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レンはママから1万円を受け取った。
「がんばってこれで収めてね」
「はーい」
レンとリチャードは連れ立って出かけた。バスに乗って駅まで行って、ユニクロで服を買ってくるのだ。
リンのSuicaを借りて。チャージはしてある。
「だいじょうぶかなぁ」
リンはバタンとしまったリビングのドアを見つめた。
「リチャードが行ったら、たいへんなことになるんじゃない?」
「あー、なるかもねぇ」
ママはお気楽だ。
ユニクロに超絶イケメン降臨。
なんて、SNSがお祭り騒ぎにならないといいんだけど。
ペンちゃんは今日もリチャードの肩にちょこんと乗っている。そのまま行ったらざわつくんじゃない? と思ったら、すいっと消えた。
え? マジ?
「ペンドラゴンは気配を消せるんだよ。使い魔だからね」
当然だろう? みたいにリチャードが言った。いやいや、ふつうの動物は消えないよ?
さすが魔法の国の生き物だ。
ペンちゃんは片時もリチャードから離れない。いつも肩に乗っている。たまに頭の上。ペンちゃんなりにリチャードを心配しているらしい。ペンちゃん自身が怖がっているのかもしれない。
初っ端に強盗騒ぎがあったからなおさらだろう。
めったにあることじゃないよ。と説明はしたけれど、わかったのかどうか。
知らない異世界にひとりっきりでいるわけだし、気持ちはわかる。
レンたちが帰ってきたのは1時間ちょっと後だった。
「あら、早かったのね」
リチャードが目深にキャップを被っている。そのキャップの上にひょっこりとペンちゃんが顔を出した。
「いやー、まいったまいった」
レンは頭をかいている。
「ちょっと騒ぎになるかもなー、とは思ったけど、ちょっとどころじゃなかったわ」
あははー、とママが笑っている。
「リチャード、だいじょうぶだった?」
「はい、いきなり囲まれてぱしゃぱしゃされたのでびっくりしました」
「そっかー。ぱしゃぱしゃされちゃったのかー」
「急いでキャップかぶせたわー」
それで早々に帰って来たんだな。目的のものはなんとか買ってきたらしいが。
レンが袋から出して、チョッキンチョッキンと値札を切っている。
「それでさー。バスを降りたら、近所のおばあさんたちが立ち話しててさー。上田さんとか」
パグばあたちである。老人たちは夕方になると、わらわらと外へ出てくる。そして日中にできなかったおしゃべりに花を咲かせるのだ。おもに噂話なのだが。
「リチャード、捕まっちゃってね」
まあ、最旬な人だしな。
「はい、とても褒めてくれました」
そうか、褒められたのか。どうやらお気に入り登録されたらしい。
リチャードはとても驚いたのだ。パグばあをはじめ、4人のおばあさんたちに「すごい、強い、かっこいい、えらい」と忖度なしに褒められた。
王太子ならできて当然。ずっとそんな風に思われてきて、褒められることなんてなかったから。
たとえ褒められたとしても、それはおべっかである。ゴマすりである。見返りを求めているのだ。純粋にリチャードを褒めているんじゃない。
まあ、それも慣れたけれど。というか、そんなのばっかりだった。
そのくせ、魔法がうまく使えないことだけは遠慮なく突いてくる。
……またか。
物心がつくころから、ずっとそう思ってきた。




