エルフの村と世界樹
ニーネの実家であるシルファード家の治める土地には小国だった頃の名残りが強く残っている。
ランザーク王家が、『税を納めること』、『貴族の集まりに参加すること』そして『兵士を育成し有事の際出兵させること』の3つを守れば干渉しないという方針をとったためだ。
そのため領主は一部のエルフからは未だに女王と呼ばれており、エルフ達の独特な生活様式は今もしっかり残っている。
「あの森の中に私が住んでいた村があるわ。」
ニーネは領地の中心部の木々が生い茂っている場所を指差す。森の中心には巨大な木が立っている。
森の周りには宿や店が点在していた。それらは人族とエルフが貿易や交流を行うために作られているらしい。
「貴族なのに街じゃなくて村に住んでいたのか?」
リュートが尋ねる。
「お母さ…領主も含めて領内のエルフのほとんどはあの森の中に住んでいて、あの森の中にある集落はすべて村と呼ばれているの。」
お母さんと言いかけたのでおそらく領主はニーネの母なのだろう。
「俺たちのこと領主様は知っているのか?」
ニーネが実家に泊めてくれると言い出したので、リュートは領主は娘が奴隷になっていることを知っているのか不安に思っていた。
「知らないけど大丈夫よ。村の人たちは私のお願いなら基本何でも聞いてくれるから。」
「心配だわ。」
レイがボソっと呟いたがニーネには聞こえなかったみたいだ。
ニーネの案内で森を進んで行くと木の上に作られた家が50軒ほど集まっている場所があった。
「これが村よ。この森にはこういう村がたくさんあるの。この森の木は世界樹の加護のおかげで頑丈にできてるのよ。」
どうやら森の中心にあった巨大な木を世界樹というらしい。
「世界樹の麓に作られた一番大きな村に私が住んでいた屋敷があるわ。」
1時間半ほど森を歩いた後、ようやくその村に辿りついた。村の周りには木でできた柵があり、柵は薄く光を発していた。
「世界樹の枝で作られたものは金属よりも頑丈で魔法を跳ね返し、光を放つのよ。」
ニーネが得意気に教えてくれる。よく見れば村の建物はどれも薄く光を発していた。
村の門から中に入ろうとすると、門番の1人に止められる。
「人族がなんの用だ?ここはエルフ以外立ち入り禁止だ。」
そう言って立ちはだかろうとした門番だったがニーネに気づいた。
「ニーネ様!?お戻りになられたのですか。」
「ええ、この人たちは私の友達よ。通してくれる?」
「そうでしたか、女王様に確認をとって参りますね。」
そう言って立ち去ろうとした門番だったが、ニーネの手の甲にある奴隷紋を見て顔色を変えた。
「おかしいと思ったんだよ。ニーネ様が人族なんかと友達になるなんて。おい!この人族を捉えろ!」
複数の門番が剣を抜き、リュート達を取り囲む。
「嫌な予感がしてたんだよね。どうしよっか?」
レイがボソッと呟いた。
「ニーネが後で説明するだろうし、大人しく捕まろうか。村の人を怪我させるわけにもいかないし。」
「ちょ、ちょっとやめなさい!この人たちは私の友達だって言ってるでしょ!」
ニーネがそういうが、さっきの門番がこう言い返す。
「奴隷紋で言わされているだけに違いない!耳を貸すな!」
こうしてリュート達はエルフの村にある牢屋にぶち込まれてしまった。
「お母様!すぐにリュートたちを解放して!」
「女王様なりません!ニーネ様は奴隷紋で言わされているだけです。」
世界樹の麓にある領主の館の扉を開いた瞬間、ニーネが言い、すぐさま先ほどの門番が反論する。
「あら、帰ってきて早々賑やかだわね。一体どうしたの?」
銀色の髪をしたエルフはゆったりとした口調で尋ねた。
門番が状況を説明するとそのエルフは言った。
「奴隷紋があってもそこまで強制するのは難しいはずよ。それにあなたは人族がお嫌いでしょ?」
「う、それはそうですが...」
門番が言葉に詰まる。領主のことを未だに女王と呼ぶエルフは人族が嫌いなことが多い。
「答え次第ではすぐ解放するわ。ニーネ、そのリュートって人はあなたにとってどんな人なの?」
ニーネは少し考えて顔を赤くして言った。
「リュートは友達...いや、大切な人よ。」
ニーネの母はそれを聞いて少し嬉しそうな顔になる。
「分かったわ。すぐに牢屋から出してニーネの婚約者だと思い丁重に扱いなさい。」
「お、お母様!そこまでは言ってないわよ!」
また顔を真っ赤にするニーネであった。
"そこまでは"と言ったことで好意があると認めたことには気づいていない。




