60話 私を殺して──
Anotherview:???
(ここ、は?)
無機質な天井が見える。
というか──
(あれ?)
身体の感覚が全く無い。
視線をある程度動かす事は出来るけど、そもそも首から下が無いかのような……
……まずは状況を整理しよう。
そしたら何か分かるかもしれない。
自分の魔力ではなく、全生命力を代償に行う最後の竜化──【竜化:金竜】。
私はそれを使い、自分の死を代償に何とか【災禍の竜】を倒した。
私もその時死んだはず。
なら──
(何で私は意識があるの……?)
思っていると──
「目を覚ましたようですね」
(!?)
声が聞こえた。
なるほど、聴覚はあるみたいね。
……喋れないけど。
「オロバスさん」
「分かっておるわい、ちと待ちぃな」
声の方に視線を向ける。
(!?)
一人は普通の人間の容姿をしているけど、もう一人はまさに異形。
顔は馬の骨、身体も大きい。
それだけならともかく、この人からは危険な何かを感じる。
「さぁて、準備出来たわい。フヒヒヒヒ……」
(来た……!)
その馬男が私に近付いてくる。
「【災禍の竜】を倒す程の力を持った生身の竜族……素晴らしい素材じゃわい……フヒヒヒヒ!」
すると、馬男は腰から注射器を取り出した。
注射器には【ruinfruit】と書かれており、中には黒くドロドロした液体が入っている。
まさか、私にそれを……?
「竜族の素体、それも強い素体は貴重じゃからのぉ……初代と同じ結果になるかも楽しみじゃしな。フヒヒヒヒ」
その馬男は、迷いもなく私の首の辺りに注射器を突き刺した。
その瞬間──
(え……?)
突然、首から下の感覚が戻った。
同時に──
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!)
余りの痛みに頭の中が真っ白になる。
でも……この痛みに耐えないと、私の存在が無くなる気がする。
私は痛みに耐えて続けた。
でも、無駄だった。
「ほほぉ……耐えるんかい。フヒヒヒヒ、なら増量するぞい」
再び注射器が首元に刺される。
(ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!)
追加で投与された謎の液体に、私は屈してしまった。
「フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! 実験は成功じゃわい!! 二代目【災禍の竜】の完成じゃ!!」
その言葉と同時に、私の存在が奥深くに閉じ込められた気がした。
それが私が聞いた、最後の言葉だった。
???'sview end
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「助かった!」
「良いのです! エースドラゴンゾンビ達はミーシャ殿が抑えてくれているのです。私達は学園長殿が来るまで、アスタロトを抑えるのです!」
ラウラの竜腕によって吹き飛ばされたアスタロトが起き上がる。
そして、アスタロトがラウラの方を向いた時──
『!? 我、崩崩崩!! 危危危危危危!?!? 思記、幼幼幼大大成成成成!!』
「な、何なのです!?」
突然、アスタロトが帽子を引っ掻き始めた。
俺達は警戒を更に強め、アスタロトの一挙一動から目を離さない。
そして──
『【沼】【隠】【手】』
(来たっ……!)
口が大きく開かれ、そこからあの手が伸びてくる。
同時に、地面にいくつかの泥濘が出現する。
だがさっきは気付かなかったが、警戒していれば避ける事も難しくはない。
「ラウラ!」
「なのです!」
手の部分にはあの黒い靄が纏っているが、伸ばされた腕の部分にはそれが無い。
ラウラは素早く手を避け、腕の伝ってアスタロトへと迫る。
俺も同時に駆け出す。
アスタロトに同時に接近し、狙いを絞らせない為だ。
俺達は双方近接戦闘が得意。
まずは距離を詰めないと始まらない。
『【剣】【槍】【斧】』
当然、アスタロトがそれを良しとする筈がない。
土魔法で創り出した武器を、俺達にどんどん放ってくる。
が──
「避けられなくは、ないっ!」
その魔法は赤い輪の様なスピード、威力で飛んではこない。
俺達が徐々に距離を詰め、アスタロトまであと数mという所──
「なのです!?」
「ラウラっ!?」
ラウラが泥濘に足を奪われてしまった。
(おかしい……アスタロトの近くに泥濘は無かったはず……)
いや、そんな事はどうでもいい。
(不味いっ……!)
泥濘に足を奪われたラウラの後ろから迫るのは、例の口から伸ばされた手。
俺も前傾姿勢で、ラウラに鞘をぶつけて重心をずらす事も出来そうに無い。
なら──
(本体に攻撃する!)
ラウラが手に掴まれる前に、俺がアスタロトに攻撃を加える。
だが走ったままでは居合も使えず、それ以外の剣を用いた攻撃で、アスタロトにダメージを与えられる気はしない。
──なら、掌底だ。
竜装を貫き、身体の中に衝撃を解き放つ掌底。
竜族相手に接近するのは危険だが、やるしかない!
だが──
(どう足掻いても、間に合わないっ……!)
アスタロトの手がラウラを掴むまでの方が圧倒的な早い。
そう思った時──
「……ラァ、ッ!」
アスタロトが、喋った。
今までアスタロトの声は、俺達の頭の中に響いていたというか、普通に音として聞こえる事は無かった。
だが今の声は違う。
口で、喋った。
それに──
(何で泣いて……)
目元は帽子のせいで見えないが、頬の辺りを雫が伝うのが見えた。
更に──
「ァ、ガァ!」
「です!?」
ラウラに迫る例の手の根本を、自分の右手で強引に反らした。
そのまま口の中に収まる口の手。
──そして、アスタロトは言った。
「ラ……ウラァ……! 私を、コ、ロッ…………」
「お、お母様…………!?」
「なっ!?」
ラウラの、お母様……?
どういう意──
『私、静! 我、殺!』
だがその声はすぐに途切れ、元のアスタロトに戻ってしまう。
(何が、どうなっている……)
私を殺して。





