ジャイアントアント
「私はびびってなんかないわよ。ほら、あなた達付いてきなさい。」
そう言いながらどんどん前を歩いていくニーネ。
「おい、後衛が前を行ってどうすんだよ。」
リュートが咎めるが、耳に入らない。
「こういうときって敵とばったり出くわしたりするのよね。」
レイがそう言い終わった直後、「ひゃあ!」という可愛い悲鳴が聞こえてきた。
(ジャイアントアント!う、うそ!体が動かない。)
ニーネは幼い頃調子に乗って巨大な蟻の魔物、ジャイアントアントに挑み、大怪我をしたことがあった。
今の実力なら1匹くらいは1人でも倒せるが、そのときのトラウマで体が動かなくなってしまったのだ。
ジャイアントアントは腰を抜かしたニーネに襲いかかろうとしたが、次の瞬間、一瞬驚いたように硬直したかと思うと、スライムの剣に両断されていた。
リュートがキノコ研究室で新しく覚えた状態異常魔法の1つ、【ダーク】の効果で急に視界が暗くなったため硬直したのだ。
「ほら、危ないだろ、無茶すんなよ。」
そう言って手を差し出すリュート。
ニーネはしばらく硬直したあと、
「ふ、ふん!今のは作戦よ!余計な手出しは無用だったわ!」
そう強がりながらリュートの手を振り払い立とうとした。
「ひゃ、ひゃあ!」
立とうとするニーネだったが、また可愛らしい叫び声を上げて腰を抜かす。
前からもう1匹ジャイアントアントがやってきていたのだ。
これはすでに気づいていたレイが素早く対応し難なく片付けた。
「苦手なんだな…この階層は休んでていいぞ。」
そう言ったリュートは今度は手を差し出すのではなくニーネの背中に手を回し、支えあげる。
「ちょ、ちょ、ちょ、触らないでよ!自分でできるわよ!」
ニーネは顔を真っ赤にしながらそう言うのがやっとだった。
「また腰を抜かされても困るだろ。」
ニーネを起き上がらせたリュートはさっさと前に進んでいく。
「羨ましい…」
ボソッと呟いたアイカの声は誰の耳にも入らなかった。
(なんなのよ!男の人にこんなことされたの初めてなのに!ってそれは関係ないわね!とにかくムカつく!)
ニーネの心の中には、ニーネ自身もよくわからない感情が渦巻いていた。
25階層のボスにジャイアントアントを束ねる嬢王蟻、クイーンアントが出たとき、ニーネは無意識にリュートの服の裾を掴んで震えていた。
「大丈夫だ。俺たちが軽く倒してくるから端で待ってろ。」
リュートはそう言ってニーネの頭にポンと手を乗せるとすぐにボスへと向かっていった。
「な!」
ニーネは恐怖を忘れて恥ずかしさで硬直する。
「あらあら、ほら行きますわよ。」
意味深に微笑むセイラに連れられて端の方でリュート達を見ていた。
25階層のボスが煙と魔石に変わったあと、ニーネが口を開く。
「ようやく私の出番みたいね!リュート、今度から気安く触ったりしないでよね!」
さっきまで震えていたくせにというツッコミは飲み込み、リュートが答える。
「どう扱おうが勝手だろ、ニーネは俺の奴隷なんだし。」
「な、やっぱりムカつくわね!」
今度は怒りで顔を赤くするニーネであった。




