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拾われたのは俺の方だった  作者: Aramaki_mai
第二章 家の人になる日々
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17/22

第17話 公園の人形芝居

挿絵(By みてみん)

その週の金曜、レオンが市立初等校の角を曲がる前から、子どもたちの「もどれー」が聞こえていた。


工場の機械にも負けない声だった。門の前では、鞄を振る子、迎えの大人の袖を引く子、何も知らないのに一緒になって叫ぶ子までいる。レオンはまず時計を見た。遅れてはいない。次に周囲を見た。逃げた子どもも、追いかける先生もいない。


その騒ぎの縁に、ミラが立っていた。


鞄を胸の前に抱え、胸元の名前布を一度だけ見下ろしてから、レオンの方へ歩いてくる。走らない。それでもレオンを見つけた足は、最初の頃より迷わずこちらへ向いた。


ジュールがその後ろから顔を出した。


「ミラのレオン、今日も来た」


「今日も来たんじゃない。迎えに来たんだ」


「同じじゃん」


「同じに聞こえる時は、だいたい大人の事情がある」


ジュールは少しも分かった顔をしなかった。代わりに、教室の中へ向かって片手を振る。


「明後日、人形芝居あるぞ」


レオンは帽子の縁を直した。


「急に話が飛んだな」


「公園でやるやつ。木の人形が出てきて、ぽこんって叩かれて、逃げて、みんなで呼ぶと戻ってくる」


ミラの目が少し動いた。


「呼ぶんですか」


「うん。戻れって。声が大きいほどいいんだって」


ジュールは胸を張って、広場の真ん中にでもいるような声を出した。


「もどれー」


そばにいた子どもが笑い、別の子も真似をする。門の前の声が一段大きくなった。ミラは鞄の取っ手を持つ手を強くし、すぐに周りを見た。怒る大人がいないか確かめるような目だった。


ルシアンが横から静かに言った。


「公園なら、少し大きく言っても怒られない」


「先生は怒らないのか」


レオンが聞くと、ルシアンは少し考えた。


「先生は、公園にはいない」


「かなり強い理由だな」


ルノー先生が教室の入口から出てきた。名簿を閉じ、子どもたちを順に見てから、最後にレオンを見た。


「公園の人形芝居は、日曜の午後です。見に行くなら、帰りの時間と混雑に気をつけてください」


「入るのに紙は?」


「いりません」


「本当に?」


「公園です」


「公園、強いですね」


「何と戦っているんですか」


「財布です」


ルノー先生は目を細めた。


「財布に勝っても、子どもを見失ったら負けです」


「かなり大きい負けですね」


「大きいです」


レオンは素直に頷いた。先生の言葉は、たいてい短くて逃げ道がない。


帰り道、ミラはいつもより静かだった。


通りにはパン屋の焼けた匂いが残り、石畳の上を馬車の車輪がゆっくりこすっている。工場帰りの男たちの声が遠くから流れ、夕方の煙突は灰色の空に細い煙を上げていた。


レオンは歩幅を落としながら言った。


「人形、気になるのか」


ミラは鞄を持ち直した。


「みんなで呼んでも、いいんですか」


「公園ならいいんだろ」


「教室では?」


「たぶん先生に止められる」


「おうちでは?」


「うるさかったら、うるさいって言う」


ミラはレオンを見上げた。


「でも、追い出さない?」


レオンの返事が一拍遅れた。初めて部屋へ連れて帰った夜、自分が言った言葉を、ミラはまだ持っている。


「追い出さない」


「公園でも?」


「公園は俺の部屋じゃないから、追い出す権利がない」


ミラは少し考えた。


「公園は、怒りますか」


「公園そのものは怒らないだろ。怒るとしたら、公園にいる大人だな」


「大人は、怒りますか」


「悪いことをしたら怒る」


「声は、悪いことですか」


レオンは帽子の縁を指で押さえた。こういう時、自分の答えはたいてい途中で曲がる。


「公園で、人形に向かって呼ぶ声なら、悪いことじゃないんだろ」


「人形に向かって」


「通りの馬車に叫んだら別だ」


「馬は、驚きます」


「そういうところは正確だな」


ミラは前を向いた。納得しきれない時ほど丁寧に頷く癖が出かけて、途中で止まる。


「小さい声でも、聞こえますか」


「聞こえる相手ならな」


「木の鳥も?」


「うちの鳥は、聞いてる顔だけはしてる」


ミラは口元をゆるめた。


公営労働者アパートの中庭へ戻ると、テレーズが洗濯場で水桶を並べていた。腕まくりをし、濡れた布を絞る音がする。エリーズは籠を抱えて、マノンのほどけた髪ひもを直していた。


マノンがミラに駆け寄ってきた。


「ミラ、日曜の人形芝居、行く?」


ミラはすぐには答えず、レオンを見上げた。


レオンはその視線を受けてから、少し得意げに言った。


「行くか。木の鳥がいけるなら、木の人形もいけるだろ」


ミラは真面目に聞き返した。


「人形も鳥ですか」


「そこは違う」


「じゃあ、なぜですか」


「木つながりだ」


「木は広いです」


エリーズが小さく笑った。


「雑なつなげ方ね」


「木はだいたい何かになるから強い」


「強いのは木じゃなくて、あんたの言い切り方よ」


テレーズが水桶を置き、ミラへ顔を向けた。


「公園は人が多いからね。レオンの袖をつかんで歩くんだよ」


「はい」


「嫌になったら、ちゃんと言いな。あいつは見ているようで、焼き栗の屋台に負けることがあるから」


「俺への信用が低いですね」


「財布と鼻のどっちも弱い男を、信用だけで歩かせられるかい」


ミラはレオンの袖口を見た。


「栗は、強いんですか」


「匂いが強い」


「財布は負けますか」


「今日は戦わない予定だ」


「予定は強いですか」


エリーズがすぐに言った。


「あんたの予定は弱いから、ミラが袖を持っていなさい」


レオンは言い返そうとしたが、ルノー先生の言葉を思い出してやめた。財布に勝っても、子どもを見失ったら負け。その負けは、たしかに大きすぎる。


日曜の朝は、警笛の代わりに共同廊下の足音で始まった。


部屋の中は平日の朝より静かで、窓の外の煙突も、まだ細い煙をゆっくり上げているだけだった。レオンは床の上で古い外套にくるまったまま、いつもより少し遅く目を開けた。背中は相変わらず床に文句を言っているが、今日は急かす音がない分だけ、文句の声も小さく聞こえる。


寝台の上では、ミラがもう起きていた。


机の端に置かれた木の鳥を見ている。以前、レオンが作ったというには少し雑で、鳥だと言い張るには少し勇気のいる木片だった。だが、ミラはそれを鳥として扱っている。そうなると、部屋の中では鳥だった。


「今日は、人形の日です」


「鳥に予定を聞いてたのか」


「鳥は、返事をしません」


「聞いてる顔はしてるだろ」


「はい。聞いている顔は、しています」


レオンは体を起こし、首を回した。嫌な音が少し鳴ったので、ミラがこちらを見る。


「壊れましたか」


「今日はまだ使える」


「人形の方が、よく動きますか」


「日曜の朝から木の人形に負けたくないな」


ミラは小さく笑った。


朝食は硬いパンと薄い豆のスープだった。特別な日だからといって、鍋の中身が勝手に増えることはない。レオンはパンを割り、ミラの前へ置いた。それから自分の財布を取り出し、中をのぞく。


ミラも覗き込んだ。


「財布は、元気ですか」


「歩けるくらいには」


「走れますか」


「走ったら中身が転ぶ」


「栗とは戦えますか」


「今日は芝居だけだ。栗とは目を合わせない」


ミラは真面目に頷いた。


「匂いとは?」


「匂いとは、なるべく遠くで戦う」


その答えが正しいのかどうか、ミラは少し考えたようだったが、丁寧には頷かなかった。分からないことを、分かった顔でしまわない癖が少しずつついてきている。


昼を過ぎてから、二人はアパートを出た。


中庭では、テレーズが干した布を取り込んでいた。エリーズは薄い外套を羽織り、マノンと一緒に待っている。ルルは木の匙を持ったまま、トトの背中をなでようとして、犬にうまく避けられていた。


「ちゃんと手をつないで歩くんだよ」


テレーズが言った。


「先生にも似たようなことを言われました」


「言われる前に分かりな」


「最近、言われる前に分かることが増えて困ります」


「困るところじゃないよ」


エリーズがミラの襟を少し直した。


「人が多かったら、無理に前へ行かなくていいからね」


「はい」


「声が大きくて嫌だったら、レオンの袖を引っ張りなさい」


ミラはレオンの袖を見る。


「袖は、取れませんか」


「取れたら、俺がエリーズに怒られる」


「縫います」


「怒ったあとにね」


エリーズはそう言って、レオンを見た。


「ミラを見てなさいよ。芝居より先に」


「芝居を見に行くのに?」


「だから、あんたは言われるのよ」


マノンがミラの手を取った。


「早く行こう。前の方、子どもがいっぱいになるよ」


ミラは一度レオンを見た。レオンが頷くと、マノンの隣に並ぶ。レオンはその少し後ろを歩き、途中でミラが振り返るたびに、まだいるぞという顔をした。自分では頼れる顔のつもりだったが、エリーズに見られていたら何か言われたかもしれない。


公園は、日曜の午後らしく人でにぎわっていた。


裸の枝が広場の端に影を落とし、落ち葉の上を子どもたちが走っている。焼き栗の屋台から甘い匂いが流れ、薄い外套の大人たちがその匂いに少し足を止める。紙の旗をつけた小さな舞台が広場の真ん中に立っていて、その前にはもう子どもたちが集まっていた。


レオンは屋台の方を見ないようにした。


すると、ミラが見上げてきた。


「見ています」


「人形の舞台をな」


「栗は、あっちです」


「知ってる」


「知っているのに、見ないんですか」


「知ってる相手ほど、見ない方がいい時がある」


「栗は、知っている相手ですか」


「財布の敵だ」


エリーズが横から言った。


「財布の敵より、迷子の敵を見なさい」


「迷子の敵って何だ」


「よそ見よ」


レオンは素直にミラの位置を確認した。ミラはマノンの隣にいて、袖はレオンの指が届く場所にある。少なくとも、今は負けていない。


舞台の前には、ジュールとルシアンもいた。


ジュールはレオンを見つけると、すぐに手を振った。


「ミラのレオン、来た!」


「公園でまでその呼び方か」


「ミラが来たから」


「俺も来ただろ」


「だから、ミラのレオン」


言い返せるようで、言い返せない。レオンが帽子の縁を押さえていると、ルシアンが隣で静かに言った。


「前は子どもの方が見える」


「俺が立つと後ろが見えないか」


「うん」


「正直だな」


レオンは子どもたちの後ろへ回った。舞台は少し遠くなるが、ミラの頭は見える。金髪がマノンの髪の隣で、日差しを少し受けていた。


やがて、小さな太鼓が鳴った。


舞台の幕のような布が揺れ、赤い帽子をかぶった木の人形が出てきた。鼻が少し長く、足は人間より妙に速く動く。人形は小さな椅子を倒し、鍋のふたを頭にかぶり、皿を落としそうになって大げさに驚いた。


子どもたちが笑った。


レオンも少し笑い、隣のエリーズに小声で言った。


「あいつ、うちの部屋に来たら初日で怒られるな」


「鍋のふたをかぶらなければ、あんたより片づけるかもしれないわよ」


「人形に負ける日が増えていく」


舞台の上では、赤い帽子の人形が、別の木の人形に追いかけられていた。小さな棒が振り上げられ、赤い帽子の頭にぽこんと当たる。乾いた音が、公園の空気に軽く弾けた。


周りの子どもたちは笑った。


けれど、ミラは笑わなかった。


肩がほんの少し上がり、両手が外套の前で固まった。レオンはすぐにその顔を見た。人形は倒れず、舞台の端まで逃げ、また大げさに頭を押さえている。痛いふりをしているだけだと、子どもたちは分かっている。だから笑う。


ミラは、その笑いを確かめていた。


怒る大人はいない。泣く子もいない。人形遣いは舞台の後ろで陽気な声を出し、赤い帽子の人形は叩かれた頭を振りながら、今度は相手の足元をくぐって逃げた。


レオンはミラのそばへ行こうとして、一歩だけ近づいた。エリーズが横から小さく言った。


「押さないで」


「押してない」


「行きたい顔をしてる」


「顔だけなら邪魔にならないだろ」


「顔が大きい時があるのよ」


レオンは帽子を少し下げた。代わりに、ミラがこちらを見た時に分かるよう、立つ位置だけを変えた。ミラは一度だけ振り返り、レオンがいるのを見ると、また舞台へ顔を戻した。


赤い帽子の人形は、今度は大きな箱の中へ逃げ込んだ。人形遣いの声が、わざと困ったように響く。


「出てこないぞ。呼ばないと戻ってこないぞ」


ジュールが真っ先に叫んだ。


「もどれー!」


マノンも続く。


「出ておいでー!」


周りの子どもたちが次々に声を出した。大きな声、小さな声、笑いながらの声。公園の真ん中に、子どもたちの声がふくらんでいく。


ミラは口を開きかけた。


けれど、声はすぐには出なかった。


レオンは子どもたちの後ろから、少し身をかがめた。無理に前へ押し出すのではなく、ミラの横顔に届くくらいの声で言う。


「人形に言えばいい」


ミラは舞台を見たまま、小さく聞いた。


「聞こえますか」


周りでは、ジュールが二度目の「もどれー」を叫んでいる。マノンは手を振っていた。ルシアンは声こそ大きくないが、きちんと舞台へ向かって呼んでいる。


レオンは、箱から少しだけ見えている赤い帽子を見た。


「俺には聞こえる」


ミラはすぐには動かなかった。


それから、両手を外套の前で握り直し、舞台へ向かって小さく言った。


「戻ってもいい」


周りの声に、ほとんど消えるくらいの声だった。


けれど、レオンには聞こえた。


箱が揺れた。


赤い帽子の人形が、そろそろと顔を出す。子どもたちが歓声を上げる。人形は一度引っ込みかけ、もう一度呼ばれると、今度は大げさに胸を張って舞台へ戻ってきた。


レオンは舞台を見たまま言った。


「効いたな」


ミラは返事をしなかった。


ただ、外套を握っていた指が少しゆるんだ。舞台の上で赤い帽子の人形がまた転び、子どもたちが笑う。ミラは笑わなかったが、もう周りを確かめる目はしていなかった。


芝居が終わると、人形遣いの男が帽子を持って回ってきた。


大人たちは小銭を一枚ずつ入れたり、何も入れずに軽く頭を下げたりしている。レオンは財布を出し、中を見て、しばらく考えた。


エリーズが言った。


「栗には勝ったんでしょう」


「勝った」


「じゃあ、芝居に払えるわね」


「財布の戦争が別の場所で始まった」


「戦争にしない」


レオンは小銭を一枚、帽子に入れた。入れたあとで、財布が急に正直な重さになった。気のせいではない。


ミラは人形遣いの帽子を見ていた。


「返すお金ですか」


「見せてもらった分だ」


「人形に?」


「人形を動かした人に」


「声も、入りますか」


レオンは一瞬考えた。


「声は、さっき払ったんじゃないか」


ミラは分かったような、分からないような顔をした。けれど、丁寧には頷かなかった。


帰り道、焼き栗の匂いがもう一度流れてきた。


レオンは顔をそちらへ向けないようにした。ところがミラが先に気づいた。


「栗です」


「知ってる」


「見ませんか」


「勝って帰る」


「誰に?」


「栗に」


ミラは口元をゆるめた。


「人形は、戻りました」


「ああ」


「声を出したあとも、戻りました」


レオンは歩く速さを少し落とした。公園の外へ出ると、石畳の通りに戻る。馬車の車輪の音、夕方の店じまいの声、遠くの工場の煙突。芝居のにぎやかさは後ろへ遠ざかっていく。


「お前も戻ってる」


レオンが言うと、ミラは自分の靴を見た。


「おうちへ?」


「そうだ」


「栗に勝ったから?」


「それもある」


「栗に負けたら、戻れませんか」


「栗を持って戻ることになる」


「それは負けですか」


「財布には負けだな」


ミラは少し考えてから、また小さく笑った。


アパートの中庭に戻ると、テレーズが洗濯物をたたみながら待っていた。ルルは眠くなったのか、木の匙を抱えたままテレーズの足元に座っている。トトはその隣で丸くなり、片目だけこちらへ向けた。


「どうだった、芝居は」


テレーズが聞いた。


レオンは胸を張った。


「人形がよく働いてました」


「あんたは何を見てきたんだい」


「木なのに、かなり動いてました」


「感想が工場寄りなのよ」


エリーズがミラを見る。


「怖くなかった?」


ミラはすぐには答えなかった。


マノンは「赤い帽子の子、最後に鍋をかぶったんだよ」とルルに説明している。ルルは分かっていないが、木の匙を振って喜んでいた。中庭には夕飯の匂いが落ちてきて、共同廊下では誰かが洗濯物を取り込む音を立てている。


ミラは少し考えてから言った。


「戻りました」


エリーズは、そこで余計に聞かなかった。


「そう。よかったわね」


「はい」


ミラの返事は丁寧だったが、学校で聞き分けのいい子に見せる時の声とは少し違っていた。


部屋へ戻ると、夕方の光は窓の端に細く残っていた。


レオンは黒い鍋を火にかけ、薄い豆のスープを温め直した。特別な芝居を見ても、夕飯の鍋が急に立派になるわけではない。ミラは外套を脱ぎ、机の端に置いてある木の鳥を両手で持った。


「人形は、戻りました」


ミラは木の鳥へ向かって言った。


レオンは鍋をかき混ぜながら聞いていた。


「声を出したあとも、戻りました」


木の鳥は返事をしない。けれど、いつものように聞いている顔だけはしている。


「そいつにも教えてやれ。木の先輩だ」


「鳥が先輩ですか」


「この部屋では、木の鳥の方が先にいる」


「でも、人形の方が動きました」


「そこは先輩が負けたな」


ミラは木の鳥を机の端へ置いた。さっきの舞台を見せるように、窓ではなく部屋の内側へ向ける。


レオンは椀にスープをよそった。


「熱いぞ」


「はい」


ミラは椅子に座り、椀を両手で持つ前に、もう一度木の鳥を見た。


「戻ってもいい」


その声は小さかった。


公園の中で言った時よりも、はっきりしていた。


レオンは椀を置きながら、その声を聞いた。


「そうだな」


うるさいとは言わなかった。聞こえたので、返事をした。


窓の外、共同廊下でテレーズとヴィクトルの声がした。掲示板に町の知らせが貼られているらしい。十一月十一日、共同墓碑、黙祷。そんな言葉が、廊下の向こうから切れ切れに聞こえてくる。


ミラが顔を上げた。


「町の紙ですか」


「たぶん、来週の知らせだ」


「何の知らせですか」


レオンは椀を持ち、窓の方を見た。


「町が少し黙る日だ」


ミラは木の鳥を見たあと、スープの湯気へ目を落とした。


「町も、黙りますか」


「少しだけな」


レオンはそう言って、パンを割った。


公園で見た人形の赤い帽子も、子どもたちの声も、もう部屋にはない。あるのは薄い豆のスープと、硬いパンと、部屋の内側を向いた木の鳥だった。


読んでくださり、ありがとうございます。

レオンとミラの生活が少しずつ変わっていく様子を、気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。

よろしければ、最後までお付き合いください。

挿絵(By みてみん)

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