7.中毒者
「……ん、お嬢さん。」
ん?
「あれ、ヒルナ?」
ヒルナに名前を呼ばれ、私は目を覚ます。
あれ、いつの間に眠ってたんだろう。
「起こしてすいません。体調はどうですか?」
「うん、いいよ。」
「それは良かったです。」
「それで? どうして起こしたの?」
「犯人が分かったので。」
「!?」
犯人、つまりあの麻薬を扱っている人だよね?
正直、怖い。
「さっきお嬢さんが起きた時、ペデット様方がいらっしゃらなかったでしょう?
あの時、犯人を捕らえに行っていたんですよ。
会います? 会いたくなければ、ここにいてもらっても大丈夫です。」
……、会いたくない。
でも、ここで逃げたら前に進めないと思う。
だから
「ううん、行く。会わせて。」
「何で私たちがこんな目に遭わなきゃいけないの!?」
「そうよ! 美味しい酒を入れてあげただけじゃない!!」
「お客様はみんな喜んでくれるし、問題ないでしょ?!」
ヒルナに案内されていると、そんな声が廊下まで聞こえてきた。
全て女性の声だ。
その中に聞き覚えのあるものがあった。
【失礼します。
お食事をお持ちしました。】
夕食を持ってきた人だ。
私はヒルナの後ろを歩き、奥の部屋に入っていく。
そこには、ペデット、テナー、ラリネ、バリトの他に、5人の女性が後ろで手を縛られ、座らされていた。
5人の女性はみんな若かった。
「あら、あなた。先ほどお酒を入れさせてもらったお客様ね。」
「!?」
ヤナイ…?
「他の人にも勧めたくなるくらい、美味しかったでしょ?
追加もできますわよ。」
「いえ、結構…です。」
「あらそう? 皆様のお勧めしたら、仲間が増えたというのに。」
ゾッ
背中を冷たい何かが走るのを感じる。
この人、普通の人じゃない。
多分麻薬中毒者だ。
もしかして、他の4人も…?
「『ヤナイ』って、なんですか?」
ヒルナが訊く。
「もちろん、彼女が飲んだお酒よ。
美味しくて飲んだら安心するの。痛みも和らぐしね。
ボウヤも飲んでみる?」
その問いに答えるのではなくヒルナは
「ヤナイ…聞いたことないな……。」
と呟き、考え始める。
「ちょっとボウヤ! 聞いてるの?!」
すると、先ほどまで話していた女の人が、人が変わったかのように怒りだす。
どういうこと?
「オイ、聞いてんのか?!」
「……、いきなりどうしたんですか?」
「あ? お前は聞かないから怒ってんだよ!!
それにあんたも!!」
そう言い、女性は私の方を見る。
「え?」
「あんたがあの酒をちゃんと飲まなかったから、私たちはこんな目に遭ってるんだ!!」
……私の……所為…?
【お前の所為だ!!】
「薬切れかな。
じゃあ、最後に一つ質問。どうやってヤナイを手に入れたんですか?」
「なんで答えなきゃいけないんだよ!」
素直に答えようとしない女性を見て、ヒルナは近くにあった水差しを手に取る。
おそらくあの中に麻薬が入ったのであろう。
でも私には、二人の話も行動も、ほとんど頭に入ってなかった。
「話さないんだったら、これ、捨てるよ?」
そう言いながらヒルナは、ヤナイを床にドバドバと流す。
「や、やめて。わ、わかった、話すから!!」
ヒルナは水差しの口を上に向ける。
「私たちはシンカという男からヤナイを貰ってるの!
シンカは茶毛の長髪で、それを一つによくまとめてる。
腰くらいまでの長さじゃないかしら。
そして、左目に火傷の傷があるわ。」
「なるほど、ありがとうございます。」
そう言いながら、ヒルナはまたドバドバと酒を床に流し始める。
「ちょっと待って、約束が違う!!」
「? 自分は一言も『話したらヤナイを捨てない』なんて言ってませんよ?」
私の耳には、それらの言葉すら入ってきていなかった。
【お前の所為だ!!】
ただただそんな声が、頭の中で響くだけ─。
「アレク様? ……!? アレク様!!」
誰かが、呼んでる…?
私の体は麻痺したかのように動かなくなり、意識は遠のいていった─。




