3.誓い
店を出た後、私達はこの町─カスタルを歩いた。
昨日は雪が降っていたため、太陽が雲を隠し、空が暗かったが、今日は逆に晴れている。その分人の顔が伺いやすい。
どこか人とは違う、何かを感じる。どこか殺気立っているような…。ちょっとしたことが導火線となってしまいそうな、そんな感じ。
「きゃっ」
後ろからそんな声がして振り向くと、テナーが尻餅をついていた。昨日の雪が凍り、滑りやすくなっている。それで転んだのだろう。
「大丈夫ですか?」
ペデットが手を差出し、テナーを起き上がらせる。
「テナー様、大丈夫ですか? 怪我はないですか?」
ヒルナがテナーに駆け寄る。
「うん、大丈夫。ありがとう。」
私は後ろで繰り広げられる会話を聞きながら、周りの気配を伺う。
先ほどのテナーの悲鳴は、そこそこ大きかった。
でも、この町の人は振り返りすらしなかった。
本当、どうなってるんだ、この町は……。
「うわぁぁっ」
!?
どこからか悲鳴のような声が聞こえる。
辺りを見回すと、川の向こうに倒れた人かいた。きっと声の主はあの人だろう。
私達はその川に架かる橋を渡り、声の主の元へ向かう。
その間に私達のように駆け寄ろうとする人は一人もいない。
気づいていない…? そんな訳はないだろう。
「大丈夫ですか?!」
私はその人に駆け寄り、しゃがみ、声をかける。
その人はうつ伏せに倒れたまま、動かない。
とりあえず体を上向きにしようと思って、頭を触る。すると…ヌルッとした生温かいものが、手につくのを感じた。
血……?
私が呆然としていると、ヒルナが隣に来る。そして、倒れている人の首にそっと触れ、脈を確かめる。
「ヒル…ナ……?」
数秒後、ヒルナは静かに頭を横に振った。
「そん、な……。」
「氷で足を滑らせて、ここにある岩で頭を打ったのでしょうね。即死だったと思います。」
スーっと血の気が引いていくのかわかる。
フラッと揺れた体を、誰かが受け止めてくれる。
「大丈夫か?」
頭上から声が聞こえる。声からして、受け止めてけれたのはセイブルだろう。
「おそらく、ヤナイの乱用で、平衡感覚が鈍っていたのでしょうね。滑った原因の一つだと思います。」
セイブルがチラリとテナーを見たのが気配でわかる。
「いや、私はわざとでしたよ。っというか、セイブル様がそうしろと言われたのでしょう?!」
私はただぼーっとただ一つのことを考えていた。
ヤナイの、所為で…と。
もしこの人がヤナイに手を出していなかったら、たとえ滑ってもバランスを取り戻して転ばずに済んだかもしれない。もし転んでも、こんなことには─死ぬことにはならなかったかもしれない。
私はスパイとして何度か人の遺体を見たことがある。でも、本来なら亡くならなくてよかった命がなくなった、そのショックは大きかった。
「あぁ、こいつ、死んでんのか? だったら片付けておくよ。」
後ろから知らないおじさんが、顔を出す。服装からして、死体等の片付けをする人ではない、一般の人だろう。
その人がそのまま亡くなった人の足を引き、そのままどこかへ連れて行った。
顔色一つ、変えることなく…。
「ありがとう、セイブル。もう、大丈夫。」
私は今まで私の身体を支えてくれたセイブルに例を言い、自分の力で立つ。
ヤナイで狂暴化する人がいる。ヤナイで亡くなる人がいる。ヤナイで死体をなんとも思わない人がいる─。
ツーっと、私の頬を涙が伝うのを感じる。
私はそれに構うことなく、心の中で誓った。
この町から─この世界から、ヤナイを消し去る…と。




