23話 私、新しい玩具に興奮を隠せません。
AnotherView:Rei Nova
私はレイ・ノヴァ、エルフ王家の第ニ王子です。
私は幼い頃から頭もよく、そして顔も良い。
当然、周囲は私を甘やかす。
まあ、確かにこんな完璧なら『無能な第一王子とは違って、間違いなく将来王の座につくレイ様のおこぼれに預かりたい』という思惑がある事は重々承知していますが、害は無いですしどうでも良いですね。
それよりも私ですよ。
神は二物を与えないと言いますが、私の存在がある以上そんな事は無いです、ええ間違いありません。
特に剣の才気に関しては、神に愛されたとしか説明のしようがないほどです。
エルフ一の剣士の剣術を一月で全て模倣し、その一月後にはその剣士に勝利。
さらにその一月後、神樹界(エルフの生活圏内)に生息する危険指定された魔物を単独で討伐。
その魔物は討伐隊が組まれる程のものだったそうですが、私の手に掛かれば瞬殺ですな!
HAHAHA!
……失礼。
まあ、何が言いたいかと言うとですね。
『現状はともかくとして、戦闘の才能で私の右に出るものは居ないでしょう、ええ間違いなく』
──と、思っていました。この獣人の娘と対決するまでは。
「むむぅ……」
確かこの娘の名は──なんでしたかな?
強いと噂されていた獣人の王女だと思いますが、強い程度の娘の名前を記憶して、脳の容量を割く必要性は無いと思ったものです、当時は。
悔しいですが、その考えは撤回しましょう。
この獣の娘は少し強いなんて領域にはいない。
私に反撃するスキも与えないなんて、こんな事は生まれて初めてです、何たる屈辱。
ですがそれは、『この娘から盗める技術が沢山ある事』を示しています。
私にとって価値の無い技術を持つ者には総じて興味が持てませんが、その者の持つ技術に価値があると判断すれば、例え相手が人間であろうと、その技術を盗み取るつもりです。
この娘は、周りが退屈で仕方なかった私にとって、最高の師匠になりえる。
そんな予感がします。
そして次の瞬間──私の予感が合っていた事を確信しました。
「【憑依:月下獣】」
強さを魅せながらも穏やかだった娘の雰囲気が、刃物の様な鋭さを持った雰囲気へと変化しています。
──全てを飲み込むような、絶対的な王の圧。
価値ある全ての技術を盗むつもりの私ですが、この圧は私には出せないものだと分かります。
いくら技術を盗むといっても、私が人間の霊装を扱えない様に、無理なものはどうしてもありますからね。
こればかりは仕方ないでしょう。
「私はエルフの第二王子レイ・ノヴァ。私が名乗ったのです。娘、貴様も名を名乗りなさい」
「そっちが勝手に名乗ったのに。まあいいや、リンカ・ソフィーティア。一応獣界の王女やってる」
「なるほど、リンカ・ソフィーティア。貴様の名、覚えておきます」
「……もう殺っていい? 早く寝たい」
最後の方がよく聞こえませんでしたが、別に大したことではないでしょう。
「戦いの場でこの様な話をするのも無粋ですね、謝罪しましょう。では始めましょ──」
「分かった」
「え?」
返事が聞こえたのは私の真後ろ。
振り向きざまに剣で切り払いますが、その剣は空を切り裂いただけに終わります。
「じゃ、終わり」
振り返った先、また私の真後ろから声が聞こえてきました。
振り向くのでは遅いと本能が告げています。
何も見えませんが、殺意の濃さを見るに次の行動は攻撃。
「【物理防御】」
後ろを向いたまま防御魔法を展開。
結果、確かに次の攻撃は物理攻撃ではありました。
──ですが、私の思い描いていた形とは異なり、それは事象となって結果に現れました。
「……邪魔」
バリンという小気味良い音が、二回連続で響きます。
何が割れた音なのか、それはもう明白です。
一回目は私の唱えた防御魔法でしょうが、二回目は試験官が唱えた防御魔法なのでしょう。
ハハッ、止めきれていないではありませんか。
試験官失格ですね。
とはいえ、攻撃の勢いは収まり、攻撃の回避に成功します。
試験官は戸惑っているようですが、私は無事ですし、試合は続行するようですね。
本来なら試験官が手を出した所で私の負けでしょうが、私としては願ってもない事。
このまま続けます。
何とか身体の向きを戻し、既に私に肉薄しているリンカに目を向けます。
次の攻撃は──膝の伸縮からして、低位置から放たれるアッパーカットでしょうか?
私は半歩引いてその攻撃を回避。
すかさず剣を振ろうと腕を動かしますが、その腕に下からの蹴り上げが炸裂し私は剣を放り投げてしまいます。
──ボギィ!!
変な音が聞こえましたが、私の骨が折れたのでしょうか?
新しい師匠との出会いで興奮しすぎているせいで全く痛くありませんが、もう腕は使い物にならなそうです。
剣は飛ばしてしまいましたが、戦士たるもの、第二の刃も用意しているものです。
腰に差していた短刀を聞き手の逆──左手で抜き、脚を振り上げて空きだらけになったリンカの身体へと刃を挿し込む。
──つもりでしたが、今度は空いていた手で短刀を掴み取られてしまいます。
人差し指と中指で挟んでいるだけですが、全く動きそうにありません。
ですがここは超至近距離。
自爆覚悟、ここで爆発魔法を使えば意表を突けるでしょう。
「炎の──」
と思っての行動でしたが、リンカの脚が私の頭上にある事を忘れていました。
「ふんっ!」
落とされた踵は私から意識を刈り取る恐怖の一撃となって、刃を突き立てる為、前傾姿勢になっていた私の後頭部に振り下ろされました。
力が入りません。
私はうつ伏せで地面に倒れます。
「遠慮はしたから、骨は折れてないはず」
リンカがなにか言っていますが、よく聞こえません。
なんとなく空が見たくなり、最後の力で仰向けになります。
沈み行く意識の中で、如何にしてリンカの技術を盗むかを考えてみます。
そうすると──
「すば、らしいぃ!!」
あぁ、あぁ! 興奮が止まりませんねぇ!
そんな私を奇異の目で見下ろすリンカを最後に、私は意識を失いました。
Nova'sview end
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学園側は試験官が試合を止められなかった時の事も考えているようで、リンカと戦ったエルフは、応急処置として回復魔法をかけられた後にWGAの保健室に運ばれた。
WGAの保健室には、魔術の結集である【キュアボット】が何台も置いてある。
キュアボットはカプセル型の機械で、患者を中に入れて装置を起動することですぐにでも治せるらしい。
病気も治せるが、一部の病気には全く効果はないようだ。
本来ならとんでもない費用が掛かるはずだが、その費用も全部世界負担だ。
それにしても、リンカの強さは異常だった。
対戦相手のエルフは、見る限り一流の技術を備えていた。
戦闘経験もかなりのものだと思う。
それに対して、リンカは技術踏まえた上で、相手をねじ伏せる圧倒的なパワーも持っていた。
ある程度の力量差なら技術次第で何とかなるが、リンカが相手ではそうはいかない。
本人の持つ技術も一流であり、相手の技量を上から叩き潰せるパワーもある。
そんな化け物相手にしたのだ。
エルフはリンカのパワーで押し切られてしまっていた。
「終わった。ガイア、背中」
「おつかれさん」
いつの間にか戻ってきて、ガイアの背中でグーグー言ってるリンカ。
その姿は、一流の技術を持ったエルフを圧倒し、勝利を掲げた張本人だとは思えない。
そして、三試合目に俺がリンカと当たる可能性も無くはない。
勝敗は関係ないとしても、全く力を発揮出来ずに終わってしまうだろうし、出来るなら避けたいところだ。
そして──
『次は2642と……1997!』
俺の二回目の戦闘開始を、アナウンスが告げる。
さて、次の相手はどの種族だろうか。
改めて気を引き締め、俺は闘技場の舞台へと降りた。
リンカといいノヴァといい、この世界の王族はろくな奴がいない





