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R.E.M. ―眠る世界へ贈る、目覚めの子守唄―  作者: 天宮夢二
旅立ち

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第20話⑤ いざ学校へ

 遠くからサイレンの音が、

 近づいてきた。

 

「来ました」

 

 上野が道路の先へ目を向けると、 

 ほどなくして数台の車両が姿を見せた。

 

 

 停車すると、隊員たちが、

 次々と降りてくる。

 

 

「救助対象、

 確認しました!」

 

 

 上野が。


 すぐに、

 状況を伝える。

 

 

「川中島さん。


 左下腿部に、

 骨折の疑いがあります」

 

 

「疑いじゃないと思う……」

 

 

 玲子先生が。


 地面へ寝たまま、

 呟いた。

 

 

「すっごく痛いもん……」

 

 

 担架が、

 運ばれてくる。

 

 

「先生」

 

 

 ユキが。


 すぐそばへ、

 駆け寄った。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「うん」

 

 

 玲子先生が、

 頷く。

 

 

「痛いけど。


 もう大丈夫」

 

 

 その横から。


 とっちゃんが、

 覗き込んだ。

 

 

「足、

 折れとるん?」

 

 

「……としふみ」

 

 

「はい」

 

 

「今は。


 ちょっと黙ってて」

 

 

「なんで!?」

 

 

 玲子先生が。


 小さく、

 ため息をつく。

 

 

 それから。


 三人を、

 見た。

 

 

「ごめんね」

 

 

「え?」

 

 

「本当は。


 最後に九重にも、

 寄りたかったんだけど」

 

 

 少しだけ、

 申し訳なさそうに笑う。

 

 

「それは。


 また今度ね」

 

 

「うん」

 

 

 ユキが、

 頷く。

 

 

「今日は。


 このまま学校」

 

 

「先生は?」

 

 

 ケータが、

 聞いた。

 

 

「私は。


 このまま学園の病院へ」

 

 

「入院するの?」

 

 

「たぶんね」

 

 

「骨折しとるのに、

 たぶんなん?」

 

 

「としふみ」

 

 

「はい」

 

 

「あとで覚えてなさい」

 

 

「なんで!?」

 

 

 担架が。


 ゆっくり、

 持ち上げられる。

 

 

「じゃあ。


 学校でね」

 

 

 玲子先生が、

 手を振った。

 

 

 三人も。


 手を、

 振り返す。

 

 

 その視線が。


 最後に、

 とっちゃんへ向く。

 

 

「次は。


 絶対、

 寝ないでよ」

 

 

「もう寝んって!」

 

 

「信用ないから」

 

 

「ひどっ」

 

 

 担架が。


 車両の中へ、

 運ばれていった。

 

 

 上野も。


 別の隊員から、

 肩や腕の状態を確認されている。

 

 

 服は、

 ところどころ裂け。

 

 

 頬にも、

 擦り傷。

 

 

 それでも。


 受け答えは、

 いつも通りだった。

 

 

 玲子先生の車も。


 救助側で、

 回収されることになった。

 

 

 三人は。


 夢見学園から迎えに来た職員の車で、

 学校へ向かうことになった。

 

 

     *

 

 

「……なあ」

 

 

 車へ乗る前。


 とっちゃんが、

 言った。

 

 

「俺。


 結局、

 何があったん?」

 

 

 ユキが。


 とっちゃんを見る。

 

 

「……ほんとに。


 何も覚えてないの?」

 

 

「うん」

 

 

 とっちゃんが。


 首を、

 傾げる。

 

 

「寝て」

 

 

「うん」

 

 

「起きたら。


 先生に抱きつかれとった」

 

 

「……」

 

 

「そんで。


 先生の足折れとるし」

 

 

 救助車両。

 

 

 隊員たち。

 

 

 慌ただしく動く、

 大人たち。

 

 

 とっちゃんが。


 周りを、

 見回す。

 

 

「なんで。


 こんな大ごとになっとるん?」

 

 

「なんでじゃないよ!」

 

 

 ユキの声が、

 少し強くなった。

 

 

「とっちゃん。


 全然、

 起きなかったんだよ!」

 

 

「え」

 

 

「先生が呼んでも。


 揺らしても」

 

 

 ユキの手が。


 ぎゅっと、

 握られる。

 

 

「それで。


 先生が助けを呼んで」

 

 

「上野さん?」

 

 

「うん」

 

 

「二人で。


 レム層に入っていった」

 

 

「……」

 

 

 とっちゃんが。


 少しだけ、

 真顔になる。

 

 

「それから?」

 

 

「知らない」

 

 

「え?」

 

 

「だって。


 私たちは、

 ずっとこっちにいたから」

 

 

 ユキが。


 一度、

 ケータを見る。

 

 

 それから。


 また、

 とっちゃんへ向き直る。

 

 

「先生たち、

 全然戻ってこないし」

 

 

 声が。


 少し、

 小さくなる。

 

 

「とっちゃんも。


 ずっと起きないし」

 

 

「……うん」

 

 

「そのうち。


 けーたんまで、

 ぼーっとして」

 

 

 ケータが。


 ユキを見る。

 

 

「俺?」

 

 

「うん」

 

 

「呼んでも。


 返事、

 遅くなるし」

 

 

 ユキの眉が。


 少しだけ、

 下がる。

 

 

「そのまま。


 寝ちゃったみたいになって」

 

 

「……」

 

 

「けーたんまで。


 どっか行っちゃったら、

 どうしようって」

 

 

 そこで。


 ユキが、

 言葉を止めた。

 

 

 しばらく。


 誰も、

 話さない。

 

 

「私」

 

 

 ユキが。


 小さく、

 息を吐く。

 

 

「一人で。


 ずっと待ってたんだから」

 

 

 とっちゃんが。


 何も言わず、

 ユキを見る。

 

 

 さっきまでの。


 いつもの調子が、

 少し消えた。

 

 

「……ごめん」

 

 

 ユキが。


 とっちゃんを見る。

 

 

「もう。


 寝ないでよ」

 

 

「うん」

 

 

「ほんとに」

 

 

「うん」

 

 

 とっちゃんが。


 今度は、

 ちゃんと頷いた。

 

 

 ユキが。


 少しだけ、

 息を吐く。

 

 

 張っていたものが。


 やっと、

 緩んだようだった。

 

 

 そのとき。

 

 

「あ」

 

 

 とっちゃんが、

 言った。

 

 

「そういや」

 

 

「なに?」

 

 

「先生さ」

 

 

 とっちゃんが。


 玲子先生を乗せた車両が、

 走っていった方を見る。

 

 

「俺のこと。


 としふみって、

 呼びよったよな」

 

 

「うん」

 

 

 ユキが、

 頷く。

 

 

「なんか。


 変な感じした」

 

 

「嫌だった?」

 

 

「いや」

 

 

 とっちゃんが。


 首を、

 横に振る。

 

 

「家では。


 トシって呼ばれるし」

 

 

「うん」

 

 

「みんなは。


 とっちゃんやろ」

 

 

「うん」

 

 

「としふみって。


 そのまま呼ばれること、

 あんまないんよ」

 

 

 少しだけ。


 照れくさそうに、

 鼻を擦る。

 

 

「なんか。


 くすぐったい」

 

 

 ユキが。


 さっきまでより、

 少しだけいつもの顔に戻る。

 

 

「としふみ」

 

 

「やめろ」

 

 

「としふみー」

 

 

「やめろって!」

 

 

 ケータが。


 横で、

 笑った。

 

 

     *

 

 

 三人が。


 車へ、

 乗り込む。

 

 

 扉が、

 閉まる。

 

 

 少しして。


 車は、

 日田を離れた。

 

 

 窓の外を。


 川が、

 流れていく。

 

 

 山が。


 少しずつ、

 近くなる。

 

 

 最初のうちは。


 とっちゃんが、

 今日のことを何度か聞いていた。

 

 

 けれど。


 誰も。


 レム層で何があったのかは、

 知らなかった。

 

 

 分かるのは。


 とっちゃんが眠ったこと。

 

 

 玲子先生が、

 助けを呼んだこと。

 

 

 上野が来たこと。

 

 

 二人が、

 レム層へ入ったこと。

 

 

 そして。


 しばらくして、

 全員が戻ってきたこと。

 

 

 それだけだった。

 

 

 やがて。


 会話も、

 途切れた。

 

 

 山道。

 

 

 トンネル。

 

 

 また、

 山道。

 

 

 窓の外に残っていた。


 夕方の色も、

 少しずつ消えていく。

 

 

 ケータが。


 窓へ、

 頭を預けた。

 

 

「眠い?」

 

 

 ユキが。


 すぐに、

 聞いた。

 

 

「……ちょっと」

 

 

「寝ないでね」

 

 

「え」

 

 

「今日は。


 寝ないで」

 

 

 ユキの声が。


 思ったより、

 真剣だった。

 

 

「うん」

 

 

 ケータが。


 姿勢を、

 起こす。

 

 

「起きとく」

 

 

 それを見て。


 ユキが、

 少しだけ安心した顔をする。

 

 

 とっちゃんも。


 それ以上、

 何も言わなかった。

 

 

     *

 

 

 車は。


 山の間を、

 走り続けた。

 

 

 トンネルを、

 いくつも抜ける。

 

 

 暗い山肌。

 

 

 時々。


 遠くに見える、

 家の灯り。

 

 

 車内では。


 いつの間にか、

 誰も喋らなくなっていた。

 

 

 ケータは。


 窓の外を、

 眺めている。

 

 

 ユキも。


 時々、

 ケータの方を見る。

 

 

 とっちゃんは。


 寝ないようにしているのか。


 妙に背筋を伸ばして、

 前を向いていた。

 

 

 しばらくして。

 

 

「まだ着かんの?」

 

 

 とっちゃんが、

 聞く。

 

 

「もう少しですよ」

 

 

 運転していた職員が。


 前を見たまま、

 答えた。

 

 

「日田を出て。


 もう一時間くらいです」

 

 

「そんな乗っとったん?」

 

 

「乗ってたよ」

 

 

 ユキが、

 言う。

 

 

「ずっと起きとったやろ」

 

 

「起きとるけど。


 山ばっかやん」

 

 

 ケータが。


 少し笑う。

 

 

 窓の外は。


 もう、

 すっかり夜だった。

 

 

 さっきまで。


 西の空に残っていた赤も。


 今は、

 ほとんど見えない。

 

 

 車が。


 また一つ、

 坂を上る。

 

 

「この先です」

 

 

 職員が、

 言った。

 

 

 三人が。


 同時に、

 少し身体を起こした。

 

 

 木々が。


 少しずつ、

 途切れていく。

 

 

 そして。

 

 

「あ」

 

 

 ユキが。


 窓へ、

 顔を寄せた。

 

 

 暗い山の中に。


 灯りが、

 見えた。

 

 

 一つ。

 

 

 二つ。

 

 

 その奥にも。

 

 

 大きな建物。

 

 

 道。

 

 

 広場。

 

 

 さらに。


 少し離れた場所にも、

 別の灯り。

 

 

「……学校?」

 

 

 とっちゃんが、

 呟く。

 

 

「学校っていうより。


 町やん」

 

 

「ここに。


 住むんだ……」

 

 

 ユキが、

 小さく言った。

 

 

 ケータは。


 何も言わず、

 その景色を見ていた。

 

 

 夢見学園。

 

 

 ようやく。


 ここまで来た。

 

 

 分からないことは。


 まだ、

 たくさんある。

 

 

 スクネのこと。

 

 

 メアのこと。

 

 

 レム層のこと。

 

 

 母ちゃんのこと。

 

 

 それでも。

 

 

「……強くならんとな」

 

 

 ケータが、

 呟いた。

 

 

「ん?」

 

 

 とっちゃんが、

 見る。

 

 

「母ちゃんを。


 助ける」

 

 

 そのために。


 もっと、

 知らないといけない。

 

 

 もっと、

 強くならないといけない。

 

 

「俺も」

 

 

 とっちゃんが、

 言った。

 

 

「今日みたいなん。


 もう嫌や」

 

 

 ユキが。


 とっちゃんを見る。

 

 

「寝ないようにする?」

 

 

「そこもやけど!」

 

 

 少しだけ。


 三人が、

 笑う。

 

 

 ユキも。


 窓の向こうへ、

 目を戻した。

 

 

「私も」

 

 

「ん?」

 

 

「もっと。


 できるようになりたい」

 

 

 さっきまで。


 一人で待つしかなかった。

 

 

 誰かが。


 戻ってくるのを。

 

 

 ただ。


 信じて待つしかなかった。

 

 

「次は。


 私も、

 ちゃんとできるようになりたい」

 

 

 とっちゃんが。


 二人を見る。

 

 

「じゃあ」

 

 

 にっと、

 笑う。

 

 

「三人で。


 強くなればいいやん」

 

 

「うん」

 

 

「そうだね」

 

 

 ケータも、

 頷く。

 

 

「頑張ろう」

 

 

「おう!」

 

 

「うん!」

 

 

 車が。


 大きな門へ、

 近づいていく。

 

 

 門の向こうには。


 いくつもの灯りが、

 並んでいた。

 

 

 長かった旅の、

 終着点。

 

 

 そして。


 これから始まる場所。

 

 

 夢見学園。

 

 

 ケータたちは。

 

 

 ようやく。


 辿り着いた。


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