船の行き先は
今リュート達が乗っているのは船は船でも海に浮かぶ船ではない。空飛ぶ船、魔導船だ。
本来なら初めての魔導船に興奮したであろうが、リュート達は少し緊張していた。
今回罰として言い渡されたのは、魔王軍と戦う前線への物資の補給の手伝いだった。
勇者であるユキヒロとレイは、もしランザーク王国まで魔王軍が攻めて来た場合、戦わなくてはならないらしい。
今魔王軍は王国とはあまり仲の良くないペリペリ共和国の北部を攻めているため、ペリペリ共和国に対しては物資の支援と停戦に留めているようだ。
ペリペリ共和国は王国の北部にあり、ペリペリ共和国が攻め滅ぼされると、魔王軍は王国へと攻めてくる。
仲が悪いペリペリ共和国に援軍を送ってしまって国力を下げるのはできれば避けたい。
しかし、ペリペリ共和国が簡単にやられてしまうと勇者が十分に成長する前に魔王軍に攻められてしまう。
そのため物資の支援と停戦が好ましいと判断されたのであった。
2日かけて船は前線へとたどり着いた。
船から下を見ると、たくさんの緑の軍隊が戦っており、その隣に青い軍隊と赤の軍隊がいた。
緑が共和国の軍隊、赤が帝国の援軍、青が連邦国の援軍だそうだ。
その軍のさらに奥には大量のオークやオーガ、ウルフに乗ったゴブリンなどがおり、魔法の爆発があちこちで起こっていた。
魔王については本来学園に入学してから知らされるため、リュートもアイカも北の方でこんな戦いが行われていることなんて想像すらしなかった。
レイも話には聞いていたが実際見るのとでは全く違い、来るべき魔王軍との戦いに向けて身の引き締まる思いがした。
物資の補給は思っていたよりあっさり終わった。というか、リュートの【スライム収納】のせいで一瞬で終わった。
補給担当だった王国兵士たちは目を白黒させた後、「次回からも一緒に来てくれ!」と懇願されたが丁重にお断りした。いくらお金が貰えても片道2日もかけて何度もここに来るくらいだったら、強くなるために時間を使いたい。
補給を終えて船が出発する時間まで連邦国軍の補給テントを見学した。
連邦国は王国との仲も良好であるため、リュート達が立ち入れる範囲も広い。
「王国の勇者殿とその仲間か、よく来た。ソリリス連邦国魔王討伐支援部隊隊長のヘリウスだ。」
そう言って話しかけてきたのはなんとリュートと同じ年頃にみえる男の子だった。
リュート達が挨拶を返そうとしたとき、テントの外の方から大きな声が聞こえてきた。
「ゲンコ副隊長が突然飛んできた矢に当たって負傷した!【ヒール】でも【ポイズンキュア】でも完治しない!誰か処置を」
「ゲンコが?」
そう言って焦った表情で隊長ヘリウスは外に出る。
リュート達も後に続いて様子を見に外に出ると、青い顔をした老齢の魔術師らしき男性が横たわっていた。
神官らしき男性が治癒魔法を全て試したが原因がわからないことを伝える。
「ぼっちゃま…不覚を取ってしまい、申し訳ありません。」
「ゲンコ…もう良い、喋るでない。」
そんなお別れムードの中、リュートのスライムがピョンと跳ねてゲンコの傷口の上に飛び乗った。
周りが驚きの声を上げる中、スライムが紫色の針のようなものをぺっと吐き出す。
「まさか、これがゲンコの体に刺さっていたのか?」
ヘリウスがそう言ったので、リュートが試しにスライムに【キュアヒール】かけさせるとゲンコの顔色はみるみるうちに良くなっていった。
その後、ヘリウスはリュートに何度も感謝の言葉を口にした。どうやらヘリウスは辺境伯の跡取りで、ゲンコはいつもヘリウスの面倒を見ている執事兼護衛のような立ち位置だったようだ。
身分の差はあれど、歳も近いとあって2人は短い時間ですっかり打ち解けた。
帰り際、ヘリウスが
「王都にいるならそのうち会うことになると思うぜ!」
と言っていた。紫色の針がなんだったかについてもそのときまでに調べておくそうだ。
こうして、リュート達は魔王軍が攻めてきたときのために強くなろうと決心し、王国へ帰るのであった。




