ソリリスへ
大陸共通紙幣。約1000年前に召喚された勇者が考案し、王都の学園を出た【付与術師】が発行者しかつけられない印を刻む魔法を開発したことによって信用性が担保され、それまで用いていた金貨や銀貨に代わり使用され始めたと言われている。基本的に各国の王族のみが紙幣を発行できる。
しかし、約500年前に召喚された勇者が、ギルドカードや身分証などによる支払いの有用性を提唱し、300年かけてそれを可能にする魔法の開発が行われた。
結果、今では王都や町ではこちらの方が支払い方法として定着している。
それはともかく、リュートに渡されたのは大量の紙幣であった。
「遅くなってしまったが、我がシュトリリウム辺境伯家およびソリリス連邦国からの今回の件へのお礼1億ダーツだ。」
よりありがたみを感じさせるためか、国や貴族からのお礼のお金は現金で受け取ることが通例となっている。
それにしてもその額である。
「い、1億?なぜ、そんなに…」
リュートが驚きの声を上げる。アイカとレイは絶句している。
「実は以前から魔王軍との戦いの中で、戦場で活躍しているある程度上の立場の人間が突然倒れるということがあったらしくてな。その原因がこの針であることと、これを物理的に取り除けば治癒可能なことがわかったんだ。使った相手としてもバレたら効果が下がるのでここぞというときしか使ってなかったんじゃなかろうか?」
「なるほど…」
リュートのスライムが針を発見したのは、ゲンコのみではなく、ソリリス連邦国軍にとっても大きな助けになっていたようだ。
「それに、ゲンコは我がシュトリリウム辺境伯家では父さんと俺に次いで3番目に強いからな、これでも少ないくらいだと思うぞ。」
「いや、今のところあまり使うあてもないし十分すぎるよ。」
「そうか、なら良かった!代わりと言ってはなんだが、困ったことがあったら力になるから言ってくれよ!」
その後もいくつか話をした。紫の針を飛ばす相手の正体についてはまだわかっていないようであった。
リュート達は依頼内容の再確認をして別れた。
2週間後、3人はまたもや魔導船の上にいた。例の依頼のためである。
ちなみに魔導船も約1000年前に召喚された勇者が考案して、大型のものは500年以上かけて開発されたとされている。
勇者がこの世界に残した影響はすごく大きい。
「それにしても、自国の王女様より先に他国の王女様と会うことになるなんてね。」
アイカが言った。アイカは村出身なので、初めての王女との対面にドキドキしていると言った様子である。
「ランザーク王国の王女様方は高貴で女の私でも惚れ惚れするような美しい方々だったわ。なかなか近寄り難かったけど。それなのにあのバカ兄は…」
レイが言った。レイが王女の話をしだすと大体ユキヒロへの愚痴が始まる。
ユキヒロが召喚されてしばらくして王城に呼ばれたとき、ランザーク王国第2王女との婚約をそれとなく提案されたらしい。
そのときユキヒロは「ごめんなさい、俺、妹一筋なんで」と答えて周囲を呆れさせたそうだ。
そのあとのフォローが大変だったとレイが言っていた。
ライリとの仲は良好だが、到底理解できないななどと考えたリュートであった。
3人が仲良く話しているうちにソリリス連邦国へたどり着いた。
今回王女と会うのは王都ではなく、ランザーク王国の西側で国境を接するシュトリリウム辺境伯家が治める街、シュトールである。
シュトールはランザーク王国との交易でなかなかに栄えている。
王城以外はカラフルな街並みのランザーク王国王都に対してシュトールの街は青色の建物が多い。これはソリリス連邦国全体に当てはまる。
青が最も美しいと言っていた初代ソリリス王が民衆から慕われていた影響だそうだ。
そういえばソリリス軍の鎧も青だったなとリュートは思い出していた。
船から降りてからはヘリウスに連れられ辺境伯の屋敷に直行した。
美しい装飾品の数々に囲まれた応接間に入ると、ヘリウスと同じ重力に逆らったオレンジの髪を持ち、鍛えられた肉体をした男が待っていた。
「よく来たな、ヘリウスの父のガゼル・シュトリリウム辺境伯だ。ゲンコの件本当に助かったぞ。感謝する。」
「Aランク冒険者をしているリュートと申します。この度は辺境伯様にお会いでき…」
とリュートが膝をついて挨拶する。もちろん貴族に対する礼儀など村出身のリュートにはわからないのでイメージ上の貴族の挨拶という感じでたどたどしく挨拶しようとすると、
「はっはっは、冒険者に礼儀など求めんよ。」
とガゼルが言ってくれたので、助かったという感じでレイとアイカは普通に挨拶した。
ランザークのことやヘリウスと会ったときのことについて雑談を交わしているとき王女が到着したとの知らせが入った。
リュート達が緊張して、王女を出迎えに行ったヘリウスとガゼルを待っていると、リュート達以上に緊張した顔をした少女が入ってきた。




