11
おなかが空いていたようで、リチャードは出されたごはんをぺろりと平らげた。
なんだかんだでにぎやかな食卓だ。ママがこの調子だし、パパもそれに乗る。レンが茶々を入れたり、リンがツッコんだり。
だからいつの間にかリチャードもすっかりなごんでいた。
よかった。ずっと緊張していたのが伝わっていたから。
「お母上」
誰のことっ!? ってなった。
「わ、わたし?」
ママが自分を指さした。
「はい、お母上。たいへんおいしゅうございました」
こういうところは、やっぱり王子さまなんだなってリンは思った。
いやでも、令和の日本ではないな。
「やあねぇ、ママでいいわよぉ。お母上なんてりっぱなお母さんじゃないものー」
「そ、そうですか。ではママ殿」
「う、うん。いっか、それで。パパもパパでいいからね」
「はい、パパ殿」
パパがもじもじした。なぜ、テレる。
「着替え、ないわよね?」
さあ、ふろに入ろうとなって、ママが言った。
「……持っていません」
体ひとつで来たものね。あのベルばら風の衣装を着続けるわけにもいくまい。
なにより暑いし。
「レン。なにか貸してあげなさいよ」
「おう。Tシャツと短パンはいいけど、パンツはいやだぜ」
「やっぱりー?」
あははとママが笑う。
「では、とっておきのパパの買い置きを貸してあげるねー」
買い置きはとっておきなのか。
「チェックのトランクスだろ? 今日は仕方がないけど、かわいそうだぜ」
レンのパンツは黒いパンツだ。ボクサーパンツというヤツだ。今どきの若者はトランクスなんてはかならしい。
「なにを言うか。風通しが良くて快適なんだぞ」
パパが反論する。
「おっさんが履くもんだよ(笑)」
パパは「ひどいなー」なんて言っているが。
そもそもリチャードはどんなパンツを履いているんだろう?
「じゃあ明日服買ってきなよ。ほかにも着替えいるでしょ? レン一緒に行ってあげて」
「おう、わかった」
「レンは予定があるのでは?」
リチャードは申し訳なさそうに聞いた。
「べつにいいよ。カラオケはいつでも行けるから」
「そうか、申し訳ない」
「いいって。気にすんなよ」
「せっかくモテるのに」
ぷぷ。
あらやだー、とママが笑った。
「レンがモテるなら、リチャードはもっとモテるわよ。カラオケ連れて行ってあげたら? 女の子たち大喜びよー?」
レンが渋い顔をしている。
「うるさいだまれ。リチャードちょっと来い。ふろの入り方を説明するぞ」
うまく逃げた。笑。それからふたりで洗面所へ行った。
「うんこをしたらここを押すんだ」
「ええっ!?」
「そしたらお湯が出るから」
「お、お湯―!?」
「あっ、こっちむきで座るんだぞ」
「それはわかる」
「あ、わかるんだ。トイレって万国共通なんだな」
万国?
「でな、お湯が出てお尻を洗ってくれるんだ」
「ええっ!?」