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21 話 俺、改めて種族の壁を感じます。




「負けちまった、俺もまだまだだな」


 観客席に戻り、咲と月夜に声を掛ける。


「おにいちゃん、お疲れ様。結果は残念だったけど、動き良かったよ?」

「だな。鍛錬、特に咲との訓練(エアロプログラム)が効いた。あれが無きゃ、最初の不意打ちで終わる所だった」

「にしても夜さん、天霧の出だし強いとは思ってたけど、まさか【月狼(ルナウルフ)】の護衛とまともに戦える程とは思わなかったです」

「え、ガイアが? 月狼(ルナウルフ)の護衛!?」


 月狼(ルナウルフ)の二つ名を持つ、獣人の王女──リンカ・ソフィーティア。

 圧倒的な強さを持つ、人型の狼の獣人だ。

 彼女にしか使えない特殊な能力があるらしいが、詳しくは知らない。

 【不可視の妖狐(インビジブル)】とは違い、各界に名を轟かせる実力者だ。


 その護衛と対等に戦えた……いや、それは(おご)りだな。

 だが少しは戦えたんだ。

 負けはしたが、もっと自信をもっていいかもしれない。

 そして──


『次、2187番と2264番……お!? 月夜じゃねーか、頑張れよ!』


 月夜の番号と名前が呼ばれた。

 入学試験の場で娘の名前を堂々と呼ぶのはどうなんだろうか。


「お母さんやめて恥ずかしい//」


 まあそりゃこうなるよな。


「頑張ってこい、応援してるぞ!」

「ありがとうございます、じゃ、行ってきますね!」


 ……月夜は苦労人だな。


『1341番、3116番!』

「私も!? うぅ、月夜さんの試合見たかったなぁ……」


 咲も呼ばれてしまったらしい。


「まあ、()()()()()の力なら油断しなきゃ大丈夫だ。他のやつに魅せつけてやれ!」

「あれ、使ってもいいのかな?」

「いいんじゃないか? 一応霊装だしな」


 5年前、咲は霊装を無事に事象化出来ていた。

 戦闘試験のルールに霊装、機械の禁止といった旨は書かれていない。

 より実戦を想定した訓練になっているのだろう。

 身一つでの戦いなら大したことないが、何でもありの実戦なら、咲の能力は異常だ。


「じゃあ行ってくる!」

「ああ、頑張ってこい!」


 そうして、咲と月夜の二人は舞台へと降りていった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「夜さん咲さん、私勝てましたよ!」

「お疲れ様です月夜さん。私も勝てたよ! でも……自分の事だけど、やっぱりあの霊装ずるいと思う」

「二人共お疲れ様」


 試合を終えて戻ってきた二人にジュースを渡す。


「貰っていいんですか!? ありがとうございます!」

「おにいちゃんはやっぱり気が利くね!」


 結局二人共、余裕を持って無事快勝。

 負けたのは俺だけか……

 そこで──


『これで一試合目は終了だ。筆記試験もあったし、一時間の休憩時間をとるぞ。今日は特別に食堂を開放してるらしいから、飯食いたいなら行ってみるといいぞ。流石に頭使って身体動かしたら腹減るだろうしな。二試合目以降でも、全力出せるようにしとけよ』


 1時間か……


「何か食うには丁度良い時間だな。食堂行ってみるか?」

「そうですね、行ってみましょうか」


 俺達は食堂に向かい、空いたお腹を満たす事にした。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ごっはん♪ ごっはん♪」

「咲さん、ご機嫌ですね」

「太るから食いすぎるなよ」

「あれだけ身体動かしたら太らないよ! 失礼なおにいちゃんはこうだ!」


 俺の腹部を頭でグリグリしてくる咲。

 髪が擦れてくすぐったいな。


「従妹さんと仲いいんですね。呼び方もお兄ちゃんですし」

「あ、あぁそういえば。昔から度々会ってたから、今更そう呼ばれる事に違和感は無いな」


 危ない危ない。

 咄嗟にそれらしい言い訳が出てきたから良かったが、俺や咲がこんな調子じゃ咲の正体がバレてしまう。

 すると──


「おにいちゃん♪」

「月夜? どうした? 壊れたか?」

「…………なんでもありませんよーだ!」


 真っ赤に顔を染め、頬を膨らませながらスタスタと先を進んでしまう月夜。

 突然「おにいちゃん♪」なんて、本当にどうしたんだ?

 そして──


「いつまでやってんだ」

「いで」


 事の間、ずっとグリグリし続けていた咲に手刀を落とした。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「はいよ、大盛りにしといたよ!」


 定番のセリフと共に、犬の獣人(人型)のおばちゃんから大盛りのカレーが渡される。


「ありがとうございます」

「いいのよ、午後の試験も頑張ってね!」


 ご飯の購入を済ませ、席に座って食事をする。

 早めに移動したのが良かったようで、ほとんど並ばずに注文する事が出来た。


「お兄ちゃん、早く食べよう!」

「夜さん、早く席に着いてください!」

「先に食べてていいんだぞ?」

「何言ってるんですか! 皆で一緒に食べましょうよ!」


 すっかり購入を済ませた二人が、席に座って手招いている。

 俺も隣に腰を下ろして──


「「「いただきます!」」」


 注文したカレーを、大きく一口口に入れる。


 …………美味っ!

 ほんとに美味いなこれ、普段から良いものを食べてるんだが、それに比べてもこっちのカレーの方が美味い。


「はぐはぐはぐはぐ……」

「咲、お前またそんなに頼んだのか……」


 テーブルの上には大量の料理が置かれ、それを恐ろしい勢いで腹の中に入れる咲。

 そんな勢いで食べているが、何故か米一粒落とさない。

 すごい技術だ。

 何故か全く太らないが、咲はめっちゃ食う。

 咲に二つ名があったとしたら【暴食】(ベルゼブブ)だな。


「ずずずず……」


 それに対し、月夜が頼んだのは『きつねうどん』。

 うどんの啜り方が美しく、巫女服を着ていることも相まって凄く様になっているが──うどんの中身は所作に合っていない。


「月夜、その、中身……」

「だって油揚げ美味しいじゃないですか! 八枚も入れてもらいました!」

「もぐもぐもぐもぐ……!!」

「咲! 落ち着いて食え!」


 まあ、食事は楽しむのが一番だな。

 さて、俺も再びカレーに手を伸ばそうとした所で──皿の上に何かが飛んできた。


 ──芋虫だ。


「おっとぉ!? 人間は虫を食うのかなるほどそういう文化もあると聞いたないや失敬失敬!」


 芋虫が飛んできた方向に視線を向けると、魔族達がこっちを向いて薄ら笑いを浮かべている。

 大方あいつらがやったんだろう。

 あぁ……折角のカレーが。

 ……ちょっとイラッときた。


「芋虫は栄養価高いし食えなくはないが、野生のは毒持ちの場合がある。殺す気か?」

「さて、なんの事だか?」


 騒ぎに気付いたのか、周りがざわつき始める。

 人間が恨まれてはいるのは知っていたし、睨まれるくらいなら別に何とも思わなかった。

 が、ここまでされて反抗しないと、そういう事をしても抵抗しない奴と思われて、今後はもっとエスカレートする。


「はぁ……」

「ちょ、夜さん!?」

「あむあむあむあむ……!!!!」

 

 俺は席を立ち、薄ら笑いを浮かべた魔族の一人を投げ飛ばす。

 え、体幹弱っ! 投げ技ってそんなあっさり決まらないんだが。

 すると──


「あぁぁう! やっぱり人間は暴力的! こんな所に居ていい存在じゃぁーー無いっ! ね、ね! ねぇぇえ!!」


 魔族達はいい餌を見つけたと言わんばかりに、俺に指を指して騒ぎ始める。


 手を出せば騒がれ、手を出さなければ増長させる。

 さてどうしたものか。

 そこで──


「おいおいあんた、そりゃないぜ」

「え、が、ガイア!?」

「ガイア、居たのか」

「おう夜! さっきは世話になったな!」


 ニカッと、笑顔で振り向くガイア。

 ガイアは魔族の方に向かい……何かを耳打ちしているようだ。


(あんたが煽ってた人間、天霧の現当主だぞ)

(あ、天霧ってあの!?)

(あんた……殺されるかもな?)


 ガイアは魔族から離れ、ニヤニヤしはじめる。

 一体何をしたんだ?


「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!」


 そうして、500円玉を置いて逃げていく魔族。

 ……100円足りないんだが。


 どうやって説得したのかは知らないが、取り敢えずガイアに感謝だ。


「助かった、何をしたんだ?」

「なぁに、ちょっと教えてやっただけだ。それより俺と、あとお嬢も、飯一緒していいか?」

「ん、どしたのガイア」

「リンカ様とご一緒!?!?」


 ガイアの影から現れたのは、【月狼(ルナウルフ)】リンカ・ソフィーティア本人だった。


「どうも、私はリン……ふぁぁ」

「こう見えて、お嬢は眠るのが大好きなだけの普通の女子だ」

「ふつーに仲良くしてね……?」


 そうして俺はカレーを買い直し、二人が増えた卓で食事を再開した。

……おやすみ(リンカ)

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