リュートの見落とし
ニーネが最初にリュート達と学園ダンジョンに潜ってから1週間後の放課後、先日苦戦した20階層のボス、オークキングと戦う特別科候補生の面々がいた。
「ほらミリー!少しタイミングずれたわよ!離脱をあと1秒ほど早くして!」
「はい!すみません!」
ニーネがテキパキと指示を出している。
「…見違えたな。悔しいけど指示が的確だからなんも言えねー。」
ニーネといつも対立していたヘリウスは少し複雑な表情をしていた。
「まあ、お陰でこんな順調に行っているんだからいいでしょ。てりゃ!」
テナは攻撃を終えて離脱しようとするヘリウスを大楯で守る。
「いいタイミングだわね。いくわよ!」
ニーネの弓から炎の矢が放たれ、オークキングの胸に命中した。
「ふ、決まったわね。」
ドヤ顔を見せるニーネだったが、
「まだ生きてるぞ!」
オークキングはまだ煙とならず、動き出そうとした。
「…させない。」
オークキングは動き出せずに戸惑ったような表情になる。
オークキングがニーネの攻撃でよろめいている間にスーナが糸で縛っていたのだ。
「スーナ、ナイス!とりゃ!」
ヘリウスがとどめを刺すとオークキングは煙と魔石に変わった。
「なんであんたがとどめを刺すのよ!そこは私に譲りなさいよ!」
ニーネが怒り出す。
「お前が仕留め損なったからだろ!代わりにとどめ刺してやったんだ、感謝しろよ!」
「...黙る。」
「ひっ!」
スーナが2人に糸を巻きつけようとして、2人が大人しくなるいつもの流れである。
「はあ、こういうところは相変わらずね。」
テナがため息をついた。
ニーネはここ1週間で5回リュート達とダンジョンに潜った。
プライドの高さが目立つニーネだが、努力家な一面もあり、2度目以降はメモを持ってダンジョンに潜り、物凄い速さでリュート達の連携の技術を習得していった。
そして久しぶりに他の候補生達とダンジョンに潜った今日、学んだ技術を遺憾無く発揮し、テキパキと指示を出していた。
そのおかげで候補生達は皆、ここまでほとんど傷を負わずにくることができている。
後衛なので全体を見渡せる上に、常に上から目線なので指示を出すことに抵抗がないニーネに連携の技術を叩き込むというリュートの作戦は見事にハマったのだ。
しかしリュートは1つ大きな見落としをしていた。
「こ、ここから25階層までなんだけど、あなた達、私がいなくても大丈夫よね。私は26階層で待ってるわ。」
ニーネは急に歯切れが悪くなりおかしなことを言い出した。
リュート達が前に潜ったランザークダンジョンのような巨大なダンジョンでは魔力が豊富なため転移の魔石が使えるのだが、学園ダンジョンではダンジョン内の魔力が足りず転移の魔石が使えない。
そのため90階層以下の行ったことのある階層まで登ることができる魔導エレベーターが置いてある。もちろんリュート達が100階層にいくものとは別の、外観もシンプルなものである。
つまり、ニーネが1人で先に26階層に行くことは可能ではあるのだが、許可されるかどうかは別の話だ。
「ダメだ。今は付き添いが1人しかいないからグループでの行動以外許可できない。」
パーティーの付き添いで来ていたライリが口を開いた。
「そ、そうなのね。し、仕方ないわね。私もついて行ってあげるわ。」
リュートの見落とし、それはニーネがジャイアントアントの出る階層で未だ役に立たないままであることであった。
「リュート、お、お願い、手伝って。」
その日の夜、ニーネは屈辱的な顔をしながら、苦手を克服する手伝いをするようリュートに頼み込んできた。
リュートに頼むのは悔しいが、自分が役立たずだということが許せなかったのだ。
「誰かを頼るのは恥ずかしいことじゃないぞ。できないことを補い合うのは当たり前だろ?」
リュートはニーネの心を見透かしたように言う。表情で思っていることがだだ漏れなのだがニーネはそれに気づいていない。
「そ、そうよね。誰にでも足りない部分はあるものよね。」
「だな、だが断る。」
「な、なんでよ!快諾する流れだったじゃない!」
「冗談だ。そもそも俺が見落としてたせいだからな。明日からまた特訓だな。」
「もう!ふざけないでよね!」
今日も顔を真っ赤にして怒るニーネであった。




