61話 それがラウラの家族でも──
『【滅】』
「くっ……」
アスタロトが放った衝撃波によって、俺達は後方に吹き飛ばされる。
距離を離された形だ。
そして──
「お母様……」
アスタロトは口を開き声を発した。
その声に対し、ラウラは『お母様』と言った。
……何か関係があるのだろうか。
「ラウラへの攻撃を止めた時のアスタロトの、声……あの声は紛れもなく、お母様の声なのです……何で、なのです…………?」
「…………」
ミーシャさんの話では、既にラウラの母──アルマさんは死んでおり、首の無い死体をラウラと共に見たそうだ。
(戦い方は竜族に似ていると思ったが……)
まさか、アルマさんが【災禍の竜】の正体?
……いや、それは無いな。
アルマさんは【災禍の竜】と戦っている。
それを考えると辻褄が合わなくなる。
どちらにせよ──
(……仮にアスタロトがラウラの母親だとしても、被害を出すなら殺すしかない)
俺の考えは変わらない。
アスタロトは竜界を襲撃し、空中都市に被害を出した指定災害級の魔物。
それだけだ。
だが──
「ラウラは、どうすれば良いのですか……?」
ラウラは俺じゃない。
母親の仇が、どう言う訳か母親の声で喋ったのだ。
戸惑うのも当然だろう。
だから──
「……あれは敵だ」
「……っ!」
俺には現状を伝えてやる事しか出来ない。
後はラウラの中で頑張ってもらうしかない。
するとすぐに──
「夜殿、ありがとうなのです。例えアスタロトがお母様であっても……私は大丈夫なのです。アスタロトを、倒せるのです……!」
「……ああ」
ラウラはすぐに笑顔を作り、拳を構えた。
(ラウラ……お前は本当に強いよ)
そして──
「行くぞっ!」
「はいなのです!」
俺達はアスタロトに向かって駆け出す。
そのアスタロトはと言えば──
『私、抑! 出、否……!』「娘ノ……為、ニも……!」『【手】』「させな、い……!」
先程から攻撃を繰り出し、自分でそれを抑えてはを繰り返している。
まるでアスタロトの中にニつの意思が存在し、お互いが主張しているかのようだ。
それも、多分一方の意思は俺達も守り、そして自分が倒される事を望んでいる。
(まさか……本当にラウラの……?)
そして──
「ワタ、しの……弱テンは……首元…………!」『!? 黙!』
あくまで敵の言ったことだ。
だが──
「首を狙うぞ、ラウラ!」
「はいなのです!」
その言葉に嘘はない。
不思議と、確信を持ってそう感じる。
『斬……! 【刃】』
突っ込む俺達に対し、例の赤い輪を放つアスタロト。
目元が隠れていて、かつその状態でも打てたのか。
だが──
「問題無い!」
俺は前に飛び出し──
「その攻撃、お返しする……!」
【神技:八咫鏡】を使用。
輪の力の向きを反転させる。
『鎧』
即座に竜装が展開されるが、その輪は竜装ごとアスタロトの右腕を切り裂く。
それを境に、ラウラが俺の前に飛び出す。
──攻撃は俺が弾いた。そのまま行けっ!
「突っ込め、ラウラぁっ!!!」
「ラウ、ラァァァ!!!」
『【氷】……!』
だが相手も死に物狂い。
僅かな時間で巨大な氷を作り上げ、それをラウラに放つ。
だが──
「【竜装・蒼玉】!」
蒼の竜装を持つラウラに、水系統の魔法は効果を成さない。
『理、不──』
そして、蒼に輝く竜腕で──
「ハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アスタロトの首元を、全力で殴りつけた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『理、不…………………………我、滅、否…………』
ラウラの拳を首元に受けたアスタロトは、地面に伏した後に──
『………………』
「死んだ、のか……」
息を失った。
周りにいたエースドラゴンゾンビ達も、初めから居なかったかのように消え去っている。
本当に、これで終わったらしい。
そして──
「ラ………………う、ラ……」
「お母様っ!」
アスタロトの死骸。
その口が開く。
どういう訳かは分からない。
だが俺にも分かる。
アスタロトの中にいたもう一つの人格。
それは紛れもなく、ラウラの母親だ。
そのもう一つの人格──アルマさんの人格が、アスタロトの身体を使って言葉を紡ぎ始めた。
「私ノ、部やの……ゴフッ……!」
口から血を吹き出すアルマさん。
だが言葉を止める様子はない。
「つくエの三段目……引きダシ、そこニ、全ブ書いてル……」
そう言うと、口元を緩め──
「ラウ、ラ……アイシてる、わ…………………………………………」
そのまま、息を引き取った。
ラウラはアルマさんの身体を揺すり、声を掛ける。
「お母様……お母様……?」
「………………」
そして──
「お母様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
ラウラの悲鳴は、夜の闇に吸い込まれていった。
真実は机の中に。





