閑話 トキハモドル
夢界。
白いウサギは。
大岩の上に、
ちょこんと座っていた。
膝の上には、
懐中時計。
カチ。
カチ。
針が。
静かに、
時を刻んでいる。
「…………」
スクネは。
その針を、
しばらく眺めていた。
「ユメミガクエン、か」
小さく、
呟く。
「よりによって、
あそこに行くんだ」
少しだけ。
嫌そうな顔をした。
「…………」
そして。
もう一度、
懐中時計を見る。
「まあ」
一拍。
「門が閉まるよりは、
いいか」
時計を。
ぱちん、と閉じる。
「それに」
スクネの耳が。
ぴくりと動いた。
「とっちゃんと。
ユキも行くんだ」
「…………」
少しだけ。
口元が緩む。
「それは、
面白そうだ」
ケータ一人なら。
何をするか分からない。
いや。
三人になったところで。
何をするか分からないのは、
変わらない。
「…………」
「むしろ、
増えた分だけ危ないかな」
スクネは。
小さく笑った。
けれど。
その笑みは。
すぐに消えた。
\
*
スクネは。
大岩から、
静かに降りた。
そのまま。
岩の正面へ回る。
「…………」
小さな帽子を。
そっと外した。
胸の前で、
両手に持つ。
耳を伏せ。
背筋を伸ばして。
大岩の前に、
まっすぐ立った。
「…………」
「また」
声が。
少しだけ、
小さくなる。
「救えなかった」
返事はない。
「…………」
「また。
身代わりにしてしまった」
スクネは。
目を伏せた。
「…………」
「ごめん」
深く。
頭を下げる。
「…………」
風も。
音も。
何も、
返さない。
ただ。
大岩だけが。
そこにあった。
しばらく。
スクネは。
頭を下げたまま、
動かなかった。
*
やがて。
ゆっくりと、
顔を上げる。
小さな帽子を。
もう一度、
かぶり直した。
「さて」
いつもの声に、
戻る。
「僕も、
準備しないと」
懐中時計を。
ポケットへしまう。
そして。
白いウサギは。
一度だけ、
大岩を振り返って。
夢界の奥へ、
歩き出した。
本編をお読みいただきありがとうございました!
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