第1話 特別な日常-前編
作者どきどきの本編スタートです
1話は全編後編の二部構成になっております
感想などいただけましたら、とても励みになります。
ジリリリリ――
世界が眠るなか、
ケータは興奮気味に布団から這い出した。
窓の外には、
夜の気配と曙の光が溶け合う空。
ケータは大きく背伸びをすると、
スマホを手に取った。
スポーツニュースを巡る。
『もふっとバンク、リーグ三連覇!』
『アワスパ、悲願の初優勝!』
どこを見ても、
そんな見出しで溢れていた。
「……最高やったなあ」
野球もサッカーも優勝。
福岡の街は、
夜遅くまで盛り上がったらしい。
ケータは両方の試合のダイジェストを見始めた。
*
ケータはヒーローインタビューに応える。
「今のお気持ちは?」
「最高です!」
「優勝の決め手は?」
「やっぱり、俺の――」
**
ジリリリリ――
ケータは目覚ましを止めた。
窓の外を、もう一度見上げる。
東雲の空が、
赤みを帯びはじめていた。
今日は夏休みの登校日。
ケータはスマホに視線を戻すと、
天気予報を開いた。
今日。
明日。
明後日。
指で送って――
一週間先。
「あ……」
「ケータ、そろそろご飯食べなさい」
母が部屋を覗いた。
「ねえ、母さん。来週、晴れ時々雨だって」
「来週?」
「星結の日。夜、晴れるといいなあ」
「あら、本当ね。母さん、てるてる坊主でも作ろうかしら」
「いいね。俺も晴れるように祝詞あげてみようかな」
「神様にお天気までお願いするの?」
「だって今年は特別なんだよ!」
ケータは、さっき見つけた記事を開いた。
画面いっぱいに、
夜空を駆ける無数の流れ星。
「ペルセウス座流星群! 今年の星結の日、ちょうど極大なんだって!」
「あら。それはすごいわね」
「でしょ? 流れ星がいっぱいなら、お願いもいっぱいできるよね!」
「そんなにお願いがあるの?」
「いっぱいあるよ」
ケータは指を折った。
「宇宙飛行士になりたい!」
「あら。じゃあ未来の宇宙飛行士さんね」
「あと、サッカー選手!」
「サッカー選手も?」
「神楽もずっとやりたい!」
「それは知ってます」
「父ちゃんみたいな宮司にもなりたいし、お医者さんもいいなあ」
「あらあら」
「あと、世界中にも行きたい!」
「ふふ。欲張りねえ」
「……ダメ?」
母は少しだけ目を丸くした。
「どうして?」
「多すぎるかなって」
「ケータの夢でしょう?」
「うん」
「だったら、いくつあってもいいじゃない」
母は笑った。
「母さんは、全部応援するわ」
「じゃあ、もっと増えてもいい?」
「それは流れ星と相談しなさい」
「流星群だから大丈夫!」
「そうでした」
母が笑う。
「でも、そのたくさんの夢を叶える前に――朝ごはん」
「あ」
「冷めちゃうわよ」
「はーい!」
*
大きな銀杏の木の下には、
子どもたちが集まっていた。
「お、けーたん」
大柄なとっちゃんが手を上げる。
「とっちゃん、おはよー」
「おう」
「いやー、昨日はすごかったねー」
「何が?」
「もふっとバンク! 優勝決まったやん」
「……は?」
「アワスパも!」
「けーたん」
「ん?」
「まだ八月やん」
「…………」
「優勝決まるわけないやん?」
「……あれ?」
とっちゃんが怪訝そうな顔をする。
「つうか昨日、どっちも負けたやん」
「え?」
「負けた。両方」
「…………」
ケータは首を傾げた。
確かに見た。
もふっとバンクが優勝して。
アワスパも優勝して。
あんなに嬉しかったのに。
「……じゃあ、あれ何やったんやろ」
「知らん。寝ぼけとったっちゃない?」
「寝ぼけ……てるかなあ」
なんだか、
変な感じがする。
「つうか、宿題終わったんか?」
「終わったよ。とっちゃんは?」
「終わったよー」
「自由研究も?」
「……お? おう……そ、そうそう! 自由研究をやらんかったらどうなるか研究するっちゃん」
「それ、やってないだけやん」
「違う。今日から実験開始」
「先生に怒られるよ?」
「それも研究結果に入る」
「絶対怒られるやつやん」
「研究やけん仕方ない」
「知らんよー」
「けーたん、おはよー!」
ユキが元気よく手を振った。
「おはよ!」
久しぶりに揃った登校班は、
そのまま学校へ向かった。
田んぼを抜け、
橋を渡り、
川沿いを歩く。
蝉は朝からうるさい。
真っ青な空には、
大きな入道雲。
今日も暑くなりそうだった。
*
先生が黒板に大きく四文字を書いた。
――星結の日。
「来週はいよいよ星結の日だ」
教室がざわついた。
「知っての通り、この辺りじゃ十歳になった子供は、星結の日に自分の夢を発表する」
「まだ決まってませーん」
「知らん。来週までに決めろ」
「えー!」
教室に笑い声が広がった。
「一般には『十歳の祝い』と呼ばれるものだな。最近じゃ二分の一成人式とか、ハーフ成人式なんて呼ぶところもある。この辺りでは、昔から星結の日だ」
先生は黒板を軽く叩いた。
「伝統行事だ、文化だって言えばそれまでなんだがな。大人になる前に、自分の夢を言葉にするってのは大事なことだ」
先生は黒板に、
「夢を持て」と書いた。
「思ってるだけじゃなく、自分の口で『こうなりたい』と言ってみる。そうすれば、自分がどこへ行きたいのか、少しは見えてくるかもしれん」
「先生は何になりたかったと?」
「先生」
「うそやん!」
「なんでだよ!」
教室が笑う。
「それから、星結の日はケータんとこの神社で――」
先生がケータを見る。
「…………」
「ケータ?」
「…………」
「おーい、ケータ」
「……はっ!」
顔を上げると、
教室中がこちらを見ていた。
「けーたん寝てた!」
「うそ!」
「珍し!」
教室が一気にざわついた。
「俺、寝とった?」
「寝とった寝とった」
とっちゃんが笑う。
ユキは不思議そうにケータを見ていた。
「けーたんが授業中寝るとか、珍しいね」
「……なんか眠くて」
「ケータが居眠りするとか珍しかねー。今日は大目に見てやるけん、起きとけよ」
先生も少し不思議そうだった。
「具合悪くなったら言えよ。それと、お前んちの行事やけん俺より詳しいかもしれんが、ちゃんと聞いとけ」
「はい。すみません」
「星結の日には、ケータの家の神社で神楽を舞って、神様をお招きする。そして、お前らが口にした夢を聞いていただく」
「神様、本当に来ると?」
「先生には見えん」
「じゃあ来んやん!」
「見えんけんって、おらんとは限らんだろ」
また笑いが起こる。
「昔から、この日に口にした夢は空の星と結ばれ、神様に届くと言われとる。やけん――星結の日って言うと」
先生は教室を見渡した。
「来週までに考えとけよ。自分が何になりたいのか」
8/28 19:00に2話後編を更新予定しています
key word
・星宮ケータ(けーたん):真面目で夢が多い。星見宮の跡取り息子でこの物語の主人公
・雅楽川トシフミ(うたがわ,としふみ,とっちゃん):ケータの幼馴染で神楽では太鼓や笛など担当する大柄な少年
・高津ユキ(ユキ):ケータの幼馴染で神楽を手伝ってくれる元気で活発な女の子。
・星結の日:十歳になった子供たちが将来の夢を語り、星に結ぶことで夢が叶うと言われている。ケータが住む街の伝統行事




