閑話 てぃっしゅ
それは四角い紙の箱だ。ツヤツヤでピカピカでカラフルで立派な箱。
どんな印刷技術なのだろう。こんな美しい紙は初めて見た。
てっぺんには横長の穴が開いていて、そこから真っ白な「てぃっしゅ」が飛び出して来る。
びっくりした。
あんなにすべすべでしなやかで柔らかい紙があるなんて。
フォックスホール王国には、あんなに柔らかい紙はない。
本や書類はもっとごわっとしている。証書などの重要な書類ならば、もうちょっと高級なつるっとした紙だが。
最初に出されたのは、ガリガリ君を食べていた時だった。牧野林家に初めて入った時。もたもたしていたら、ガリガリ君がとけて、たらっと手首を伝ったのだ。
「はい」
それを見たリンが、差し出したのが「てぃっしゅ」だ。
それがなんだかわからなくて、リチャードはじっと見つめたまま停止してしまった。
この箱をどうしろと?
するとリンは、勢いよくしゅしゅっと2枚引き抜いてリチャードに手渡した。
これはシルク?
それくらいなめらかな手触り。
使っていいの? いいんだろうな。渡したくらいだから。
いや、もったいないな。ていねいに青い汁をぬぐった。そうしたらリンは灰色の筒を差し出した。
それをどうしろと?
リチャードはじっと見つめた。
「ゴミ箱。それここに捨てて」
捨てて!?
捨てるの!?
「……ゴミだもん」
「……ゴミ」
これがゴミ。こんな上質な紙が。リチャードはひどい背徳感に苛まれながら、てぃっしゅをゴミ箱に入れた。
以降見ていたら、レンもパパもママもてぃっしゅを引き抜き、鼻をかんでは捨て、口をぬぐっては捨て。
も、もったいなくはないのか。こんな上等な紙を湯水のごとく使うなんて、もしや牧野林家はこんな小さな家に住んでいるのは仮の姿で、王族をもしのぐほどの資産家なのかもしれない。
どこぞに大邸宅を構えているのか。
「やだー。こんなの消耗品じゃなーい」
ママは笑った。なんて贅沢。リチャードは恐れをなした。こんな上等な紙が消耗品。こんな上等な紙を、庶民が湯水のごとく使うとは。おそるべし日本。
あとで出かけた時に、すーぱーの店頭に山積みになっているのを見た。てぃっしゅを買っていく人も山ほどいた。おそるべし日本。
「これでも花粉の季節は鼻が赤くなるわよね」
「……かふん」
「そうそう。セレブなやつじゃないとね。鼻がひりひりしちゃう」
「……せれぶ」
「リチャードは花粉症じゃないの?」
「……かふんしょー」
「あら、知らない? 春先に杉の花粉で目がかゆくなったり、鼻水が止まらなくなったりするヤツ」
日本の杉は恐ろしいようだ。
てぃっしゅの箱が空になると、新しい箱が即座に出される。納戸にストックがあるらしい。
たしかに備蓄は必要だ。王国だって緊急事態に備えねばならない。在庫を取りに行ったリンについて行って、納戸をのぞいてみた。
なんでもあった。
てぃっしゅにといれっとぺーぱー、食料品。この世界、おどろいたことに水も売っているのだ。ぺっとぼとるという、透明なビンみたいのものに入っている。ガラスびんと違って触るとぺこぺことして柔らかい。これなら割れないな。
知らない素材がたくさんある。フォックスホール王国でもできないだろうか。できるなら持って帰りたい。
ああでも、日本にはめずらしく便利なものがたくさんある。エアリズムもそう。全部持って帰るには、馬車1台で足りるだろうか。
そして、なんとてぃっしゅには持ち歩き用のミニサイズがあるのだ。
ぽけっとてぃっしゅという。
すごい。




