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不思議な髪色の彼女のレースと、しがない僕の試合  作者: タマツ 左衛門之介久


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2/5

引っ越し 彼女と離れてしまった時間

僕は彼女と過ごせる時間を持てた。それは奇跡。

それが僅かな時間であっても、それは夢の時間の旅路の始まり。

僕は夢の時間の旅人となり、見果てぬ夢の先を探した。


だけど、彼女の将来、横に居るのは僕じゃない。

それぐらいの認識と自覚、分相応さは持っているつもりだ。

悔しいけど、否定出来ない事実だ。


今は見えもしない、その誰かが現れるまで。

それは明日かも知れない。


だから、許される限りこのままでいたい。だけど、いつまでも。

許される限りで続くだけ。



だけど、夢の時間の旅人の旅路は終わりを告げる事になる。


二学期が始まって早々、僕は家族と共に県外へ引っ越す事になる。

 高校2年生の二学期早々に、僕は引っ越す事となった。


 切っ掛けは、父の母親が倒れた事に起因する。

 以前から一人暮らしを続けていた祖母であったが、いつの日か祖母の元へと引っ越す事は考えていたと。

 それは僕の高校が終わるのをひとつの目安として、卒業と同時に、決定された予定とまでは呼べないが、引っ越す計画があったのだと聞かされた。


 僕には知らされてなかったけど、それに反対する気はなかったし、何故だか納得もしていた。

 何となく、薄々感じていたし、父と母だって色々と話し合いの末に出したひとつの結論だったのだろう。

 だけど卒業するまで、まだ僕の高校生活は半分残っていた。


 高校生の半分が過ぎていたが、このままここに残る事だって、他校に編入する事も選べた。

 このまま残れば、彼女と過ごす時間が続けられるかも知れない。

 今の僕にとって、それを上回るイベントは存在しない。


 だけど、現実にも直面させられる。

 日々の生活はどうする?通うには距離が有り過ぎるから何処かに下宿でもするのか?

 下宿するなんて憧れる。だけど同時に両親に(金銭的な)負担を掛けさせてしまう事は明白だ。

 僕のエゴの為にだけでは済まされない。それぐらいの分別は持っているつもりだ。


 そして彼女との関係性について、冷静に考える時間にもなった。


 彼女の将来、彼女の横に居るのは僕じゃない。

 それぐらいの認識と自覚、分相応さは持っているつもりだ。

 悔しいけど、否定出来ない事実だ。

 だけど今現在は許されている、何故だか許されていると思う。


 それは、今は見えもしない、その誰かが現れるまで。

 それは明日かも知れない。

 だから許される限り、一時的な事だとしても、このままでいたい。

 だけど、いつまで?

  

 旅路の終わり。

 夢の時間の旅人にも終着点が訪れるのだろう。

 旅は何処かに辿り着く事で、その行程は終わらせるものでもある。

 ただ単に彷徨い続けるのであれば、それを旅とは呼べないかも知れない。

 旅路には出発点が有り終着点が、そのゴールは在る。

 元々僕らは正式に付き合っている訳では無い。

 ただ、帰り道が同じだけ。ただそれだけの関係。


 そう、分かってる。だけど浮かれていた。

 素っ気ない態度だったと思われてもいたかも知れないが、彼女と一緒に過ごせる時間が待ち遠しく、毎日毎日、それは最大の楽しみであり、最上級のイベントだった。

 それが終わる事なんて考えてもなかったし、終わらせるつもりも更々無かった。


 それでも僕は、僕では無い誰かが現れる事を知っている。

 それは変えられない、決まり事だとも知っている。

 僕では無い誰かが現れた時、僕の夢の時間の旅人は終わりを迎え、僕はあの場所を去る事になる。


 その時僕は、その場面を目にするなんて出来ないだろう。

 笑顔で彼女の横を誰かに渡す事なんて出来やしない。

 そんなの絶対に嫌だ!

 それなら僕は何を持ってる?

 彼女の隣に立つだけの資格は何を持っている?

 何も無い。

 彼女を惹きつける事ができる何かを持っているのか、それとも僕があの場所に留まるだけの何かを持っているのか?

 何も無い。


 誰かに説明出来る事、胸を張って言える事。

 出来損ないでつまらない僕が何を持っている?

 何も無い。


 たけど、この試合を終わらせる事も、自分からピッチを背にする気は無い!

 僕はこの旅路を終わらせる気は無い。旅路の終着点となるゴールを決める事は出来ない。

 

 夢の時間の旅人のゴールとなる終着点が、彼女の隣に設定されていない事も知っている。


 だけど、

 それに僕はやり残している事が有る。

 彼女の髪色。

 僕が惹かれた彼女が持つ不思議な髪色。

 何色何だろう、何色って表現するのが適当何だろう?まだその答えも、ヒントにさえ辿り着いていない。

 茶色とグレーが混ざってる様な、クリーム色が見え隠れする様な、いやいやそんな単純じゃなくって、こう、もっと複雑と言うか、表現する事に窮してしまう、、、見付けられない、決められない。


 彼女と帰宅を共に出来た時間帯は、少し日が傾き出していた事が多かった。だから悔やまれる。

 夢の時間の旅人は、終着点を知らなかったから、明日も、その先も、彼女の持つ不思議な髪色が見れると思って、いつまでも見れるモノだと、、。


 嗚呼、明るい陽の光の下で、彼女のあの髪色を見たい!

 そして色の探求をしたい!

 いつまで見ても見飽きない、あの不思議な髪色を、、、

 適うなら、この手を伸ばし、彼女の髪に触れたい。


 だけど、彼女の髪色にピッタリと合う色の種類を見付けられたら、何色って表す事が出来たのなら、、、そこには何が有る?

 彼女の隣に居るのは、僕じゃない、、、あの髪色の呼び名と言える色が見付けられたら、辿り着けた先、、、有るのは虚しさだけなのだろうか。


 いや違う!

 僕があの髪色を探求したっていいはずだ。

 だけど、


 だけど、

 だけど、、、そう、、、彼女の未来に、彼女の横に居るのは僕では無い。

 だけど、、、


 僕は、泣いた。

 ただただ、泣いた。




 夏休みの最終日、僕は自転車に乗って彼女の家へと向かった。

 僕は県外に引っ越す。

 それを彼女に伝える事は出来そうにない。

 だけどひと目、彼女の姿が見たかった、彼女のあの不思議な色をした髪をもう一度だけだとしても、見たかった。


 彼女の家の前をさり気なく通り過ぎる。

 Uターンしてもう一度通る。


「あれ?」

 どうやら彼女の家は留守の様だ。

 彼女の家族構成は知らないけど、どう見ても留守の様だ。

 たまたま外出しているタイミングに、僕は来てしまったのだろう。

 まぁ、夜には帰って来るのだろう。

 明日から二学期が始まるから。


 


 二学期が始まって、僕は校舎内をうろつき、彼女の姿を探した。

 彼女の姿は朝の全校朝礼では見掛けられなかったし、校舎内でも見付ける事が出来なかった。


「山田ぁ、ちょっと」

 僕はハンド部のクラスメイトを呼び出して、彼女の情報収集をする事にした。

 ハンドボール部は男女の部活だから、女子部員経由で彼女クラスメイトか、陸上部の女子に聞いて欲しいと頼んだ。

 この探りを入れてもらうお願いは、凄く勇気が伴うものだった。


 僕は今週末には引っ越してしまう。

 二学期が始まってしまっていたが、転入の手続きとか、実際の家の引っ越し作業とかで、それはズレ込んでしまっていた。

 僕が彼女の姿を見れる猶予は残されて居ない。

 だから恥ずかしいなんて言ってられなかった。

 山田には、ジュースを買わされたけど。


 彼女は、居なかった。

 あの日のレースの後に、療養を兼ねて彼女の父親の母国であるオーストラリアに旅行に行ったと。

 彼女はオーストラリアには行った事が無く、それは初めての旅行であるとも。


 8月の間は向こうで過ごし、二学期が始まる前には帰国の予定だったと。

 彼女のクラスでは、彼女の帰国、彼女の出席が遅れる事を担任教師から知らされたそうだけど、クラスメイト達は二学期が始まって姿を現せない彼女が、向こうへ永住でもしちゃうのかとの噂を立てていたそうだ。


 彼女がオーストラリアに行っているなんて、初耳だった。

 僕は聞いていなかった。


 『自惚れるな。』

 別の僕が囁いて来た。


 僕と彼女の関係は、帰る方向が同じなだけ。

 だから彼女がオーストラリアに行く事を僕にわざわざ言う必要も、許可を求める事も無い。

 彼女の隣に立つのは、僕じゃない。


 彼女の帰国が遅れている。

 僕は彼女の姿も、あの不思議な髪色を見る事も無く、この土地、この学校を離れる事になった。







 転入となった高校は、簡単な試験だったので無事に編入が、なんとか認められた。

 新しい別の場所で、新生活が始まる!なんて、全く思えなかった。

 沈んでしまっていた気持ちを、何とか引っ張り上げていた。


 僕は転入日早々にサッカー部を訪れ、入部の希望を申し入れ、サッカーは続けた。

 サッカーを始めたのは高校から、まだ経験と言っても1年半しか経っていない、素人同然。

 だけどチームが変わっても、とにかく試合で勝ちたかった。サッカーの試合で勝つ経験がしたかった。


 こっちのサッカー部と今までのサッカー部との練習方法の違いに驚かされた。

 ランニングから始まりパス回し、コーナーキックへの飛び込みも全てのスピードが速く、そして強かった。

 部員の体付きも、皆が締まっていて、逞しく感じた。


 でも、一番の違いは、グランドの広さだった。

 この学校のサッカー部に与えられた練習場となるグランドは、砂地であり半面コート。


 それは同じであったが、半面コートのサイズがフルコートの半分であり、それは選手間の距離に表れていた。

 早く正確なパスでなければカットされてしまう、強く寄せなければかわされてしまう。鋭く蹴らなければ届かない。

 ポジションの位置取り、動き出すタイミング、全てが経験した事の無いと言える程、別の競技かと思ってしまう程のインパクトを受けた。


 少し期待していた、陸上部と日暮れのランニングで鍛えた脚は、そこそこだった。

 だけど、上手く、強くなりたい!そして試合で勝ちたい!

 

 経験の浅い僕が出来る事、とにかくガムシャラに走り、ボールを追い駆けた。

 僕はサッカーに打ち込んだ。


 それは彼女を忘れる為に?

 いや、彼女を忘れる事なんて、出来っこ無い。


 だけど確かに、グランドでボールを追っている時間は、彼女の事を忘れていた。

 いや、正確には彼女の事を想うひまを与えてくれなかった。


 新しくチームメイトとなった皆は、僕を迎え入れてくれた。

 僕が持っていた運動能力を高く評価してくれたみたいだけど、サッカーに関してはまだまだ彼らの望む様な技術も力も持っていなかった。

 だけど僕が育たなくては、彼らの練習相手にもならない。


 それと、チーム力を重んじる傾向も有り(これは監督である、顧問の先生の指導による)、控え選手であっても、戦力には変わらない。

 サッカーは戦術うんぬんも大切だが、怪我が付き物でもある。

 不慮のプレーで、選手の交代を強いられる場面も有る。

 

 僕は経験も浅く、技術も足りない出来損ないだ。

 だけど控え選手になる為にサッカーを続けるんじゃ無い!

 レギュラーとなって、勝利となった試合のピッチに立つ為にサッカーをやるんだ。

 僕はサッカーからそれだけの情熱を注ぐだけの何かを感じていた。


 それは、離れてしまった彼女に注ぐべき情熱を無理矢理置き換えるだけの価値としてしまったのだろうか。

(後々思った事はある。この情熱の一片でも勉強に注いでいれば)

 

 学業の方は相変わらずのサッパリだった。




 秋の終わりに、全国サッカー選手権の予選が始まった。

 僕はなんとかベンチ入りを果たしたが、位置付けとしては準レギュラー。

 初心者同然、荒削りな僕としては上々の出来。

 だけど上には上が居る。分かっているけど、少し悔しかった。

 後半の守備要員としてピッチに立てれば御の字だ。


 僕のその初戦で、試合に勝つ経験をした。

 試合には出場出来なかったし、相手は格下と呼んでもいい相手だったそうだ。

 試合に勝利したチームメイトは、さも当たり前の様に淡々としていたけど、僕の中では込み上げて来る物があった。


 勝つ事って、何でこうも気持ちが高鳴り、何とも言えない余韻を興すモノなのだろう。

 だけど同時に冷めていた。


 僕自身が、サッカーの試合を通して初めての勝利の試合に、僕がピッチに立つ事は無かった。

 試合終了のあの瞬間、勝った試合のあの瞬間に僕はグランドに立っていたい!

 そしたらもっと、もっと別の感情を持てるのだろう。

 次こそは、必ずあの場所に立ち、勝利を味わいたい!

 

 そうでないと、彼女に会った時に試合で勝ったなんて報告は出来ない。





「そうだ、あいつらの試合も始まっただろう」

 僕はパソコンデスクに座ると、選手権予選、地方大会の結果を探した。


「勝ってる!」

 凄げー!やった、勝ったんだ!我が弱小サッカー部の創設以来の初勝利だったりしてっ!

 嬉しい、凄く嬉しい!やった、勝ったんだ!

 皆は今日の僕以上の喜びを得たのかな?

 おめでとう、僕も嬉しいよ。


 だけど悔しい。

 僕は今日の勝利のピッチにも皆が勝ったピッチにも立って居ない。

 いや、元のチームは僕が居なかったから勝てたのかも知れない。

 嬉しさよりも何故だか悔しさの方が多かった。



「それなら、」

 高校生の陸上競技会って、夏のインターハイだけなのか?

 実は知らなかった。

 それに彼女が実際にどれだけの記録を持っているのかも知らなかった。

 彼女の全てが知りたいと言いつつも、実際に彼女の事を調べたりする事は無かった。


 パソコンの前に改めて座り直し、彼女の日本語でのフルネームと陸上、記録で検索を掛けた。

「なんだコレ?!」

 彼女に関する検索結果が、途切れる事を知らないかの様に画面に映し出された。

 『女子陸上界に新生現る!』

 『駆け抜ける美少女』

 『走る女神』

 どのタイトルも、彼女を褒め称えるモノであった。

 だけど、幾つかのタイトルを目で追っても『陸上・記録』の項目が見付からない。

 その中で、彼女の顔写真が付いたタイトルが複数有る事に目が止まった。


「もしかして、」

 何気なく検索結果の“画像”を選択すると、僕は椅子からズリ落ちそうになった。

 そこには彼女の画像が無数に並ぶ世界が現れた。


 僕は食い入るように多くの画像に文字の如く食い付いた。

 ユニホーム姿の彼女の多くの画像に続き、動画も有れば、制服姿も有る。

 とにかく彼女の顔、走る姿、制服姿。

 何からなにまで!


 少し懐かしい、中学生時代の彼女のユニホーム姿さえあった。

「どうなってるんだ?!」

 僕は絶句と共に言葉を失ってしまった。


 目の前には無数の彼女の画像が流れる。

 ご丁寧にも彼女の顔と誰かの裸の体とのコラージュ写真も有る!

 盗撮?そうだろう。本人や関係者に許可を取ったなんて考えられない。

 あの日、棄権と成ってしまった彼女の出場した競技会の会場でも、カメラレンズを向けていた者は居たのだろうか?

 気が付かなかっただけ、実際は多くの“自称カメラマン”が潜んで居たのだろう。

 その事実、あの日の彼女が見せた苦痛の表情の画像が有った。


 僕は何かが、胃から込み上げて来た。

 僕は部屋から飛び出し、便器を抱えた。

 さっき食べた夕食を全て戻してしまった。


「何が起こっているんだ?」

 嘔吐の苦しみから解放されると、少し冷静さを取り戻し、再びパソコンデスクに戻った。

 世間知らず。

 そう、彼女を放っておく者なんて居ない。

 知っていた。だけどそれは学校の範囲内での事だと思っていた。

 彼女を放っておく者なんて居ない。

 それが一般社会であっても。

 

 僕の世界は家と学校とのその間だけ。

 だけど実際の社会は世界へと広がり続いている。


 僕が知らないだけで、世界は回っている。

「はっ!」

 僕が知らないだけ。

 世界は広がり続いている。

 その中に、彼女の隣に立つ者が存在する、、、


 何処の誰だかは分からない。だけど確実に居る。

 僕では無い、別の誰かが。


 彼女から離れ、遠い距離の先で彼女を想うと悲しい気持ちに占領されてしまう。

 彼女の姿が見れない、彼女の持つ、あの不思議な色の髪。



 盗撮だろうが何だろうが、久し振りに目にした彼女は可愛らしく、美しかった。

 だけど僕が記憶する、彼女の持つあの不思議な髪色の色合いが上手く映し出されている物が見付からない。

 顔、上半身、全身、後姿でさえ、僕が表現方法としての色合いを探した髪色は見つからなかった。


 それでも、めげない僕はお気に入りの画像を見つけた。

 夢の時間の旅人の最期の記憶、夏制服の彼女の姿。

 ああ、あの時、僕らは誓いの真似事だったけど、二人で決めた事が有ったんだ。

 今に思えばあれは、二人だけの秘密であったのかも知れない。

 二人で持った秘密、それは僕と彼女の距離が近くなったからなのだろうか。


『勘違いするな。』

 別の僕の意識が現れる。

 お前では無い。

 お前が隣に立つ者では無い。



 僕は不謹慎ながら、彼女の夏の制服姿の写真をマスターベーションのオカズにした。

 だけどそれは一回きりだった。

 次の時には、僕のソレは萎えてしまった。







 僕に出場機会が回って来た。

 後半の残り15分、スコアは1-0、逃げ切りを計りたい場面。

 守備固めと言えばそれまでだけど、僕らのチームは疲弊していた。


 風は少なく蒸し暑さに加え、午前中に降った雨の影響で足場が悪く、尚もピッチ上は蒸し暑さが倍増していた。

 チームの皆は果敢に攻め、先制点を上げた。

 1点先行しているとは言え、見て下さっている観客も、両チームのベンチも、グランドの中の選手達でさえ、どちらが優位にゲームを進めているのか判断は着かなかっただろう。


 先制点、それは対戦相手からすれば順当だったそうだけど、後半に入っても追加点を奪えないまま、悪いままのピッチコンディションはゲームを拮抗させ、ベンチには嫌なムードが漂っていた。

 僕らのチームが攻めきれず、悪戯に体力を奪われていたのは明白だった。


 どんな試合状況、どんなピッチコンディションであっても、僕自身としては満を持しての出場だ!

 とにかく走った。

 皆の動きが悪くなっているのは関係無い!

 

 ターンのタイミングで何度も芝に足を滑らせ、何度も転倒してしまった。

 滑るピッチに悪戦苦闘となってしまだったが、そんな事では、めげない。格好悪くてもいい!

 この時間帯で一番動けるのは僕だ!

 それは僕のチームだけでは無い、このピッチに立つ全ての選手の中で一番優位とも言えるはずだ!


 とにかくボールを掻き出し、ボールへと先に追い付き、相手の自由にはさせない!

 それは前の学校で、初めて覚えたサッカーと変わらなかったのかも知れない。


 遠目の位置から放り込まれたボールは、競り勝った味方の頭を擦り、ゴールマウスからは大きく逸れた。

 ダメだ!

 今コーナーにしちゃダメだ!残り時間は少ない!

 僕は滑る足元に負けず全速力で逃げるボールへ滑り込んだ!

 届く、いや、届かす!


 僕は走り込み、飛び込んだつま先がボールに触れた。

 そして捻りながらボールをタッチラインから掻き出し、サイドラインへボールを蹴り出した。

 相手はスローインでの再開になる。

 コーナーキックを与えてしまう事は避けれたが、まだまだだ!

 まだ、相手に優位は与えさせない。


 残り時間は関係ない!

 僕は直に立ち上り、受け手となる相手選手に駆け寄った。

 相手のスローインを受けた相手に体を詰める!

 笛が鳴った。


 まさかっ!寄せが激しすぎたのか?!

 僕が主審を振り返って見ると、主審は真上に手を挙げていた。

 試合終了のホイッスルだった。




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