第2話 不気味なウサギのアドバイス
ケータが謎のウサギと目が合った。
お互いにびっくりしている様子。
「えっ!?」
「えっ!?」
大岩の前で、
ケータと白いウサギが見つめ合った。
「…………」
「…………」
ウサギはケータを見る。
ケータもウサギを見る。
ウサギが、
そっと右へ一歩動いた。
ケータの視線も右へ動く。
左へ一歩。
視線も左へ。
「…………」
「…………」
「なんでいるの!?」
「それ僕の台詞!」
ウサギが目を見開いた。
「どうやって来たの!?」
「走って」
「走って!?」
「うん」
「どこから!?」
「あっち」
「なんで!?」
「ウサギ追いかけて」
「ウサギって誰!?」
「君!」
「僕!?」
ウサギが自分を指差す。
ケータは頷いた。
「……なんで?」
「なんでって……ウサギがおったけん」
「ウサギがいたら追いかけるの!?」
「だって珍しいやん」
「危ないよ! 知らないウサギについて行っちゃダメって習わなかった!?」
「知らない人やろ、それ」
「ウサギはいいの!?」
「習ってない」
「教育の敗北だね」
「なんでウサギに教育語られないかんと!?」
「…………」
「…………」
ケータは、
改めて目の前のウサギを見た。
白い毛。
長い耳。
黒いタキシード。
小さなシルクハット。
そして、
銀色の懐中時計。
「……ていうか」
「何?」
「喋れるん?」
「…………」
ウサギは懐中時計を開いた。
「あっ、こんな時間」
「いやいやいや」
「では、私はこれで」
「待って待って待って!」
ケータが前に回り込む。
「何?」
「何じゃなくて。喋ったよね?」
「喋ってないよ」
「今喋ってるやん!」
「ウサギが喋るわけないだろう?」
「じゃあ今の誰!?」
「君じゃない?」
「俺!?」
「あっ、こんな時間」
「それで逃げるのやめて!」
ウサギが、
しぶしぶ足を止めた。
「急いでるんだよ」
「どこに?」
「…………」
長い耳が、
ぴくりと動く。
「病院」
「病院?」
「うん」
「具合悪いん?」
「悪い悪い。すごく悪い」
「どこが?」
「耳」
ケータは、
ぴんと立った長い耳を見た。
「元気そうやけど」
「そういう病気」
「どんな?」
「耳が長くなる」
「ウサギだからやろ!」
「そうとも言う」
「そうとしか言わんよ!」
ウサギは、
また懐中時計を見る。
「あっ、こんな時間」
「三回目!」
今度こそ、
ウサギが歩き出した。
ケータもついていく。
「じゃあ、どこから来たん?」
「近所」
「この辺でそんなウサギ見たことないよ」
「昨日、引っ越してきた」
「どこに?」
「…………」
ウサギが大岩を指差した。
「あそこ」
「岩やん」
「新築」
「岩が!?」
「ワンローック」
「ワンルームみたいに言わないで!」
「日当たり良好」
「窓ないやん!」
「ペット可」
「お前がペットやろ!」
「…………」
「…………」
ケータは、
自分の口を押さえた。
「……僕、何の話してるんやろ」
「ほんとだよ」
「お前のせいやん!」
「…………」
「…………」
白いウサギ。
服を着ている。
時計を持っている。
普通に喋る。
よく分からない。
というか、
何一つ分からない。
ケータは考えた。
考えて。
考えて――
「……まあ、いいか」
「いいの!?」
今度は、
ウサギが驚いた。
「だって、おるんやもん」
「君、すごいねー」
「ねえ」
「な、なに!?」
「僕さ、夢いっぱいあるっちゃん」
「唐突に夢!?」
ウサギが目を丸くした。
「君すごいね。この状況で夢語っちゃう系?」
「ずっと考えとったんよ」
「僕は今、君が僕をどう処理したのか考えてたよ」
「母さんは、いくつあってもいいって言っとった」
「じゃあ解決してるじゃない」
「でもさ」
「まだあるの?」
「みんな、一個なんよ」
「…………」
ケータは、
大岩にもたれて腰を下ろした。
「とっちゃんは、プロ野球選手」
「うん」
「ユキは、プロテニス選手」
「うん」
「僕はいっぱい」
「いっぱいねぇ」
「まずは神楽師になりたいでしょ」
「うん」
「サッカー選手にもなりたい」
「うん」
「宇宙にも行きたい」
「うん」
「世界中も旅したいし、医者も――」
「ほんとにいっぱいだね」
「まだあるよ」
「まだあるんだ」
ケータは膝を抱えた。
「一個に決めんでもいいと思うんよ」
「いいんじゃない?」
「でも、星結の日は?」
「…………」
「みんなの前で夢を言わないかん」
「そうなんだ」
「そのとき、僕は何て言えばいいんやろ」
ウサギは黙った。
「全部言ったら長いやろ?」
「長いね」
「まだ増えるかもしれんし」
「もっと長くなるね」
「でも、一個選んだら……」
「…………」
「他の夢は、諦めたことになるんかな」
ウサギは、
何も言わなかった。
「一個選んだら、一個しか持てんのかな」
「…………」
ウサギが、
自分のシルクハットに手をかけた。
ぽん。
帽子を脱ぐ。
その下から――
もう一つ。
「……え?」
それも脱ぐ。
また一つ。
さらに、
もう一つ。
「ちょ、何個あるん!?」
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
ウサギは、
取り出した帽子を宙へ放り投げた。
くるくる。
くるくる。
四つの帽子が、
ウサギの頭上を舞う。
「…………」
ケータは、
目で追った。
くるくる。
くるくる。
やがてウサギは、
一つの帽子を受け取った。
頭に被る。
鏡もないのに、
少しだけ角度を直した。
「これにしよう」
「……何してるん?」
「今日の帽子を選んでる」
「全部同じに見えるけど」
「全然違うよ」
「どこが?」
「これは今日の」
「うん」
「これは明日の」
「うん」
「これは雨の日用」
「全部濡れるやろ」
「…………」
ウサギは残りの帽子を抱え、
ケータから少し遠ざけた。
「どれも僕の帽子だから、あげないよ?」
「いらんよ!」
「そう?」
「そうだよ!」
ウサギは、
不思議そうに首を傾げた。
「帽子も服も、たくさんあるだろう?」
「え?」
「でも毎日、一個選ぶだろう?」
「…………」
ケータは黙った。
たくさん持っていても。
今日着るものは、
一つ選ぶ。
「それって――」
カチッ。
ウサギが懐中時計を開いた。
「あっ、こんな時間」
「…………」
「急がなきゃ!」
ウサギが走り出した。
「…………」
ケータは、
まだ考えていた。
「……あ」
顔を上げる。
もう、
白いウサギはいなかった。
「あっ……行っちゃった」
完全に、
ツッコむタイミングを逃した。
「毎日、一個選ぶ……か」
ケータは、
もう一度大岩にもたれた。
目を閉じる。
今日の夢。
明日の夢。
その次の夢。
「夢も……着替えていいんかな」
少しだけ、
分かったような気がした。
**
「……けーたん」
「…………」
「けーたん」
声がする。
「けーたんってばー」
誰かが、
肩を揺らしている。
「起きてよー!」
「……ん」
ケータは、
ゆっくりと目を開けた。
「……え?」
目の前に――
ユキの顔があった。
キーワード
・謎のウサギ:シルクハットにタキシード、懐中時計を持ったよくわからない不思議なウサギ。
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8/30 第3話を更新予定です
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