表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

19



 そうして弟のヘンリーとくらべる。

 リチャードは3人兄弟である。ひとつ下の弟ヘンリーは側室の子。7才下のチャールズとリチャードは正室の子である。

 当然リチャードが王太子になったのだが、このヘンリーがちょっと曲者なのだ。


 なにしろ、側室共々野心家だ。王太子の座を狙っている。なにかとリチャードの足を引っ張り、引きずり降ろそうと、虎視眈々と狙っているのだ。

 リチャードは常日頃から気を張っている。ちょっとの油断が命取りになりかねない。


 完璧な王子とは建前だ。その下は少々気弱な青年である。足元をすくわれないように、必死に取り繕っているだけなのだ。


 生来リチャードは争いごとを好まない。ヘンリーとも敵対するのではなく、協力し合って国政を担いたいと思っているのに、彼はそうは思わない。

 すべてを自分の手中に収めたいと思っている。


 自分には足りないなにか、ヘンリーに足りないなにか、チャールズに足りないなにか。

 それらをおたがいに補い合って、3人で国政を担っていけばいい。チャールズは幼いながらも、それがいいと言ってくれる。

 なのにリチャードのその思いはヘンリーには届かない。

 リチャードは独裁者になるつもりはない。

 言ってみれば穏健派。対してヘンリーは強硬派。表立ってはいないが、ヘンリーを王太子に推す声も根強い。

 

 リチャードは「王太子」という仮面をかぶる。なにを言われても、どんな嫌味を言われても、鉄壁の王太子スマイルではね返す。

 けれど塵も積もればなんとやら。心は疲弊していく。

 みんなの期待に応えなくては。


 もしかしたら、そんな隙をつかれたのかもしれない。


 子どものころからの友だちで、今では側近を務めるアンドリューとアーサーの目の前で、転移魔法陣を踏んでしまった。

 いくら巧妙に隠されていたとはいえ、うかつだった。

 

 心配しているだろうな。あまり自分を責めないでいてくれるといいのだが。

 なんとしても、帰る方法を見つけなくては。




 それにしても、この世界は驚くことばかりだ。

 ばすにすいか。ゆにくろにこんびに。

 馬がいないのに走るとは、いったいどういう仕組みなのだ。レンに言わせれば、魔法のほうがよほど「どういう仕組み」なのかわからないと言う。

 そうなのか?


 そして、どこへ行っても耳慣れないピコンとかティリャンとか音がする。

 びっくりする。

 でもびっくりしているのはリチャードだけで、ほかの人はみんな平然としているのだ。

 どこで、なにが鳴っているのかもわからないのに、なぜ驚かない。


 お店というのにも初めて入った。向こうの世界でもお店はある。庶民が入るものだ。リチャードは行ったことがない。

 買い物は商人がお城に来るから。呼べば来るから。


 あんなに同じ服が、大量にならんでいるのをはじめて見た。どうしたらあんなにたくさんの服が出来上がるのだ。

 服は仕立て屋が仕立てるものだ。仕立て屋が来て採寸をし、仕立てあがったら持ってくる。

 そういうものだろう?


 レンが言うには、服は洋服屋で買うものだという。注文なんて、ごく一部の金持ちがすることなのだ。

 しかも安い。

 たしかに、今リチャードのために買ってくれたのは、Tシャツとハーフパンツが3枚ずつ。ボクサーパンツが4枚。

 通貨価値はわからないが、札一枚でこれだけ買えるのは安いってことだろう。


 あちらの世界でもそんなことができたなら、さぞや便利だと思う。経済も活発になるに違いない。

 なんとかその仕組みを知りたいものだ。


 それに「れじ」とやら。かごを置いただけで、会計ができる。人がいないのに、誰が計算しているのだ。

 字が出る画面を指でピッと押す。すると画面が変わるのだ! お金を投入する。おつりが出る。会計おしまい。


 わけわからん。

「え? 終わり?」

 思わず聞いた。

「終わりー。ほらレシート」

 見せられたすまほには文字が出ている。れしーともわからん。


「会計しないで出ていく人はいないの?」

 ちょっと心配になる。

「いるかもしれないね。でも悪いヤツは捕まるんだよ」

「けいさつに?」

「そう、警察に」

「呼びに行っている間に逃げられないか?」

「スマホで電話すればいいじゃん」

「でんわ」

「そう、電話」

 すまほってなにをする機械なんだろう。機能がたくさんあるな。

 ゆにくろに入ってから、女の子たちがこそこそと騒ぎながらすまほを向けている。

 かしゃっと音がする。

 会計でもない、電話でもないすまほの機能。


 気がついたら囲まれていた。こういうのは慣れている。こういう視線も慣れている。

 お城でもあったし、公務で出かけた先でもあったから。


「あー、もう。肖像権の侵害って知ってる? 勝手に上げたら慰謝料請求するからね」

 レンが彼女らに言うと、さーっと引いていった。そしてリチャードたちは店を出てきたのだった。

 しょうぞうけんもいしゃりょうもリチャードにはわからないが。

「悪かったな。ここまでひどくなるとは思わなかった」

 レンが言った。レンがあやまることじゃない。

「いいよ、慣れてるから」

「……慣れてるのか」

「うん」

「さすが王子さまだな」

 そうなのかな?


 そしてコンビニ。やっぱり「ティロリロリン」と音が鳴った。どこから?

 びくっとなるのを堪えてレンについていく。

「アイス買おうぜ」

「あいす」

 大きな箱の中にたくさんの「あいす」が詰まっている。

 箱の中は冷たい。どんな仕組みだ。


「黒いガリガリ君がある!」

「おう! コーラ味だな」

「夕べ飲んだもの?」

「そうだな」

 迷わずそれにした。ガリガリ君は「めっちゃ」うまい。「めっちゃ」は覚えた。とても、とかすごくとかいう意味だ。

 レンはマンゴーのアイスを買った。マンゴー。見たことのない果物だ。どんな味なんだろう。あざやかなオレンジ色。でもオレンジとは違う。


 こんびにには店員がいた。見たことのない機械をあいすに当てる。ピッて音が鳴る。

 ゆにくろみたいに、機械にお金を入れる。細長い紙が出てきて会計終わり。


 すべての買い物が終わった。

 すごいな。

 リチャードは、レンの隣にぼーっと突っ立っているだけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ