6.麻薬
「助け…て……。」
雫が頬を伝ったのを感じ、私は恐る恐る目を開く。
さっきいた場所のように暗くはなく、むしろ明るい。ベッドで寝かされていることもわかる。
……、さっきのは、夢?
「アレク!」
「よかった、目が覚めたんだね。」
私の視界に、セイブル王子とフリッシュ王子が入ってくる。
「フリッシュ王子、セイブル王子……。」
「ボクはもう、『王子』じゃないよ。」
あぁ、そうだった。
「お嬢さん、大丈夫ですか?
食事中にいきなり倒れられたんですよ。…覚えておられますか?」
倒れ……、あ、そういえばそうだった。
「うん、覚えてる。
ちょっと頭が痛いだけで、問題はないと思う。」
「それは良かったです。
ですが、あまり無理はなさらないでくださいね。」
ヒルナは笑顔でそう言った後、顔を険しくする。
「それで…ですね。
自分たちがお嬢さんと同じ症状が出なかったことを考えると、この中に何か入っているんだと思います。」
そう言いながらヒルナは、私が使っていたであろうコップを目の前に置く。
今回の食事は、大皿から必要な量を自分でよそって食べていたので、そう考えるのが妥当だろう。
「それ、お酒みたいなのが入ってたよ……。」
「酒…ですか。
自分はお嬢さんの症状と中身の分析結果から、麻薬ではないかと考えています。」
麻薬……。
「なるほどな。
ラフォン殿はこれの調査を頼んだわけか。」
そう平然と言いながら、セイブルは手をのばす。麻薬が入っているであろう、あのコップへ。
「セイブル様!!」
「お前、それ間接キスだぞ。」
ピタッ
フリッシュの一言で、口に向かって動いていたコップが止まる。
「わ、悪い、アレク。」
セイブルはコップを置き、真っ先に私に謝る。
そんな風に少し照れながら謝られても困る……。
「特に気にしていませんよ。
それより、麻薬を飲まなくて良かったです。」
恐らく、セイブルは動揺している。
セイブルは顔に出ない分、いつもはしないような行動をとることが多々あるのだ。
……こういうところは、可愛いと思う。
「お嬢さん、禁断症状とかはない?
多分この麻薬、中毒性が強いから。」
「うん、大丈夫。
本当に一口しか飲んでないから。」
「そっか。しんどくなったらすぐ言ってくださいね。」
「うん、わかった。」
本当は、違う。
まだ夢で見た光景が頭の中をグルグルと回っていて、誰かがあの麻薬を飲めば楽になれると言っているような、そんな気がする。
身体が、心が、もう一度あれを飲みたいと、ひどく欲しているのがわかる。
今はセイブルのおかげで私の手が届かない所に麻薬は置かれているけど、目の前にあったときは手を伸ばして飲みたいという衝動に負けそうになった。
まるで、自分が自分でなくなったみたいだった。
でも、どうにかブレーキを掛けれた。
もう、あんな思いはしたくないから─。
【お前を、産まなきゃよかった。】
【お前がいなければよかったんだ。】
【だからお前は、殺されなかったんだな。】
【あの時、見捨てておくべきだった。】
……。
「ねぇ、フリッシュ。」
「ん? 何?」
「私、役に立ってるかな…?」
あれ、今の言い方はおかしかったな。
と私は思い、どう言い直そうか考えたが、どうやらフリッシュは何かを察してくれたようで、優しく私の問いの答えを返してくれる。
「もちろんだよ。アレクがいてくれて、助かってる。」
「そっ…か……。ありがと。」
私は肩の力を抜く。
今なら、また寝ても悪夢を見ない気がする。
私はそっと目を閉じた。




