エルフの奴隷
約2000年前、エルフの小国がペリペリ共和国の侵略を受けランザーク王国に助けを求めてきた。
当時の勇者パーティーのメンバーにはその小国出身のエルフがいたため、勇者はランザーク王国に強く働きかけ、結果王国は援軍を出して小国を守ったのだという。
この事件をきっかけ共和国と王国の仲は悪化していく。
しかし、援軍を出して国を守った対価として、エルフの小国はランザーク王国に属することになり、魔王軍を撃退した後、勇者パーティーにいたエルフが爵位を貰い領主となった。
こうして始まった家系がシルファード辺境伯家であり、その歴史故にシルファード家の者の多くは勇者を強く尊敬している。
勇者が学園を作ると言い出したときも全力で支援し、結果、過去何人かの校長を輩出している。
(思っていた以上にバケモノだな。奴隷とはいえ、ニーネを近くに置いておくのは悪くないのかもしれん。
周りからは慕われているようだし、ニーネがシルファード家の者だと知れば悪いことはせんだろう。)
現校長ニベリア・シルファードは魔弓を軽くかわして遊んでいるリュートを見てそう思った。
ニーネが負けたら奴隷になるなどと言い出したときは頭を抱え、決闘が終わったらどうやって許してもらおうかなどと考えていたのだが、リュートを見ているうちに考えが変わってきた。
リュートは今後勇者以上の影響力を持つだろう。シルファード家としては何らかの関わりを持っていた方が得である。
リュートが奴隷の条件を自分から無しにしようと言っている様子から、ニーネにそこまで酷い扱いはしないと確信したニベリアは口を開いた。
「それはできない。我がシルファード家の一員として決闘の条件をのまないなんて許されない。」
「お、おばあ様?」
「今からニーネに隷属魔法をかける。リュート君、血を一滴もらえるか。」
「そ、そんな嘘でしょ。おばあ様。許して。」
泣き縋るニーネを無視して淡々と儀式を進めていく。
リュートは後で奴隷から解放してあげればいいかと思い、素直に従った。
リュートがニーネの手の甲に血を照らすと、ニーネの手の甲には奴隷紋が浮かんだ。
「言い忘れていたが、この奴隷紋は2年は解除できない。リュート君、アホな孫をせいぜいこき使ってやってくれ。」
「「え?」」
後で解放してあげようと考えていたリュートと、後で解放して貰おうと考えていたニーネは驚きの表情を見せた。
「ふ、ふん!主人になったからって偉そうにしないでよね!出来るだけ私と関わらないでね!」
ニーネはそう言ってさっさと立ち去ってしまった。自分から関わってきたくせに酷い言いようである。
「リュート君、こんなことを言う資格はないのだが、孫を頼んだよ。」
ニーネが去ったのを確認したニベリアはリュートにそう言って頭を下げた。
「向こうから関わってこない限りは放置しておくつもりです。もう面倒ごとに関わるのはごめんなんで。」
少し辛辣な言葉を返したのに、ニベリアの顔はなぜか満足げだった。
その日の夕方、屋敷にある同級生の少女が訪ねてきた。
薄桃色の髪、幼気な顔と大きな胸が特徴的なエルフだ。目は涙目になっていた。
「もう関わらないでって言って出て行ったのに、何の用だ?」
リュートは冷たく言うと、
「…奴隷として側にいてやってもいいわ…」
「別にお前に側にいてもらう必要なんてない。出て行ってくれ。」
リュートがそう突き放すと、
「お願い…側において…住むところも何にもないの…」
今度は泣き出した。
1人で行きつけのカフェに入ろうとしたが「うちは奴隷なんかが1人で利用していい場所じゃないです。」と言われ、奴隷になったことで住んでいた場所を追い出され、貴族街を1人で歩いていると嫌味を言われたという。
貴族街でなければまた違った対応をされただろうが、ニーネはそれを知らない。
「それなら主人に対する言葉遣いから覚えたらどうだ。」
ちょっと意地悪したくなったリュートはそう言った。
「お…お願いします。ご、ご主人様…」
屈辱に震えながらニーネは言う。リュートの答えは勿論…
「よくできたな。だが断る。」
「何でよ!ちゃんと言ったじゃない!何でもする!何でもするから!」
「…わかったよ。酷いこと言ったりしたら追い出すからな。」
こうして、ニーネはリュートの屋敷で暮らすことになった。




