいつもよりきれいだった。とはいえ、爪の間には黒い油が少し残っている。袖口にも、洗って落ちなかった跡があった。本人はかなりきれいにしたつもりらしく、胸を張っている。
ミラは教室から出て、レオンを見つけると歩いていった。
「今日は、手がきれいです」
「勝った」
「何に?」
「工場の水場に」
「全部は勝っていません」
ミラが爪の間を見ると、レオンは指を少し丸めた。
「細かいところで負けた」
「手は、難しいです」
「お前が言うと先生みたいだな」
ルノー先生が後ろから出てきた。
「手が難しいのは事実です。レオンさん、冬休みの予定の紙を渡しています。家で確認してください」
「はい。俺が読む紙ですね」
「あなたが読む紙です」
「読んだら、冬休みが少し短くなったりしますか」
「しません」
「大人の休みは増えませんか」
「しません」
「予定は厳しいですね」
「守れば、そこまで怖くありません」
「守らないと?」
「困ります」
「先生の困りますは、役所より近いですね」
「近いうちに困ります」
レオンは素直に頷いた。ミラはその横で、鞄を両手で持っている。
先生はミラへ視線を落とした。
「紙飾りは家に持って帰ってください。厚紙は休み明けに返してください」
「はい」
「菓子は、家の人に聞いてから」
「はい」
レオンが少し眉を上げた。
「俺が菓子の門番ですか」
「食べる時間を決める人です」
「急に責任が甘い匂いになりましたね」
「責任は甘くありません」
「菓子なのに」
「菓子でもです」
ルノー先生は短くそう言い、次の保護者へ向かった。
レオンはミラの鞄を見た。
「学校で配られたのか」
「はい。返すものと、家に置いていいものがあります」
「難しいな」
「厚紙は返します。紙飾りは返しません。菓子は、聞いてから食べます。予定の紙は、レオンさんが読みます」
「俺の仕事だけ急に重い」
「読めますか」
「読める。字とは仲がいい日もある」
ミラは口元をゆるめた。
帰り道、レオンは歩幅を落とした。最初の頃ほど意識しなくても、ミラの足に合わせられるようになっている。通りの石畳は冷え、薄い風が外套の裾を揺らした。
ミラは鞄を胸の前に抱えて歩いている。
「冬休みの日は、学校へ行きません」
「そうだな」
「でも、席はあります」
「先生が言ったなら、ある」
「見えなくても」
「見えないものは全部怪しいわけじゃない」
ミラは少し考えた。
「レオンさんの給金も、見えない時があります」
「それは別の意味で怪しい」
「財布にありません」
「財布はな、入ったものを長く留めるのが下手なんだ」
「練習しますか」
「財布が?」
「はい」
「俺より難しい相手だぞ」
ミラはほんの少し笑った。
その顔を見て、レオンは思い出したように外套の内ポケットを押さえた。中に小さな紙包みがある。工場の昼休みに手に入れたものだった。
昼休み、工場の休憩所でロイが古い木箱を片づけていると、中から短くなった鉛筆と、小さな菓子が出てきた。菓子はロイの妹が余らせたものだと言い、鉛筆は誰のものか分からないが、まだ少し書けると言った。
レオンはそれを見て、すぐに言った。
「それ、俺が勝つ」
「何にだよ」
「休憩所掃除」
「勝つって言いながら掃除を引き受けるのか」
「最終的に菓子が来るなら、勝ちに近い」
「近いだけで掃除が残ってるぞ」
「細かい負けは気にしない」
ロイは呆れながらも、鉛筆と菓子を紙に包んで渡した。
「ミラ用か」
「配り物だ」
「一人に?」
「一人なら、間違えない」
「お前は一人分でも間違えるから、包みを落とすなよ」
それからずっと、レオンは内ポケットを時々押さえていた。油がつかないように、作業着ではなく外套の胸に入れ直した。工場でそこまで気を使うと、ロイにまた笑われたが、今日は落としていない。
公営労働者アパートの中庭へ入ると、テレーズが洗濯場で水桶を片づけていた。エリーズは籠を抱え、マノンのほどけた髪ひもを直している。ルルは木の匙を持ったまま、トトの後ろを歩いていた。トトは匙に興味がない顔で尻尾だけ振っている。
テレーズがレオンの胸元を見た。
「また何か隠してるね」
「俺の顔はそんなに出ますか」
「顔じゃないよ。胸を押さえすぎなんだよ」
エリーズもこちらを見た。
「買ったの?」
「勝った」
「何に?」
「休憩所掃除に」
エリーズは少し間を置いた。
「それ、勝ったって言うの?」
「菓子と鉛筆が来た」
「掃除は?」
「俺に来た」
「負けてるじゃない」
「見方を変えれば勝ちだ」
「見方を変えすぎると、ただの雑用よ」
テレーズが笑った。
「ミラ、あいつは自分の掃除と引き換えに何か持ってきたらしいよ。危ないものだったら、すぐ見せるんだよ」
ミラはレオンを見上げた。
「危ないものですか」
「菓子と鉛筆だ。菓子は少し危ないかもしれない」
「なぜですか」
「食べたらなくなる」
「菓子は、そういうものです」
「お前もだいぶ正確になったな」
エリーズが横から言った。
「先生の影響ね」
「俺の影響も少しあるだろ」
「変な言い方の方ならあるわ」
「それも影響だ」
「胸を張らない」
中庭に小さな笑いが起きた。ミラは鞄を持ち直し、レオンの外套の胸元をもう一度見た。見えないものがある。けれど、今日はそれが、すぐになくなるものには見えなかった。
三階の部屋へ戻ると、窓の外には工場の煙突が見えた。夕方の煙は白というより灰色で、冬の空へ細く上がっている。
部屋は狭い。寝台、小さな机、椅子、黒い鍋、棚、壁際の簡易台所。何度見ても、立派にはならない。けれど、ミラは鞄を机の横に置くと、紙飾りを厚紙からそっと外した。
「折れませんでした」
「帰り道には勝ったな」
「紙に?」
「紙じゃなくて、帰り道に」
ミラはそれを考え、丁寧には頷かなかった。まだ分からないことは、分かった顔でしまわない。以前より、分からないまま待てるようになっている。
夕飯は、硬いパンと薄い豆のスープだった。
黒い鍋は相変わらず黒く、豆は多くない。けれど、湯気だけはしっかり立っていた。レオンはパンを二つに割り、ミラの皿の横に置いた。
ミラは食べる前に、鞄から予定の紙を出した。
「これは、レオンさんが読む紙です」
「飯の前に予定か」
「先生が、家で確認してくださいと言いました」
「先生の言葉は、飯より先に来るな」
「読みますか」
「読む」
レオンは手を拭き、紙を広げた。字は細かいが、役所の書類ほど嫌な顔はしていない。冬休みの始まる日と、次に学校へ行く日、持ってくるものが短く書かれている。
「休みが終わったら、いつもの時間に学校へ行く。持ち物は、鞄、スモック、名前布、厚紙を返す。菓子の包みは返さなくていい」
「菓子の包みも?」
「そこは書いてない。俺が足した」
「足していいんですか」
「今のは読んだんじゃなくて、俺の意見だ」
「紙と意見は違います」
「先生がもう一人いる」
ミラは口元をゆるめた。
食事を終えると、レオンは外套の内ポケットから小さな紙包みを出した。机の上に置く。学校の紙飾りの横だ。
ミラはそれを見た。
「これは、学校のものですか」
「家のものだ」
「家も、配るんですか」
「今日は配る。配り物の日だからな」
「一人でも?」
「一人なら、ちゃんと届く」
ミラは紙包みを両手で受け取った。包みは薄く、角が少し曲がっている。きれいな紙ではない。何か別のものを包んだ残りのような紙だ。それでも、折り目はちゃんとしていた。油の跡もない。
「これは、返しますか」
「返したら、俺の配り物が失敗する」
「失敗しますか」
「かなりする」
ミラは紙包みを開けた。
中には、小さな菓子が一つと、短い鉛筆が一本入っていた。鉛筆は新しくない。何度も削られて短くなり、端には誰かが噛んだような跡が少しある。けれど、芯はまだ残っている。
「これは、書けますか」
「ロイは、まだいけるって言ってた」
「ロイさんの鉛筆ですか」
「ロイの箱にあった鉛筆だ。そこから先は、鉛筆の過去が複雑になる」
「過去」
「まあ、今はお前のだ」
ミラは鉛筆を指先で持った。
「学校へ持っていきますか」
「持っていってもいい。家に置いてもいい」
「どちらですか」
「お前が決める」
ミラは、すぐには答えなかった。
学校でもらった紙飾り。返す厚紙。家で渡された鉛筆。食べたらなくなる菓子。机の上に並ぶものは小さいのに、一つずつ扱い方が違う。
「決めていいんですか」
「配られたものだからな」
「レオンさんが勝ったものです」
「勝ったものを配った」
「掃除も来ました」
「それは俺の分だ」
「掃除は、配りませんか」
「配ったら、ロイに返される」
「返すものですか」
「たぶん、誰も受け取らない」
ミラは鉛筆を見て、それから小さな菓子を見た。
「菓子は、食べます」
「今か」
「はい。聞きました」
「俺に?」
「はい」
「門番として許可する」
「門番は、食べませんか」
「門番にも少し税があると助かる」
ミラは菓子を見下ろした。少し考えてから、小さく割ろうとしたが、硬くてうまく割れない。レオンが手を出しかけると、ミラは一度止め、自分で紙の上に置いて、両手で押した。菓子は小さく音を立てて二つに割れた。
片方を、レオンの方へ差し出す。
「門番の分です」
レオンは受け取りながら、少し困った顔をした。
「俺が配ったのに、戻ってきたな」
「返していません。分けました」
「そこは違うのか」
「違います」
「先生より短く刺すな」
ミラは小さい方を自分の口へ入れた。硬い菓子を急がず噛む。砂糖がほどけるにつれ、目元の力もほどけていった。
レオンも自分の分を食べた。
「甘いな」
「はい」
「掃除一回分の味だ」
「掃除は甘くないです」
「そこが問題だな」
ミラは笑った。声は大きくない。けれど、部屋の中でちゃんと聞こえる笑いだった。
その後、ミラは紙飾りを棚に置いた。前に名前の字を練習した紙の近くで、落ちないように少し奥へ寄せる。白い紙飾りは、古い棚の上でそこだけ雪のように見えた。
ミラは家の紙包みの残りを、その横へ置いた。中には短い鉛筆が一本残っている。
「学校の分です」
紙飾りを指して、ミラは言った。
次に、紙包みを指す。
「家の分です」
レオンは椅子に座り、机の端に肘をつきかけて、やめた。紙飾りを潰しそうになったからだ。
「じゃあ、そこは配り物の場所だな」
「休みの日も、置いておきます」
「落とさないようにする」
「レオンさんが?」
「俺が」
「大丈夫ですか」
「今日はまだ何も落としてない」
「今日は、まだあります」
「信用が日持ちしないな」
ミラは棚を見たまま、少し考えた。
「学校の席は、休みの日もあります」
「ああ」
「厚紙は返します」
「忘れないようにする」
「家の分は、返しません」
「返されたら、俺が掃除に負けたことになる」
ミラはレオンを見た。
「掃除には、もう負けています」
「そこは忘れてくれ」
「忘れません。菓子と鉛筆が来たから」
レオンは一拍黙った。
ミラは、嫌なこととして覚えているのではない。何と引き換えに何が来たのかを、ちゃんと見ている。学校から来たもの。家から来たもの。返すもの。置いておくもの。小さな机の上で、その違いを一つずつ分けている。
レオンは棚の紙飾りを見た。
「じゃあ、忘れない。厚紙は返す。紙飾りはここ。鉛筆もここ。学校の席は学校。家の席は……」
部屋を見回し、少し困る。
椅子は二つある。けれど、一つは机の前にあり、もう一つは窓際で少しがたついている。寝台はミラのもので、レオンはまだ床で寝ている。黒い鍋は台所にある。どれも立派なものではない。
ミラはレオンの視線を追った。
「家の席は、椅子ですか」
「椅子でもいい」
「床もあります」
「それは俺の席にされると少し悲しい」
「レオンさんは床で寝ます」
「事実を言われると、もっと悲しい」
ミラは小さく笑った。
レオンは帽子を取り、棚の横の釘にかけた。そこにかけると、紙飾りへ触れない。鉛筆も落ちない。
「家は、ここだ。椅子もある。鍋もある。床も嫌なくらいある。鍵は俺が持ってる。だから、休みの日もなくならない」
ミラはそれを聞いていた。
親のことも、施設のことも、戻される不安も言わなかった。ただ、棚の上の紙飾りと紙包みを見て、最後に小さく頷いた。
丁寧すぎる頷きではなかった。
「じゃあ、休みの日も置いておきます」
「ああ。置いておけ」
「レオンさんも、落とさないでください」
「俺もそこに置くのか」
「違います。落ちると困ります」
「俺が?」
「はい」
レオンは少し笑って、椅子の背にもたれた。
「じゃあ、落ちないようにする」
「床で壊れないでください」
「冬休み前に言うことか、それ」
「冬休み中も、席がありますから」
ミラはそう言って、短い鉛筆を紙包みに戻した。
レオンは椅子の背にもたれかけ、床で壊れないよう、座り直した。




