↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R.E.M. ―眠る世界へ贈る、目覚めの子守唄―  作者: 天宮夢二
はじまり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/38

第13話① ユメノカタチ

「はい。

 

 これで話せるわね!」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 三人は、

 玲子を見る。

 

 

 さっきまで。

 

 あれだけ重たい話をしていた人とは、

 思えない笑顔だった。

 

 

「……そんな変わる?」

 

 

 ケータが言う。

 

 

「変わるわよ」

 

 

 玲子は、

 三枚の願書をぱん、と揃えた。

 

 

「さっきまでのあなたたちは、

 一般人」

 

 

「今は?」

 

 

「夢見学園の入学予定者」

 

 

「…………」

 

 

「その差、

 でかいと?」

 

 

「ものすごく」

 

 

 玲子は、

 願書を紙袋へしまった。

 

 

「じゃあ」

 

 

 三人を見る。

 

 

「どこから聞きたい?」

 

 

「全部」

 

 

 ケータが、

 即答した。

 

 

「欲張りね」

 

 

「だって。

 

 話せるようになったんやろ?」

 

 

「まあ、

 そうなんだけど」

 

 

 玲子は、

 少し考える。

 

 

「じゃあ。

 

 一番最初からいこうか」

 

 

     *

 

 

 玲子は、

 鞄の中から四枚の札を取り出した。

 

 

「何それ?」

 

 

「ちょっと待ってね」

 

 

 部屋の四隅へ、

 一枚ずつ。

 

 

 柱に。

 

 

 壁に。

 

 

 襖の脇に。

 

 

 ぺた。

 

 

 ぺた。

 

 

「…………」

 

 

「お札?」

 

 

「半分正解」

 

 

 最後に。

 

 

 玲子は、

 掌ほどの黒い機械を机へ置いた。

 

 

 ――ピッ。

 

 

 小さなランプが、

 灯る。

 

 

 次の瞬間。

 

 

 外から聞こえていた蝉の声が、

 少しだけ遠くなった。

 

 

「簡易結界」

 

 

「結界!?」

 

 

「盗み聞きも。

 

 録音も。

 

 夢側からの覗き見も。

 

 とりあえず、

 これで防げる」

 

 

「お札なのに、

 機械使うん?」

 

 

「令和だからね」

 

 

「そういう問題?」

 

 

     *

 

 

「まず」

 

 

 玲子が、

 机の上に一枚の紙を置いた。

 

 

 そして。

 

 

 鉛筆で、

 横に一本線を引く。

 

 

「あなたたちが、

 普段暮らしている世界」

 

 

 線の上に、

 小さく文字を書く。

 

 

 ――醒界(せいかい)。

 

 

「醒界。

 

 現実世界のことね。

 

 これは分かる?」

 

 

「うん」

 

 

「で」

 

 

 その下に、

 もう一本。

 

 

 線を引く。

 

 

「こっちが、

 夢界(むかい)」

 

 

「夢界……」

 

 

 ユキが、

 小さく繰り返す。

 

 

「人が眠っている時。

 

 意識は、

 完全に止まってるわけじゃない」

 

 

「夢見るけん?」

 

 

「そう。

 

 でも。

 

 あなたたちは、

 寝ている時に見た夢を覚えてない」

 

 

「…………」

 

 

「そういえば」

 

 

 とっちゃんが、

 眉を寄せる。

 

 

「俺、

 夢見た記憶ないかも」

 

 

「わたしも」

 

 

 ユキも、

 頷く。

 

 

「それが普通。

 

 一晩に、

 いくつもの夢を見てると言われてるけど。

 

 ほとんどは、

 起きた時には残らない」

 

 

「…………」

 

 

 玲子は、

 醒界と夢界。

 

 二本の線を見る。

 

 

「でも。

 

 実際には、

 この二つがいきなり接してるわけじゃない」

 

 

「まだあると?」

 

 

「ある」

 

 

 玲子が、

 二本の線の間に。

 

 

 もう一本、

 線を引いた。

 

 

 ――レム層。

 

 

「レムそう?」

 

 

「そう。

 

 醒界と夢界が、

 重なり合う中間層」

 

 

「レム睡眠の、

 レム?」

 

 

「そう。

 

 夢と深く関わる場所だからね」

 

 

「…………」

 

 

「現実でもあって。

 

 夢でもある。

 

 どっちにも近くて。

 

 どっちでもない」

 

 

「なんか、

 ややこしい」

 

 

「ややこしい場所なの」

 

 

 玲子が、

 レム層の線を鉛筆で軽く叩く。

 

 

「昔の人も。

 

 この境目を、

 なんとなく感じてたんだと思う」

 

 

「昔から?」

 

 

「うん」

 

 

 玲子が、

 指を一本立てる。

 

 

「例えば。

 

 逢魔時(おまがとき)」

 

 

「おうまがとき?」

 

 

「夕方。

 

 昼と夜の境目」

 

 

 もう一本。

 

 

「丑三つ時」

 

 

「夜中やろ?」

 

 

「そう。

 

 人ならざるものが現れる時間だとか。

 

 魔物や妖怪の時間だとか。

 

 昔から、

 いろんな言い方をされてきた」

 

 

「じゃあ。

 

 妖怪って……」

 

 

 ユキが聞く。

 

 

「そう」

 

 

 玲子が、

 頷く。

 

 

「昔話に出てくる。

 

 お化け。

 

 妖怪。

 

 物の怪の類」

 

 

 一拍。

 

 

「そう呼ばれてきたものの中には。

 

 夢害や、

 バクだったものも多いと思う」

 

 

「妖怪が、

 バク?」

 

 

「全部じゃないよ」

 

 

「全部じゃないんや」

 

 

「そこは大事」

 

 

 玲子が、

 鉛筆をとっちゃんへ向ける。

 

 

「昔の人が理解できなかったものを。

 

 全部、

 バクだったってことにはできないからね」

 

 

「…………」

 

 

「でも。

 

 夢から漏れ出した何かを見て。

 

 妖怪だ。

 

 お化けだ。

 

 って考えた人は、

 たくさんいたと思う」

 

 

「じゃあ」

 

 

 ケータが聞く。

 

 

「神隠しとかも?」

 

 

「それもある」

 

 

 玲子の声が、

 少しだけ落ち着く。

 

 

「レム層に迷い込んで。

 

 そのまま夢界まで、

 行ってしまった」

 

 

「…………」

 

 

「そんな話が。

 

 神隠しとして残ってる例も、

 かなりあると思う」

 

 

「帰ってこれんと?」

 

 

「帰れることもある」

 

 

「じゃあ、

 帰れんことも?」

 

 

「ある」

 

 

「…………」

 

 

「帰ってきたら。

 

 何日も経ってたとか。

 

 逆に。

 

 本人には、

 ほんの少ししか経ってないとか」

 

 

「…………」

 

 

 ケータは、

 何も言わなかった。

 

 

 時間。

 

 

 夢界。

 

 

 白いウサギ。

 

 

 頭の中で。

 

 

 いくつかのものが、

 静かにつながる。

 

 

 でも。

 

 

 玲子先生には、

 まだ話していない。

 

 

     *

 

 

「で」

 

 

 玲子が、

 紙に大きな丸を描く。

 

 

「人は。

 

 眠っている間に。

 

 見たもの。

 

 聞いたもの。

 

 感じたもの。

 

 考えたもの。

 

 いろんなものを整理する」

 

 

「…………」

 

 

「ときには。

 

 実際には起きなかったことまで、

 混ざる」

 

 

「起きなかったこと?」

 

 

「例えば。

 

 今日、

 右に曲がったけど。

 

 左に曲がってたらどうなっただろう、

 とか」

 

 

「そんなのも夢になると?」

 

 

「なることはある」

 

 

 玲子が、

 丸の中に。

 

 

 ぐちゃぐちゃと、

 いくつもの線を書く。

 

 

「そうやって。

 

 脳の中で作られた夢が。

 

 夢の側だけに収まってれば、

 問題はない」

 

 

 一本。

 

 

 線が。

 

 

 丸の外へ、

 はみ出す。

 

 

「でも。

 

 ときどき漏れる」

 

 

「漏れる?」

 

 

「人が見た夢が。

 

 夢界から。

 

 レム層へ。

 

 そして、

 醒界側へ」

 

 

「…………」

 

 

「それによって起きる。

 

 災害や異常をまとめて」

 

 

 玲子が、

 紙に書く。

 

 

 ――夢害(クラディス)。

 

 

「クラディス……」

 

 

 ケータが、

 小さく繰り返す。

 

 

「そう」

 

 

「じゃあ。

 

 バクは?」

 

 

 玲子が、

 漏れ出した線の先に。

 

 

 四本足の、

 何かを描いた。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「これが。

 

 夢獣(バク)」

 

 

「先生」

 

 

「なに?」

 

 

「それ、

 恐竜?」

 

 

「犬!」

 

 

「どこが!?」

 

 

「四本足でしょ!」

 

 

「おぞましい……」

 

 

「絵はいいの!」

 

 

 玲子が、

 紙をくるっと自分の方へ引き寄せる。

 

 

「夢害の中でも。

 

 漏れ出した夢が。

 

 獣や生き物みたいな姿を持って。

 

 自分で動き始めたもの」

 

 

 恐竜にしか見えない犬を、

 鉛筆の先でとんとん叩く。

 

 

「それが、

 夢獣」

 

 

「じゃあ」

 

 

 ケータが、

 あの日を思い出す。

 

 

「白い犬も?」

 

 

「そう」

 

 

「誰の夢なん?」

 

 

「そこまでは、

 分からない」

 

 

「分からんと?」

 

 

「夢に、

 名前札はついてないからね」

 

 

「…………」

 

 

「ただ。

 

 姿とか。

 

 動き方とか。

 

 何をしようとしてたかとか。

 

 そういうので。

 

 ある程度は、

 推測できる」

 

 

「白い犬なら?」

 

 

「たぶん」

 

 

 玲子が、

 さっき描いた恐竜を見下ろす。

 

 

「もふっとバンクの。

 

 お父さん犬じゃないかな」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「あれ?」

 

 

「うん。

 

 テレビとか。

 

 広告とか。

 

 街中とかで見る。

 

 しゃべる白い犬」

 

 

「…………」

 

 

「例えば。

 

 あれを初めて見た子供が。

 

 しゃべる犬って何だろう、

 とか。

 

 ずっと気になってたとか」

 

 

「…………」

 

 

「犬なのにしゃべる。

 

 人みたいに振る舞う。

 

 そういう。

 

 その日に見た変な情報を」

 

 

 玲子が、

 自分の頭を指で軽く叩く。

 

 

「寝ている間に。

 

 脳が整理してたのかもしれない」

 

 

「それが漏れた?」

 

 

「たぶんね」

 

 

「じゃあ。

 

 本人も。

 

 白い犬の夢を見たって、

 思ってないと?」

 

 

「そもそも。

 

 起きた時には、

 覚えてないからね」

 

 

「…………」

 

 

「見たもの。

 

 聞いたもの。

 

 気になったもの。

 

 欲しかったもの。

 

 怖かったもの」

 

 

 一つずつ。

 

 

 玲子が、

 指を折る。

 

 

「そういうのが混ざって。

 

 夢になる」

 

 

 そして。

 

 

 恐竜みたいな犬を、

 また鉛筆で指す。

 

 

「その夢の一部が。

 

 漏れ出して。

 

 勝手に動き始めた」

 

 

「それがバク」

 

 

「そう」

 

 

「じゃあ」

 

 

 ケータが、

 少しだけ眉を寄せる。

 

 

「あの。

 

 白い服着た。

 

 首のない医者みたいなのも?」

 

 

「夢獣」

 

 

「誰の夢?」

 

 

「それも、

 分からない」

 

 

「また?」

 

 

「だから。

 

 名前札はないの」

 

 

「じゃあ、

 何の夢?」

 

 

「推測ならできる」

 

 

 玲子が、

 また紙に絵を描き始める。

 

 

「例えば。

 

 医者になりたい人」

 

 

「子供?」

 

 

「かもしれないし」

 

 

「大人?」

 

 

「医大受験生とか」

 

 

「受験生?」

 

 

「医者になりたい。

 

 人を治したい。

 

 試験に受かりたい。

 

 白衣を着たい。

 

 そういうものが」

 

 

 さらさら。

 

 

 紙の上に。

 

 

 白衣らしき、

 何かができあがる。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「先生」

 

 

「なに?」

 

 

「それ、

 クラゲ?」

 

 

「白衣!」

 

 

「おぞましい……」

 

 

「話を聞きなさい!」

 

 

 玲子が、

 鉛筆で紙を叩く。

 

 

「そういう。

 

 いろんな情報や感情が。

 

 寝ている間に混ざって。

 

 変な形になって。

 

 漏れ出したのかもしれない」

 

 

「じゃあ。

 

 なんで首ないと?」

 

 

「そこは知らない」

 

 

「知らんの!?」

 

 

「夢なんだから。

 

 何でも理屈通りになると思わないで」

 

 

「…………」

 

 

 とっちゃんが、

 腕を組む。

 

 

「じゃあ。

 

 バクって悪いやつやないと?」

 

 

「悪いとか。

 

 良いとかじゃない」

 

 

「でも。

 

 襲ってくるやつもおるやん」

 

 

「いる」

 

 

「壊すやつも?」

 

 

「いる」

 

 

「じゃあ悪いやん」

 

 

「違う」

 

 

 玲子が、

 恐竜みたいな犬と。

 

 

 クラゲみたいな医者を、

 指で示す。

 

 

「壊したいって夢なら。

 

 壊す」

 

 

「…………」

 

 

「逃げたい夢なら。

 

 逃げる」

 

 

「…………」

 

 

「守りたい夢なら。

 

 守る」

 

 

「…………」

 

 

「治したい夢なら。

 

 治そうとすることだって、

 ある」

 

 

「治すバクもおると?」

 

 

「いるかもしれない」

 

 

「かもしれない?」

 

 

「夢なんて。

 

 何が出てくるか、

 分からないもの」

 

 

 玲子が、

 鉛筆を置く。

 

 

「バクは。

 

 自分が悪いことをしてるなんて、

 思ってない」

 

 

「…………」

 

 

「ただ。

 

 生まれた夢のまま。

 

 自由に動いてるだけ」

 

 

「…………」

 

 

 ケータは。

 

 

 あの日の。

 

 

 白い犬を、

 思い出す。

 

 

 白衣の異形を、

 思い出す。

 

 

 そして。

 

 

 鳥居よりも高かった、

 黒い獣を思い出す。

 

 

「じゃあ。

 

 あの黒いウサギも?」

 

 

「…………」

 

 

 玲子の手が、

 少しだけ止まった。

 

 

「夢獣ではある」

 

 

「ではある?」

 

 

「うん」

 

 

「何の夢なん?」

 

 

「それは……」

 

 

 一度。

 

 

 玲子が、

 言葉を切る。

 

 

「分からない」

 

 

「…………」

 

 

「少なくとも。

 

 あれは。

 

 普通の夢獣とは、

 少し違う」

 

 

「…………」

 

 

「そこは。

 

 私も、

 まだ調べてるところ」

 

 

「先生でも、

 分からんことあるんや」

 

 

「あるよ」

 

 

「いっぱい?」

 

 

「いっぱい」

 

 

「…………」

 

 

「だから。

 

 研究してるの」

 

 

     *

 

 

 気づけば。

 

 

 机の上には、

 玲子が描いた何枚もの線と文字。

 

 

 醒界。

 

 

 レム層。

 

 

 夢界。

 

 

 夢害。

 

 

 夢獣。

 

 

 そして。

 

 

 恐竜みたいな犬。

 

 

 クラゲみたいな医者。

 

 

「…………」

 

 

 昨日まで。

 

 

 知らなかったことばかりだった。

 

 

 けれど。

 

 

 あの日。

 

 

 自分の目の前で起きたことが。

 

 

 少しずつ。

 

 

 言葉になっていく。

 

 

 夢の世界。

 

 

 その間にある場所。

 

 

 そこから漏れ出す。

 

 

 誰かの夢。

 

 

 形を持って。

 

 

 自由に動き出したもの。

 

 

「…………」

 

 

 ケータは。

 

 

 紙の端に描かれた、

 恐竜みたいな犬を見る。

 

 

「先生」

 

 

「なに?」

 

 

「やっぱこれ、

 犬には見えんよ」

 

 

「まだ言う!?」

 

 

「…………」


 ケータは。


 恐竜みたいな犬と。


 クラゲみたいな医者を、

 もう一度見る。


「俺、

 先生のバクは見たくないな」


「どういう意味!?」


 玲子の声が。


 簡易結界の中に、

 響いた。


本編をお読みいただきありがとうございました!

ついに、この世界の構造が見えてきました。

現実(醒界)↔︎レム層↔︎夢界

夢を見るこのない現実世界で起きる夢の世界の影響。

レム層とはなんなのか?

謎は深まるばかりです。


もし「面白い!」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら、画面をもう少しだけ下にスクロールしたところにある……

【☆☆☆☆☆】

の星マークを、お好きな数(最大5つ!)ポチッとタップして応援してもらえると、執筆のモチベーションが爆上がりします!

ブックマークでの応援も、あわせてぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。