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R.E.M. ―眠る世界へ贈る、目覚めの子守唄―  作者: 天宮夢二
はじまり

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第4話 弥果て《いやはて》の日常

 星結の日まで、

 あと三日。

 

 

 朝から、

 星結神社は騒がしかった。

 

 

 境内では何人もの大人たちが行き交い、

 石段の脇には提灯を吊るすための縄が張られている。

 

 神楽舞台では、

 父たちが太鼓や笛を運び込んでいた。

 

 社務所の軒先には、

 畳まれた幕や箱がいくつも積まれている。

 

 

 蝉の声。

 

 木槌を打つ音。

 

 人を呼ぶ声。

 

 

 夏の音が、

 境内いっぱいに重なっていた。

 

 

「ケータ、それ向こう」

 

「これ?」

 

「そう。舞台の裏」

 

「はーい」

 

 

 ケータは両手で箱を抱え、

 神楽舞台へ向かった。

 

 

 あと三日。

 

 

 それだけで、

 朝からなんとなく落ち着かない。

 

 

 今年は、

 いつもの星結の日とは違う。

 

 十歳になった自分たちが、

 初めて主役になる。

 

 

 星結の日。

 

 

 神様の前で、

 自分の夢を星へと結ぶ日。

 

 

     *

 

 

「けーたん!」

 

 

 境内の向こうから、

 ユキが手を振っていた。

 

 

「おはよー!」

 

「おはよ!」

 

 

 その後ろには、

 とっちゃんもいる。

 

 

「遅いよ」

 

「まだ朝やん」

 

「僕、もう手伝っとるよ」

 

「けーたん家やろ」

 

「それはそうやけど」

 

 

 とっちゃんが、

 神楽舞台を覗き込む。

 

 

「今日も稽古すると?」

 

「するよ」

 

「暑っついのに?」

 

「本番三日後やん」

 

「知っとる」

 

 

 ユキが、

 神楽舞台を見上げた。

 

 

「もうすぐやね」

 

「うん」

 

 

 三人の視線が、

 舞台へ向く。

 

 

 父が、

 太鼓の位置を直している。

 

 

 その姿を見ていると、

 ケータの胸が少しだけ高鳴った。

 

 

     *

 

 

 昼を過ぎた頃。

 

 

 境内へ、

 一台の黒い車が入ってきた。

 

 

 祭りの準備で出入りしている車とは、

 どこか違って見えた。

 

 

「誰やろ」

 

 

 ケータは、

 運んでいた椅子を置いた。

 

 

 車の扉が開く。

 

 

 三人。

 

 

 男が二人。

 

 女が一人。

 

 

 全員、

 黒っぽい服を着ていた。

 

 

 先頭の男が境内を見渡し、

 社務所へ向かう。

 

 

 父が出てきた。

 

 

 男が何かを言う。

 

 父が答える。

 

 

 ここからでは、

 何を話しているのか聞こえない。

 

 

 やがて三人は、

 父と一緒に社務所へ入っていった。

 

 

「知り合い?」

 

 

 ユキが隣に来た。

 

 

「知らん」

 

「神社の人?」

 

「分からん」

 

 

 ケータは、

 閉じた社務所の戸を見ていた。

 

 

 しばらくして。

 

 

 父が一度だけ、

 戸の向こうから姿を見せた。

 

 

 ケータと目が合う。

 

 

「…………」

 

 

 ほんの一瞬。

 

 

 父が、

 何か言いたそうな顔をした。

 

 

 けれど――

 

 

 すぐに戸は閉じた。

 

 

     *

 

 

 夕方。

 

 

 黒い車が、

 境内を出ていった。

 

 

 ケータは、

 石段の上からそれを見送っていた。

 

 

 車が見えなくなった頃、

 父が社務所から出てくる。

 

 

「父ちゃん」

 

「ん?」

 

「あの人たち誰?」

 

 

 父は、

 黒い車が消えた方を見た。

 

 

「仕事関連の人だ」

 

「何の?」

 

「神社の仕事に決まっとろうもん」

 

 

「星結の日と関係あると?」

 

 

 父の足が、

 止まった。

 

 

「…………」

 

 

 振り返る。

 

 

「ケータ」

 

「ん?」

 

「お前は、自分のことだけ考えとけ」

 

「自分のこと?」

 

「三日後」

 

 

 父が笑った。

 

 

「何を言うか、もう決めたのか?」

 

 

「あ……」

 

 

 ケータは黙った。

 

 

「まだか」

 

「だって、一個に決めきらんもん」

 

「そうか」

 

「父ちゃんは十歳のとき、何て言ったと?」

 

 

 父は少し考えた。

 

 

「忘れた」

 

「絶対うそ」

 

「昔すぎる」

 

「父ちゃん、まだそんな歳じゃないやろ」

 

 

 父は笑った。

 

 

「自分で考えろ」

 

「えー」

 

 

 そのまま、

 父は神楽舞台へ戻っていった。

 

 

 ケータは、

 一人でその背中を見送った。

 

 

     *

 

 

 あと二日。

 

 

 あと一日。

 

 

 境内の提灯が増えていく。

 

 松明が用意される。

 

 神楽舞台には幕が張られる。

 

 

 人が増えるたびに。

 

 音が増えるたびに。

 

 

 星結の日が、

 近づいてくる。

 

 

 ケータも毎日、

 神楽の稽古をした。

 

 

 舞って。

 

 間違えて。

 

 もう一度舞って。

 

 

 休憩になると、

 夢のことを考えた。

 

 

 宇宙飛行士。

 

 サッカー選手。

 

 神楽師。

 

 宮司。

 

 医者。

 

 世界中を旅すること。

 

 

「…………」

 

 

 やっぱり、

 一つにはならない。

 

 

 そんなとき。

 

 

 ふと、

 白いものが頭に浮かぶことがあった。

 

 

 長い耳。

 

 黒い服。

 

 小さな帽子。

 

 銀色の時計。

 

 

 それから――

 

 

 たくさんの帽子。

 

 

「…………」

 

 

 何かを、

 教えてもらった気がする。

 

 

 大事なことだった。

 

 

 けれど。

 

 

 思い出そうとすると、

 そこだけが霞んでしまう。

 

 

「……なんやったっけ」

 

 

 答えは、

 とうとう出ないまま。

 

 

 いよいよ星結の日を迎える。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


8/30 19:00 第5話 いよいよ 星結の日を更新予定です

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