56話 来たるべき時の為に──
Anotherview:Tukuyo Sumeragi
『いずれ来たるべき時が来る。それまでに力を付けるんだ』
三年前、あいつは私にそう言った。
これから起こる事を対処する為には、私とマイルがもっと力を付ける必要があると。
だから私は鍛えた。
鍛え続けた。
結果──
私は九尾状態を超える、狐の獣人の真髄へと到達した。
その存在は狐の獣人の間で語り継がれており、存在自体は皆認知していた。
だがその存在に至った者はおらず、伝承の存在とされていた。
私は努力の末、そんな伝承の存在に成った。
あいつが言っていた『来たるべき時』の引き金は、すでに引かれている。
次の世代に平和を齎す為にも、私達が次世代まで戦争を引きずる訳にはいかない。
戦争を、本当の意味で終わらせる。
──今この瞬間から、私達で……!
「大丈夫」
私は魔臓にある魔力を全て消費し、伝承の存在──空狐へと変幻する。
九尾になるにはある程度の時間を要するが、空狐になるのに時間は必要ない。
その分、終わった後につけ来るんだがな。
「っ……!? その姿は……」
ミーシャが驚くのも無理はない。
九尾は私らしさを留めているが、空狐の私は、元の私からかけ離れている。
金だった髪や尻尾は水色に変わり、尻尾に関しては四つに分かれている。
心なしか、身長も小さくなっている気がする。
その分尻尾は大きくなっているが。
試しに拳を握ってみる。
……よし、問題無いな。
空気、気配、地面、味方、敵、そして自分。
この四つの尻尾は、この場に存在するすべての要素を感じる事が出来る。
空狐の私に死角は無い。
だが存在を感知すると同時に、少し気になる事ができた。
「………………あ?」
それを確かめる為に、私は地面をしっかりと踏みしめ──
「……っ!」
【災禍の竜】の頭の横に跳躍する。
私がいた場所からここまで、距離は数十メートル。
だが踏み込みから音速を超える空狐の私にとって、その距離は殺傷範囲。
『理、不──』
「遅い」
肩口から大きく切り裂き、その傷口が蒼く燃える。
『i●●●●●ti!!』
叫ぶ【災禍の竜】。
このまま追撃を掛ける事も出来るが、私は敢えて離れる。
すると──
「……チッ」
数秒後、斬りつけた肩口の傷がみるみる修復されていく。
……やはり、【災禍の竜】には尋常じゃない再生能力があるらしい。
私がここに駆けていた時、ミーシャがやったのか【災禍の竜】の右側の目に切断された様な跡があった。
事実、その目は機能していなかったように思う。
そのスキをついてミーシャが肉薄した時、突如赤い輪が出現し、ミーシャの左腕を切り裂いた。
私はミーシャを助ける事で精一杯だったが、右側の目が復活したからではないだろうか。
反対側の目を見る限り、あの赤い輪は目とリンクしていたしな。
現に今、【災禍の竜】の目は両側共機能しているし、それにミーシャが傷付けた腹部の傷も今は痕すらない。
場所によって再生時間に違いはあれど、すぐさま再生してしまうらしい。
……ミーシャが命懸けで与えた傷は無駄だった訳だ。
どこまでも愚弄しやがって……!
「クソがっ!」
『捉、無──』
再び急速接近。
即座に【災禍の竜】の目を切り落とし、まずは視界を奪う。
すぐに復活するだろうが関係ない。
それまでに全身の生成速度を越す速度で、こいつの全身を斬り刻めばいいだけだ。
私は斬る、ひたすらに斬る。
すると──
『滅』
【災禍の竜】は身体から黒い衝撃波を放ち、私を弾き飛ばそうとする。
さぞかし邪魔だろうなぁ私は。
だがどいてやるつもりは微塵もない。
『【風纏】』
私を風が纏い、その衝撃波を軽く受け流す。
衝撃に間を置くことなく、私は【災禍の竜】を斬り続ける。





